絶対防御で対峙します!~スパダリ童貞の魔王と宰相からのアプローチは防御できないのですが!~

むふ

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 「で、咲さんどっちをとるんですか?」「おい咲よ、どちらにするのだ?」

 いきなり聞かれた質問にまた溜息をついて、イケメンに何やら迫られて贅沢な悩みなのかも知れないが。
 「…………どうしましょうね」




 
 遡ること、1時間前――。
 
 魔王城、最深部の魔王様の執務室。
 「……あの、私は何のために呼ばれたのでしょうか?」
 
 目の前には重厚な椅子に鎮座する魔王ことハイラム・ヴァル・ガルド様。
 そして私の横には、ハイラム様の右腕であり、宰相のセプティム・マトマフ様。
 どちらも強く、イケメンでこの国のナンバー1・2である。
 そんな二人がなぜか私を取り合って?喧嘩しているではないか。

 「閣下。咲さんの髪をいじるのやめていただけませんか?咲さんと二人でこの後大事な会議がありますので」
 眼鏡をくいっと上げながら宰相のセプティム様がハイラム様をけん制している。
 「いや、初めてききました」
 
 
 「セプティムよ、この後は護衛として隣の領へ二人でお忍びで視察に行く。お前こそ、腰に回している手をどけないか」
 髪に口づけをしたりと好き勝手しているハイラム様も、いつの間にやら腰に添えられていた手を払うようにしっしと手を振っている。
 「いや、それも初めて聞きました」

 「閣下。この後の予定に視察なんてありません。勝手に予定を変えないでいただきたい」
 「お前こそ、勝手に連れていくではない。俺様が聞いてはならない会議なんぞなかろう」


 
 こんな言い合いをかれこれ30分は続いている。
 
 「……陛下。三度目です。彼女の『絶対防御』の膜を突くのはお止めなさい。魔力の無駄遣いです」
 苛立ちを隠そうともせず、セプティム様が机を叩く。

 この、眼鏡の淵をいらだちながら上げているのは、魔王国の宰相セプティム様だ。
 軍事、政治、果ては魔王城の掃除の徹底ぶりに至るまで、全てを完璧にこなす魔界随一の切れ者。
 ……その実体は、他人の飛沫一粒すら許せない極度の潔癖症であり、女性に対してかなりのあがり症。
 私の世界でいうところの「全自動除菌システム付き、高スペック眼鏡」である。
 この前聞いたら場外を歩く時は浄化魔法を常にかけながら移動しているとかなんとか。
 彼はその頭の良さゆえに、幼いころより言葉の裏、過去現在未来からあらゆる可能性を考慮して人に対峙していたため、特に女性の裏の感情に対して恐怖とも似た感情を抱いてきた。この不明確・不明慮・不規則な状況に頭が回りきらず、どう返したら良いかわからないまま相手の女性はどんどん近づいてくる。その何も反応できないことへストレスからいつしか赤面症、あがり症になってしまったそうな。
 そんな彼が、貴族社会なんて知らない世界から来て、尚且つ思ったことは言った方が良いという私の『裏表がない性格』がなぜか刺さったらしい。
 「何も考えなくてもよい……」受け取り方によっては、頭を使わなくても対応できるとちょっと馬鹿にされている気もしないでもないが良しとしよう。
 最初は私のギフトを調べ上げるという名目での定期的な接触だった。
 浄化魔法が利かないため、セプティム様があの手この手できれいにしようとしたときに、うっかりガスマスクを取ってしまって。
 顔真っ赤なのを指摘して、そこからうるさいのも潔癖なのもその顔隠したいだけじゃないか!何が恥ずかしいことあるんだよと思ったこと言ったら、なぜか懐かれた。
 うっとりした顔で私の腕の脈を測り(指先はめちゃくちゃ震えていた)、あがり症の反動で早口の説教を繰り出す姿は、もはや一周回って「不器用なインテリワンコ」に見えてしまう。

 
 「やっと魔力の調整が自然にできてきているんだ!咲も絶対防御の許容範囲を意思で少しずつできるようになってきているな。よくやっている…………セプティム、貴様こそ先ほどから何を調べている。咲の腕を掴み、脈を測るふりをして、あれだ、咲の世界でいう『セクハラ』というやつではないか?」

