完結R18 外れガチャの花嫁 

にじくす まさしよ

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38 albus magia─アルブス マギーア ②

 初めてだ。魔法を使うことが、こんなにも心と体が踊るかのように高揚するだなんて。

 ユーカリ本体に入っているお母様バグを見つけ出して修正する。一文字でも間違えるわけにはいかない。長い配列の術式を心の中で刻んでいく。今まで、術式を計算しておこすことに、こんなにも緊張しただろうか。

8-tlkg9ejrh6j5kutkfhr6b4dr.ユーカリの木よ。今すぐお前のバグフィックスを行使する

 少しずつ、一文字一文字をベースの術式に組み込んでいく。まだだ。まだまだ。あと1万文字。あと8000。

wfzhtedデバック開始

 異物を取り除くための文字列を構築するごとに、金色の光だけが分離していった。

 すべての金を集め終えると、次は再構築だ。失われた錬金術でも、人体を破壊して再構築するのは不可能で、出来たとしても欠陥品かホムンクルスという人造人間だったらしい。

(わたくしは、失敗しない。そのために、勉強を誰よりも頑張ったんだもの。失敗するわけにはいかない。わたくしが会いたいのは、人間のようなものでも、ホムンクルスでもない。なのだから!)


 刹那なのか、それとも永遠だったのか。時の感覚すら消えて、世界が、わたくしという存在すらなくなる。わたくしにあるのは、もう金色の光だけだった。


6t3x43 jwwgw6,tecdw0qd6qgd/wお母様、今すぐ出てきてそしてわたしを抱きしめて

 すさまじい魔力の奔流がわたくしを襲う。その力のまま、わたくしの体が吹き飛んだ。このまま、どこに体が行くのだろうか。でも、先ほどの魔法のせいで、やけに現実味がなく、怖くもなんともなかった。
 指先の力すら入らず、ぼんやりと、これからどうなるのかなぁなんて、のんきなことを考えていた。

「アイリスッ!」

 わたくしの名を呼ぶ人がいる。そうだ、そうだった。彼がいる限り、わたくしの体に、痛みを伴う衝撃など一切こない。ふわっと、完成の法則など無視したかのように、彼の胸と腕の中にすっぽり納まった。

(この人は、誰だったかしら?)

