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2.異世界
2.異世界2/2
しおりを挟む日が登ってくるとその穴を拠点にして食べ物を探し始めた。都合よく見つからない。残りの飴をいつ舐めようかと考えていると胸の張りに気がついた。
赤ちゃんが亡くなってからも体は母親としての役割を果たそうとしている。おっぱいのでは良かったから完全母乳で育てられると思っていた。
――おっぱい……用無しになっちゃったな……。
あーつらい…………。
胸が痛いが、絞るのも何だか勿体無くて痛みを我慢してあふれる母乳が服に染みを作るのを他人事のように眺めた。
何の神様のいたずらか、赤ちゃんの鳴き声に似た声を聞いてしまう。空腹で幻聴が聞こえているのか、こちらの世界の獣の鳴き声かわからない。
獣であったらどうしようと思いながらも人がいる可能性にかけて声のする方向に足を向けた。
――嘘でしょ……。
目にしたのは木の幹に無造作に置かれたお包みに包まれた2人の赤ちゃん。
何かの罠なのか、普通に散歩に来て日向ぼっこしている所なのかわからない。
赤ちゃんがいるということは親や大人が居るはず。
茂みや木の影に隠れながら赤ちゃんを支点に人を探した。
1時間もかからずぐるりと回ったが人の気配がない。
相変わらず赤ちゃんは泣いている。
まだ産まれて1ヶ月くらいじゃないのか、適当に着せられた服とはだけだお包みにとても異様な光景に映る。
「いやいやいや、こんなに放置っておかしく無い?親何してるのよ……。近くに行ったら罠仕掛けられてるとか?え?どうしよ……」
産院で赤ちゃんにおっぱいをあげるのは5時間以上開けないようにと習っている。低血糖になる可能性があるから。ここにいる赤ちゃんが何時間おっぱいを飲んでいないか定かでは無いが、周りに大人がいないのが異様過ぎる。
時計も持っていないので何時間経ったかもわからない。迎えに来るのかわからない状況で、下手に手を出して良いのか困惑した。
――声を出して見るか……。先に赤ちゃんの周りに罠が無いか確認してからか……。
声を出して一気に人がきて捕らえられても困る。
石を集めて赤ちゃんの周りにとりあえず投げてみる。
長い木の枝を見つけて歩く先の地面を確かめながら進んだ。
赤ちゃんの目の前にくると、その赤ちゃんは人間では無かった。
小さな角が額の量端に生えている。
お包みも汚れていてとてもじゃ無いが日向ぼっこには思えなかった。
1人は元気に泣いているが、もう1人はとてもじゃ無いが元気には見えない。身体も小さく、オムツはうんちとおしっこで溢れていた。
――これは……。放置……。
途端に胸が張り裂けそうになった。
赤ちゃんの身なりは最低限の服と布が腰に申し訳程度に巻かれている。服をはだけさせると胸に何か茶色の泥が固まっような汚れがある。よく見ると何か三角か、人為的に何か描いたような三角形の模様にも見える。2人とも描かれていて、何かの儀式なのか、術なのか、意味がある物なのだろう。
この状態でどれくらいの放置されているのか想像もつかない。きっと周りに人はいない。
それでも声を出すしか選択肢はなかった。
「誰か!誰かいませんか!赤ちゃん放置って……。何か理由があるとは思うけど………………。っ、誰かいたら来てください!誰か!」
声を出したら、涙が溢れた。
泣きながら必死に声を出して人を探した。
何か事情があるかも知れないけど、赤ちゃんを放置って他に何かできることがあったはずだと、悔し涙か悲しいのか感情が溢れてしまった。
自分の赤ちゃんは亡くなり、情緒が不安定であったところどこかもわからないところに来てしまい生きることだけに必死になっていた。そんな中で赤ちゃんを見てしまったら心が穏やかでいられるはずもなく、溢れる涙と震える声で必死に人を呼んだ。
