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令和の時代に昭和でもありえない漫画かよってツッコミ入りそうな誰も信じてくれないシチュエーション
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電動自転車なんて高くて買えない。あれは、超金持ちのマダムや、金持ちの子供専用の乗り物だ。一人暮らしの薄給OLには、リサイクルチャリショップの8000円で買ったチャリでも贅沢品。
ワンルームの築45年のアパートはセキュリティの6文字などあってないに等しい。
給料が安いのに、拘束時間はやたらと長いし、ホッと一息つく間もなく次から次へと仕事が押し付けられる。昨日もおとといも、入社してからずっと帰りは22時すぎなら早い方で、出勤は朝の8時にはついていないと間に合わない。
駅に行くまでの距離と時間すら勿体ない。チャリのほうがトータル速いし、徒歩の道中、痴漢出現ポイントもあるから安全だ。現に、一度夜の帰宅中、前に立ったおっさんがコートをいきなりばっと広げ、おっさんの中心を見せつけられた事がある。悲鳴あげたり、ちっさーいとかゲラゲラ笑うと言った仕返しなんてする間もなく、おっさんは去っていった。警察には、報復が怖いし、夢みたいだったし、疲れたしめんどくさかったら言っていない。さらに、電車の待ち時間がない上に満員電車から逃れられるから、入社半年でチャリ通勤に変えた。
電車代は、通勤費としてもらっている。他の人たちもやっているし残業代がないのだから、このくらいはいいだろう。会社も暗黙の了解なので、誰にも何も言わない。というか、上司がそれをしているのだから言い出せまい。
ジーーーーー!
耳にうるさいセミの羽音が奏でる不協和音が容赦なく入って来て、ただでさえ暑すぎてイライラしている気持ちをさらにざりざりと削り取ろうとする。
朝から気温は25度を上回り、日中は40度を超えるそうだ。大阪ではさすべえという傘を合法的かどうかわからないけれど、自転車に取り付けて直射日光を遮る事が出来るという。主にマダム御用達のアイテムらしいが、私だって使いたい。でも恥ずかしくて使えない。
「うっそ! マジ? 7時45分とか、誰か嘘だと言ってー!」
朝6時に一回目が覚めてしまう。うっかり二度寝してしまい、急いで準備をしたから化粧だって御座なりで。日焼け止めクリームなんて丁寧にぬれなかったから、暑いけど長袖で肌を隠す。
マスクがあるから顔半分はいいとして。100円均一で購入した黒いサンバイザーを頭にセット。
「うー。間に合うかなー。遅刻したら、またネチネチ言われるー! ワンチャン、ギリセーフだと思う!」
ギコギコジャージャー漕ぐ度にうるさい音を出す中古チャリはペダルが重い。一応3段階の速度調整は効くものの、効果は怪しい。だって、一番軽いはずの数字に合わせたら一番ペダルが重いのだから。
ダイヤル2で固定された、ところどころ錆もついた、購入3年目になった愛車を一生懸命漕ぐ。
「あついー あーづーいー」
幸い、周囲には私以外誰もいない。独り言ちりながら、狭い道を左折しようとした。
いつもは、左に高い塀があって見通しが悪いから、減速するか止まるポイント。そこを、フルスピードで左折した。
だって、いつも誰も通らないから……
どうせ、今日も無人だと思った。大丈夫だろうって思った。
なのに、目の前には男の子がいて。慌ててブレーキかけながらハンドルを切ろうとした。でも、その先に、柴犬もいたから完全に制御を失う。
「あぶなっ!」
「うおっ!」
「わん?」
正直、この一瞬の時、何を誰がどう言って、どう動いたかなんて細かく覚えていない。大きな音がして、右半分を中心に全身が道路に打ち付けられた。
痛みよりもパニックになって、しばらく動けずにいると、
「大丈夫か? おい」
「くぅん?」