 私のことを褒めつつ不機嫌そうに目を細めたのは、魔王ハイラム様。
 歴代最強。
 一瞥(いちべつ)で街を焼き払う魔力を持ち、全魔族から畏怖される男。……その実体は、野菜は嫌いで、「……俺様は草は食わん。咲、ほら、食べろ、俺様からの施しだ」と俺様ハイスペックなくせになんでか子どもな面を持つ私からしてみればおこちゃま俺様魔王である。
 魔王城の貴族連中から世継ぎをとのことで迫られ、絶対防御持ちの私が一夜のお相手をせざる負えなくなってしまった時の、子犬感と言ったら、庇護欲を掻き立てられてしまったのは今でも鮮明に覚えている。
 耳まで真っ赤にして動揺していた。
 過去初恋の相手との営みで、と緊張からうまくいかず、その後そのお嬢さん方の下手だったとの酷評を偶然聞いてしまいショックを受けてしまった。それからというものそういった行為を回避していたらどんどん自身の魔力量が増えていってしまい、同じ空間にいるだけで膨大な魔力の圧に押されて気絶者が増え、もちろんそういった行為も耐えられる者はいなくなってしまった。
 そんなこともあり、今も接触にはかなりの神経を使っているらしい。重度の行為への自身喪失と、膨大な魔力に耐えられる相手がいないことで現在悲しきことかな、インポ童貞であった。

 反対側の宰相セプティム様も過去の話から童貞とみている。

 ――ナンバー1、2どっちも童貞って大丈夫かこの国。
 




 
 「……あの、お二人さん。喧嘩するのはいいですけど、私の腕を引っ張り合うのそろそろやめてもらえます? 私の体は頑丈ですけど、ポテチを食べるのに支障が出るんです」

 「「咲、咲さん!!どっちにするんですか!」」

 二人の声が重なる。
 
 一人は、私の「表裏のない性格」に、貴族社会そして女性特有の含んだ思惑がないことで唯一勘ぐることなく触れられる時間に安らぎを見出し。
 もう一人は、私の「壊れない体」に、最強すぎて孤独だった自分が唯一全力で寄り添える希望を見出している。

 ……重い。正直、物理的な岩石より愛?愛なのか?ちょっかいかけられているだけか?でも重い。

 「えぇ。そうですね……んー。とりあえず、陛下は早くそのトラウマを克服して男を上げてください。あと、セプティムさんは、あがり症を隠して毒舌吐くのやめてください。二人とも、外ではあんなにかっこいいんだから、私の前でだけ『残念なイケメン』にならなければ!どちらかを!贅沢ですね!ということで、今日はアロペットさんのところで実験してきます!」

 私が脱兎のごとく部屋を出ようとしたが、魔界のツートップは同時に腰を掴んで静止させられた。


 「おい、アロペットに今日特別休暇を与えようじゃないか?」
 「そうですね閣下。何なら今日から別の場所に移動をお申し付けましょうか?」

 いきなりアロペットさんの処遇の話になっており、下手に別の人の名前を言うといけなかった。

 「閣下いかがでしょう。我々が残念イケメン?ではないところをこの後たっぷり彼女にお教えしないとならないかと存じますが……」
 「同意だ。この後の予定は無しだ。本人が分かるまで我々が有能で男らしい様を見てもらわぬとな」

 そう言って、二人ともネクタイを緩めて、覗きこんできた。
 残念でもイケメンはイケメン。ネクタイを緩めた首元からは、鎖骨が見え獲物を狙うギラギラとした目線に、私が顔を真っ赤にして黙り込む番だった。

 私東 咲あずま さき。二十八歳。元・一般事務。コンビニ帰りにトラックにはねられ、なぜか「絶対に壊れない盾」としてこの魔界に君臨することになった。
 刺されても死なず、魔法攻撃も跳ね返す。
 なんでも防御できるが、精神攻撃はまた別の話で、この二人から逃げる方法だけは、どこを探しても見つからない。

 俺様魔王様のハイラム様か、潔癖インテリ宰相のセプティム様か、はたまたどちらもか。

 

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