一から剣術を極めた少年は最強の道を征く

朝凪 霙

文字の大きさ
8 / 16
第一章 『少年の革新》

第一章7  『運命の歯車』

しおりを挟む


「ただいまー」

「おかえりー」

 変哲もない一般的な家の戸を開け、コウは家の中に入る。《時の狭間》のような立派な家ではないけれど、これはこれで思い入れがあって、コウは好きだ。

 コウがリビングに入ると、少し明るめの茶色の髪を揺らしながら、母が料理をする姿が目に映った。
 父は食卓に並びながら、書類に目を通している。

 しかし、コウの帰宅に気付いた父は、その黒い瞳でコウを見据えながら、あることを告げた。

「コウ。今日の夜、お前に話したいことがあるから宜しくな」

 その双眸そうぼうはコウを真正面から覗いていて、コウは思わず息を飲み込んでしまう。

「――。うん、分かった。何の話かは知らないけど、心構えはしておくよ」

「ああ、よろしく頼む。……心構え、な」

 父の話から何かを感じたコウは、それなりの覚悟を決めて返事をする。
 すると、父があんまりにも感慨深そうに呟くものだから、その話が何なのかとても気になった。

「な、なんか気になる言い方だね……」

 だが――、

「ご飯出来たわよー!」

 タイミングを合わせたのか、偶然なのかというタイミングで、母がコウたちに告げる。

「お、よく見ろコウ。今日の昼ご飯は豪華だぞ‼︎」

 ……なんか、やましい事でもあるような雰囲気出してるな。

 まさかそんなことは無いとコウも思うが、万が一のことがある。
 しかし、今はそれより――、

「凄い美味しそうだな……」

 ぐうの音もでないくらいに、今日の昼ご飯は本当に豪華だった。正直、この昼ご飯ならご機嫌とりをされてしまう自信がある。
 白米、ハンバーグ、コーンスープ。少なくともコウにとって、この冬の季節に是非とも食べたいご飯だった。

「いただきます!」

「召し上がれ~」

 箸を右手で持ち、ハンバーグに手をつける。
 ハンバーグを箸で切るときに溢れる肉汁を目に焼き付けながら、コウはハンバーグを口に運ぶ。
 そして、口の中に入場してきたハンバーグをよく噛み締めてとくと味わう。

「うん、美味しい!!」

「でしょ!母さん頑張ったからねー、良かったよ~。 ……あっ、そういえば、食べ終わったら何するの?」

 コウが昼ご飯を頬張っていると、母はコウを覗き込みながら質問してきた。母の茶色の髪が、微かに乱れる。
 この言葉をさり気なく出す事も、昼ご飯を豪華にした理由の一つなのかもしれない。

「いや、特に決まってないから、剣の修練でもやろうと思ってるんだけど……」

「……そう。なら良いわ。風邪引かないように気をつけてね」

「うん、分かってる」

 母は何やら納得したようで、キッチンに戻っていき、父も、また書類に目を通し始めていた。

 なんだかそわそわしていて、とても過ごしにくい。
 だけど、

「うん!やっぱり美味しい‼︎」

『腹が減っては修練も出来ず』だ。
 ご飯を頬張る手を止めずに、夢中になって食べる。
 そんなコウを見て、母がクスッと微笑んでいたような気もしたが、おそらく気のせいなのだろう。少なくともコウは、そう思いたいと願っていた。


「――ご馳走様でした」

 食べ終わった食器を水で洗い流した俺は、自分の部屋から剣を取り出してきて、剣の修練をするために家を出る。

「いってきます!」

 ……久しぶりの休暇日は、そこまで悪いものじゃなさそうだ。寧ろ、結構楽しい。

 コウは期待を胸に抱きながら、いつもの修行場所へと向かうのだった。


 *


 ビュン、ビュンと、野原に風を切る音が鳴り響く。

 それはコウが素振りをするときの音であり、それは今も昔も変わらず行われ続けている。
 どんなことにおいても、反復練習は大事なのだ。

 ――ただ、ずっと素振りしているだけでは、今のコウにとっては刺激が足りない。

「――ざん

 なんとなく「斬」と口にしたコウは、素振りをするときの、剣を振り下ろすタイミングで、鋭い斬撃を生み出す。

 ヒュンッ!
 今度は少し甲高い音を響かせながら、コウの剣によって鋭い斬撃が生み出される。
 その斬撃は、滑らかな軌跡を描きながら、数センチ先の空間をも斬り裂く。しかし、そこには斬りたいものなどなく、ただ虚空を斬るだけだ。

 それでも、ただ剣を振っただけで風は吹き乱れ、空気は震え、自然が共鳴する。
 剣気の恩恵を受けずとも、剣を幾億と振り続けた先には、至高の剣戟が生まれていた。

「ふぅ……」

 コウは汗をタオルで拭いながら、空の様子を見つめる。空は赤色に染まっていて、コウや周りの自然のことも、赤色の日差しで照らしていた。

「――――」

 その赤い日差しは、どこまでもコウを引き剥がしてくれない――三ヶ月前のあの出来事から。

 ヒューと風が吹き、草原の赤く染められた草たちが揺らめく。コウはそっと視線を動かし、風に揺らめく草たちを、どこか遠くから見つめる。

 ――結果的に、守ることは出来たのだ。コウは災厄を打ち払い、この村を絶望の運命から救い出した。

 だけど――、

「――守れなかったものが、確かにあった」

 ユウキ、ハルト、村の建物、先に襲われた人たち。
 全て数えようとすれば、まるでキリがない。

 ……それが、仕方がないということは分かってる。

 残念なことに、コウが《時の狭間》へと導かれたのはあの瞬間で、既にユウキもハルトも死んでいた。
 それも、コウが見ている先で……。

 ……仕方がないということは分かってる。分かっているからこそ、考えずにはいられない。

 もしも、何かの運命の歯車が違っていて、もう少し早く《時の狭間》にいたら、二人は助けられたかもしれない。

 ……俺に、守る力があったら――救えていた筈だ。
 ……どれもこれも、俺が弱いから、強くないから作り出した出来事。

 そう考えずにはいられなかった。
 ――やっぱりこの世界は残酷で、無残で、不平等だ。

「だけど、だからこそ、俺は俺の『道』を――」

 夕日がコウを照らすばかりで、コウの口から続きの言葉が出ることは無かった。
 コウは夕日を背に映しながら草原を歩き、家に帰り始める。

 コウの背中を照らす日差しは、どこか悲しげに、赤く揺らめいていた――。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

処理中です...