やや低めの男性の声がした。
体育で着るようなジャージ姿だったから高校生ぐらいかと思ったら、どうやらもう少し上だったみたいだ。私よりも年上っぽいなーなんて思いながら、ただ茫然としていた。
ワンルームの築45年のアパートはセキュリティの6文字などあってないに等しい。
給料が安いのに、拘束時間はやたらと長いし、ホッと一息つく間もなく次から次へと仕事が押し付けられる。昨日もおとといも、入社してからずっと帰りは22時すぎなら早い方で、出勤は朝の8時にはついていないと間に合わない。
駅に行くまでの距離と時間すら勿体ない。チャリのほうがトータル速いし、徒歩の道中、痴漢出現ポイントもあるから安全だ。現に、一度夜の帰宅中、前に立ったおっさんがコートをいきなりばっと広げ、おっさんの中心を見せつけられた事がある。悲鳴あげたり、ちっさーいとかゲラゲラ笑うと言った仕返しなんてする間もなく、おっさんは去っていった。警察には、報復が怖いし、夢みたいだったし、疲れたしめんどくさかったら言っていない。さらに、電車の待ち時間がない上に満員電車から逃れられるから、入社半年でチャリ通勤に変えた。
電車代は、通勤費としてもらっている。他の人たちもやっているし残業代がないのだから、このくらいはいいだろう。会社も暗黙の了解なので、誰にも何も言わない。というか、上司がそれをしているのだから言い出せまい。
ジーーーーー!
耳にうるさいセミの羽音が奏でる不協和音が容赦なく入って来て、ただでさえ暑すぎてイライラしている気持ちをさらにざりざりと削り取ろうとする。
朝から気温は25度を上回り、日中は40度を超えるそうだ。大阪ではさすべえという傘を合法的かどうかわからないけれど、自転車に取り付けて直射日光を遮る事が出来るという。主にマダム御用達のアイテムらしいが、私だって使いたい。でも恥ずかしくて使えない。
「うっそ! マジ? 7時45分とか、誰か嘘だと言ってー!」
朝6時に一回目が覚めてしまう。うっかり二度寝してしまい、急いで準備をしたから化粧だって御座なりで。日焼け止めクリームなんて丁寧にぬれなかったから、暑いけど長袖で肌を隠す。
マスクがあるから顔半分はいいとして。100円均一で購入した黒いサンバイザーを頭にセット。
「うー。間に合うかなー。遅刻したら、またネチネチ言われるー! ワンチャン、ギリセーフだと思う!」
ギコギコジャージャー漕ぐ度にうるさい音を出す中古チャリはペダルが重い。一応3段階の速度調整は効くものの、効果は怪しい。だって、一番軽いはずの数字に合わせたら一番ペダルが重いのだから。
ダイヤル2で固定された、ところどころ錆もついた、購入3年目になった愛車を一生懸命漕ぐ。
「あついー あーづーいー」
幸い、周囲には私以外誰もいない。独り言ちりながら、狭い道を左折しようとした。
いつもは、左に高い塀があって見通しが悪いから、減速するか止まるポイント。そこを、フルスピードで左折した。
だって、いつも誰も通らないから……
どうせ、今日も無人だと思った。大丈夫だろうって思った。
なのに、目の前には男の子がいて。慌ててブレーキかけながらハンドルを切ろうとした。でも、その先に、柴犬もいたから完全に制御を失う。
「あぶなっ!」
「うおっ!」
「わん?」
正直、この一瞬の時、何を誰がどう言って、どう動いたかなんて細かく覚えていない。大きな音がして、右半分を中心に全身が道路に打ち付けられた。
痛みよりもパニックになって、しばらく動けずにいると、
「大丈夫か? おい」
「くぅん?」
やや低めの男性の声がした。
体育で着るようなジャージ姿だったから高校生ぐらいかと思ったら、どうやらもう少し上だったみたいだ。私よりも年上っぽいなーなんて思いながら、ただ茫然としていた。
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