終R18 気弱なサンタは、クリプレガチャをお届け中!

にじくす まさしよ

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最終章

当選者は懇請中 

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 北の国の、訪れが遅く短い春のようだと思った。一度目、数年越しの想いがやっと叶うかと思われた時、愛しい人は彼女の運命との未来に向かい始めた。その時、あっという間に凍てつく冬が到来した。

 春の祭りも、大きなトラブルもなく終わり、いつになく汗ばむほどの暑い夏が訪れても、俺は冬の真っただ中に放り込まれたままだった。

 一度、彼女とその相手のために、約束だからと苦渋の決断をして招待チケットを贈った。彼女から、二度目の春の終わりを知らされた時、俺は、あろうことか歓喜で胸が舞った。
 愛する人の、世界から春が消え去るほど悲しい気持など、これっぽっちも思わずに。

 すぐに、そのような感情を恥じた。だが、どうしようもなく心が躍る。これで、俺にも再びチャンスが訪れるのでは、と。

 何度か、分厚い毛布を何重にもかけるように邪な心を底に隠して誘ったが、その悉くが断わられた。もう、俺と彼女の、たわいない幸せだった日々は来ないのかと意気消沈する日々。

 そんな中、いい加減後継者を作るように周囲からせっつかれた。以前のような、あいまいな言葉だけではない。義父が領地にいる時は、まだ縁談を持ち込む相手も遠慮をしていたのだろう。だが、義父が所用で領地から離れた際に、前触れなく令嬢をつれてやって来たり、仕事先で、突然見合いの席に座らされたりとやりたい放題されてうんざりし始めた。

 一切会えないティーナとの未来に絶望しかかり考えが散漫していた頃、ちょうど見合いで知り合った令嬢とクリスマスイブを過ごす事に、無意識にうなづいてしまう。断りを入れようにも、先方は、もう決まったも同然とばかりに、外堀を完全に埋められた。

 仕方がない、誠心誠意謝罪して慰謝料を支払い断ろうとしたところ、彼女のほうから、無理やり見合いさせられただけで、実は将来を誓い合った子爵家の騎士がいると、涙ながらに膝と手を地につけて頭を下げられた。俺に会うために着飾ったドレスが、雪で汚れるのもお構いなしに。相手の男も、首を差し出す覚悟で、俺に対して地に膝をついて来たのにはびっくりした。

 すぐさまふたりに立ち上がるように伝え、俺の気持ちを打ち明けた。そして、俺から入れた打診として先方に伝える。先方は、断られるなど不甲斐ないと令嬢に対して酷く怒りをあらわにしたが、慰謝料と俺から令嬢の今後の相手をきちんと世話する約束を取り付ける事で、今回の件は落ち着いた。来年、頃合いを見て、相手の男を俺からの紹介だと先方の家に連れて行く予定だ。

 なんとかケリがついて、ほっと胸を撫でおろし、テラスで夜空を見上げていた。小さな流星が、そこかしこに見られ、今日はサンタクロースが空の世界を縦横無尽に駆けまわっている事を思いだす。

 今も、ティーナはあの星と一緒に、月と星の煌めき、そして、雪の白にほのかに照らされた空を、トナカイのひくソリに乗っているのだろうか。

 そんな風に、感傷に浸っていると、目の前にいきなり煙が現れ、赤い服を着た、会いたくてたまらなかった女性が現れたのだ。

 酒を少々飲んでいたから、俺の願望が見せる幻かと思えば、彼女は更に大人びた、でも変わらぬ笑顔で、俺にガチャを回すように差し出してきたではないか。

 俺には決まった相手はいない。にこにこそのためのガチャを差し出す、俺の想いにちっとも気づかない愛しくも憎い女性。

 ひとつめのガチャは、シャボン玉のセット。一目それを見た時に、彼女との出会いを思いだす。彼女もそれを覚えて懐かしんでくれた、その事だけで、先ほどまでの辛さが吹き飛んだ気がした。

 ふたつめは、ふたりで並んで飲んだ酒。その日の事は、忘れられなくても忘れられるはずもない。酔った彼女の痴態と色香は、時が経てば経つほど色鮮やかになって俺の心を翻弄した。