――誰も居ない……。
「………………どうして…………」
赤ちゃんの元へ戻ってきて、自分が大きな声を出した事でびっくりしたのか弱々しく泣いていた赤ちゃんも先ほどより大きく鳴き声をあげた。
――お腹が空いているのかな……。
捨てられた可能性がとても高いが、他人の子に世話を焼いて良いのか葛藤したがこの状況を放置しておくことはできなかった。
うんちとおしっこで汚れた布をそのままに、溢れてシミを作った服をたくしあげておっぱいを吸わせた。
弱っていた方の赤ちゃんから先におっぱいを飲ませる。空いた手でもう1人の赤ちゃんの頭を撫でた。
赤と青の対比の髪の色。
弱っていた赤ちゃんは綺麗な青色の髪。
何とかおっぱいには吸い付けるくらいの元気はあって良かったが、勢いよく出たおっぱいにむせてしまった。
3分くらいで一度外して、赤い髪の赤ちゃんに反対のおっぱいを咥えさせる。
上手に飲んでいる。胸を離さんばかりに手を一生懸命伸ばして肌を触ってくる。
2人が満足するまで交互に抱いて授乳をした。
――………………どうして……。
今は亡き赤ちゃんを思い出して2人に重ねる。
赤ちゃんの親へのどうしようもない憤りと、虚しさと、悲しさとぐちゃぐちゃにになった感情が堰を切って押し寄せてくる。
自然と流れる涙が枯れることはないのかも知れない。
授乳後、赤ちゃんが寝た。
もう一度周りを見に行ったがやはり誰もいない。
腰に巻かれた布が汚れていたので小川で洗った。
自分の服を一枚脱いで、半分に割いて申し訳程度に巻いてあげる。
自分も2日ほぼ何も食べていない。
母乳に栄養があるかもわからないが、水だけで何とか凌ぐしか無い。
残りの飴を舐めて、食料が尽きる。
一枚脱いだことで肌寒くもなったが、赤ちゃんを守るためなら苦じゃ無かった。
一晩赤ちゃんが置かれたところで過ごしたが、やはり誰もこない。
空腹で余計に体が重いが、赤ちゃん2人を抱いて穴に戻った。
おっぱいは相変わらずよく出る。布を交換するがおしっこが間に合わない。
穴の中がアンモニアの臭いが漂うが仕方がない。
残りの体力をどうにか使って、草を集めて地面を柔らかくする。
2日しか授乳していないが、赤ちゃんの顔色が心無しか良くなっている気がする。
反射なのはわかっているが、たまに見える笑った顔が救いだった。
人というのは食事を取らないとすぐ動けなくなってしまう。
赤ちゃんに授乳しながら、外から獣に襲われないか気を張っていることもあり更に寝られない。
産後寝不足になるのは世の常であるが、更に過酷であった。その上食事も無い。
人が弱るのは必然である。
赤ちゃんを拾って4日目で立てなくなってしまった。
傍ではお腹が空いたのか、オムツが汚れたのか、寒いのか暑いのかわからないが泣く赤ちゃん。
泣かれると自分を責められているような錯覚を起こしてしまう。
――ごめんね……。ママ、また子育てうまくできなかった…………。
執拗に自分を責めてしまう。自身の子どもが病気だった事も自分が悪いと何度責めたか。それでも赤ちゃんが泣き止むように流れる涙も拭わず、抱き抱えて授乳をする。
動けなくなるのも時間の問題だった。
ごめんね、ごめんねと遠くに聞こえる泣き声に謝罪しか出来ない。薄れる意識の中、体を覆う暖かさに意識を手放した。
――ママ、産んでくれてありがとう。
自分の都合が良い夢を見ている。
暖かく包まれた体が心地いい。
産んだ赤ちゃんなのか、喋れるわけも無いのに聞こえた声に今度こそ自分もそっちに行くから待っててねと笑った。
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