「あ、ありがとうございます?」

 頭がぼんやりして、夢の中にいるみたい。良く知っているはずなのに、なかなかこの人のことを思い出せなかった。

「アイリス、大丈夫か? 俺がわからないのか? ま、まさか、あまりの衝撃で記憶喪失になったのか?」
「あ……。記憶……? えーと、そうじゃなくて、ジョアン?」

 わたくしの便りない言葉を聞いて、ジョアンは泣きそうな顔でぎゅうぎゅう抱きしめてきた。ちょっと苦しい。でも、嬉しくてされるがままになった。

「アイリス、アイリス……。さっき、お前の体が太陽の光そのものになっちまったかと思うくらい輝いたんだ……。良かった、無事でよかった……」
「ひかりに?」

 もしかして、わたくしのほうが消えかかっていたのかと思うとぞっとした。それと同時に、さっき使った魔法が成功したかどうか、お母様が無事なのかが心配になり叫んだ。

「あ! ジョアン、お母様は? 魔法は、成功したの?」

 思えば、ものすごいイチかバチかの賭けをしたものだ。失敗していれば、お母様は……

 わたくしが、ジョアンにすがって必死に問いかけていると、背後から優しい声がした。その声は、初めて聞くものだけれど、なんだか懐かしい。

「アイリス……アイリス、なのね?」

 わたくしは、早くその姿を確かめたくて、でも、体が思うように動かなくてもどかしくなった。ジョアンが、わたくしを連れて、その声の持ち主のところに向かう。

 まだぼんやりしている。でも、わたくしの目には、金色の髪をした、わたくしと同じヘーゼルの色の瞳のきれいな女性が立っていた。

「おか、さま?」

 お母様とあの人は同じ年齢だったはず。だから、お母様は30代後半のはずだ。なのに、目の前の人は、20そこそこに見えた。

「アイリスなのね! ああ、顔をもっとよく見せて……!」

「えーと、おねえさま? ですか?」

「何を言っているの。わたくしは、あなたの姉じゃなくて母親。あなたが、ユーカリの木から助けてくれたんじゃないの」
「ええええっ?」

 どこからどう見ても、同年代のきれいな女性にしか見えず戸惑う。若く見える人もいるけれど、まるで時が止まっていたかのように何もかもが若い。

「おそらく、ユーカリの木に閉じ込められている間は、不死ではないが、不老なのかもな」
「あら、その声と髪の色は、アルカヌムおにいさま? ……あらまぁ、……老けましたわね。アイリスが大きくなるはずだわ」
「あいかわらず失礼なやつだ。全く、私がどれほど心配したか、わかってないだろう?」
「だって、わたくしにとっては、今から赤ちゃんのアイリスを連れて出ていくところですもの。あ、叔父様もお久しぶり。お元気そうで何よりです」
「ははは、なんともまあ。色々話したいことがあるが、ひとまず、お前が無事ならそれでいい」

 母子の対面なのに、なんだか実感がない。本当にこの女性がお母様なのか、ピンとこないせいだろうか。

 でも、おじい様やアルカヌム様の様子を見ると、本当にお母様みたい。

「アイリス……抱きしめてもいいかしら?」

 おじい様たちとの挨拶を済ませたお母様が、両手を広げている。わたくしは、どうしたらいいのかわからず、ジョアンを見上げた。

「アイリス。ほら、お前が一番望んでいた家族たからものだぞ。抱きしめてもらってこい」
「ええ!」

 わたくしは、ジョアンに下ろしてもらい、彼女に近づいた。さっき、魔法を使ったせいか、足が子鹿のようにぷるぷるしていて、バランスが崩れる。

「アイリス、わたくしの子。ああ、小さなころから、大きくなるまでわたくしが育てたかった!」

 ふわっと、ジョアンとは違うとても柔らかな胸で受け止められる。背の高さは、お母様のほうが少し上のようだ。

「おかあさま」
「ええ」
「おかあさま、おかあさま!」

 わたくしは、ぼろぼろ涙が出るのを止めることができなかった。みっともなく、子供のようにぎゃんぎゃん泣くわたくしを、お母様は優しく抱きしめてくれていたのだった。

「馬鹿な……なんで、お前がここにいるっ!」
「侯爵様、これは。前妻が敷地内にいたのなら、カーソ様とのご結婚が無効になり、全ての権限なくなるではないですか! 行方不明になり10年消息が不明だから前妻の死亡が公に認められたんですよね? 正妻が無事で、アイリスも生きているのなら、後継者もアイリスに戻されるんじゃ?」
「うるさい、うるさいうるさい。あいつが悪いんだ。浮気をして、行方不明になったあいつが! ぎゃっ!」
「ぎゃぁつ! やめろ! なんだって俺まで!」
「うるせぇな。感動の母子の対面を邪魔すんな」

 落ち着く間もなく、耳障りな二種類の音が、わたくしたちの邪魔をする。ジョアンが、そちらに向かい、体を蹴飛ばしながら転がした。

 あの人たちは、ユーカリの木で縛られていた。太い幹がまるでロープのように絡まっていて、身動きできなさそう。

「こいつら、邪魔だから運んどく。執務室でいいか?」
「ええ、お願い。あ、お母様、彼はジョアンと言って、わたくしの婚約者なんです」

 わたくしは、ジョアンをお母様に紹介した。

「まあまあ。娘にこんなにも頼もしい婚約者ができていたなんて。ふふふ、もっといっぱい聞きたいわ。でも、やることが山積みのようね。詳しい話はあとで聞かせてね?」
「はい」

 ジョアンが、ふたりをかかえて執務室に運んだ。お母様たちも、執務室に向かう。

 わたくしも一緒に行きたかったけれど、疲れただろうからと、客室のふかふかのベッドに無理やり寝かされた。

 魔法を使ったこと、お母様を助け出せたこと、いろんなことがありすぎて、全然眠れそうにない。しばらくすると、ドアがノックされた。そこにいたのは、わたくしを毛嫌いして、一番いじめてきた侍女長だった。





※キーボード配列の、日本語の文字と照らし合わせると、あのような文字列になります。
普段、ローマ字打ちなので、ひとつずつ探して打ち込むのに、たったこれだけで30分以上かかりました(;´Д`)
頭がパンクしそうだったので、「を」とか「濁音」とか諦めました。もういやだ。二度と日本語打ちなどするものかと、どこかの田舎者がコーヒーをがぶ飲みしたとかなんとか。
パソコン自作したり、ノートパソコンの裏蓋あけてメモリーぶっさしたりするほうが楽しいですね。
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