 みっつめのカプセルを開けると、そこには永遠の愛を誓うダイヤモンドの指輪が入っていた。

「……」

 俺には、この指輪を渡す相手はいない。そう思い、彼女にカプセルを返そうしたその時、『恋人未満の方の場合、片想いを叶えるいいグッズも入っている』と言っていた事を思いだした。

 ここには、俺とティーナしかいない。つまり、このガチャは、俺と彼女のためのグッズが出てくるのではないかと考えた。

「うわぁ、綺麗ですね。プロポーズにぴったりの指輪じゃないですか」

 誰に対してこの指輪を差し出してプロポーズするのか、全く自分の事とは思ってなさそうな彼女の喜ぶ顔を見て、俺は今しかないと思った。

「ティーナ……」

「はい?」

 緊張のあまり硬い口調で彼女の名を呼ぶ。すると、彼女は俺の真面目な顔を見て、はしゃいだ表情から一遍、真面目そうな顔つきになった。

「ティーナ、ずっと君が好きだった。番と結ばれたいと頑張る、そんな君が大好きだった。だけど、惹かれれば惹かれるほど、俺には届かない君を、短い時間でも見るのが、嬉しくもあり悲しくもあった」

「ライナさん……」

 彼女の目が、いっぱいいっぱいに開かれた。心臓がばくばく音を立てて五月蠅く俺を責め立てる。手に持った指輪が、汗ばんできた熱が移り、火がつきそうなほど、体のすみからすみまで体温が上昇していく。

「君が、番との将来がダメになったと知った時、俺は……。俺は、君が悲しんでいるというのに、喜んだんだ。ずっと俺の方が君の側にいたんだ。一向に現れなかった番なんかに、君を渡したくなかった。だけど、君が番に出会って喜ぶ姿を見てね……。君の番じゃない、ただの人間の俺には、到底かなうわけがないって諦めようとしたんだ」

「……」

「諦めようとしても、諦めきれなかった。番の彼との事で、まだ傷ついている君に、今こんな事をいうのは卑怯かもしれない。だけど、今しかないと思う。ティーナ、今までのように、兄としてではなく、男として見てくれないか? 君のいない人生など、考えられないんだ。どうか、俺と結婚してください」

 指輪をティーナに差し出す。彼女からは返事どころか、身じろぎ一つない。やはりダメか、だがいつまでも諦めるものかと新たに決心した時、彼女が長い吐息をした。

「ライナさん……。気持ちは嬉しい、です。あのね……、私、ライナさんの事を、もうとっくに兄として見ていませんでした、よ?」

「え?」

「番と会ってからすぐに傷ついた頃は、ライナさんの存在がどれほど私を元気づけてくれたか。番に会っていても、ライナさんの事をどうしても考えちゃっていて。番であるお母様しか見えない愛せないお父様と比べて、ライナさんの事を考えてしまう自分が嫌で、考えないようにしていたんです。他に女性がいるヤンネさんだけを責めるなんて、私にはとんでもない事だったんです。だって……」

「ティーナ……」

「だって、私の心の中には、番じゃなくても、とっくにライナさんが住んでいた、から……。ライナさんの気持ちにも、なんとなく気づいていました。私は、ちっぽけな子供の見る夢のような番への憧れが捨てられず、ライナさんの気持ちをずっと傷つけて来たんです。そんな私が、ライナさんの側にいちゃダメなんだって、思ってて……。番との別れは悲しかった。だけど、それ以上に、ライナさんと会えなくなった事のほうが辛かったんです」

「ティーナ」

「グスッ……。私は最低です。こんな私でいいんですか?」

「ティーナがいいんだ。いいも悪いも、ティーナだけがいい」

「ライナさん……!」

 俺は、彼女の指に、ダイヤモンドの輝きを乗せた。そして、戸惑いながらもうれし涙を流す彼女を抱きしめた。彼女が俺の胸に顔を埋めて、最初は伸ばしていた腕をあげて、俺を抱きしめ返してくれる。

「ティーナ、愛している。ずっと、愛していた。番じゃなくとも、これからも、ずっと君だけだ」

「わ、わたしも、わたしも、ライナさんを愛しています」

冷たいぼたん雪が俺たちを濡らす。その雪すら瞬時に蒸発するかのように熱い。

 もう、二度と離さない。そっと合わせた唇を、もっと重ね合わせようと、彼女をかき抱いた。

 
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