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第一章 『少年の革新》

第一章8  『レイト先生』

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「この村も、少しずつ良くなってきてるな」

 コウは家までの帰り道を歩きながら、そっと呟いた。

 事件直後の時神村は、随分と建築物が壊れてしまっていたが、今では新しく建てられている。
 荒れ果てていた土地も少しずつ整備されていて、むしろ以前よりも改善されていた。

 今日は休息日だったが、いつものコウは村の復興の為に働いている。
 建設の為に木を斬ってきて角材に変える仕事や、農業の手伝いなど、主に力仕事だ。

 完全に復興するのはまだまだ先になるが、少しずつでも良くなっているとコウは思っていた。

 ……また明日からは、いつも通りの日常か……。

「こんばんは、コウくん」

「……こんばんは、レイト先生」

 コウが内心呟いていると、横からレイト先生が声を掛けてきた。コウは挨拶を返しながら、レイト先生を見つめ返す。

 ――レイト先生。
 茶色がかった髪に、翠色すいしょくの瞳、少し長めの髪は後ろでまとめられている。
 コウに向けるその表情には、微かに和やかな笑みが浮かんでいた。

 道場の先生だったレイト先生も、暫くは道場を閉めて、村の復興に手を貸すその一人である。
 しかし、ユウキとハルトが亡くなってしまったことや、コウが魔物を倒したことがあって以来、あまり良い関係を築けていない。

 挨拶はしたものの、どうするのが正解か分からないコウは、そのまま歩き始めようとする。

「では、俺はこれで……」

「――ちょっといいか‼︎ あ、ごめん。 ちょっと、僕に付き合ってもらえないかな?」

 だが意外にも、レイト先生に足止めをされてしまった。レイト先生はその翠色の瞳を、コウに真っ直ぐ向けている。
 その瞳には、どこか力強い想いが篭っているように見えた。

「……は、はい」

 だからだろうか、いつ間にかコウは返事を返していた。

「……そうか。なら、場所を変えないか?」

「分かりました」

 レイト先生は、はやる気持ちを抑えて、場所を変えるように促してきた。
 コウはそれに従い、レイト先生の背を後から追った。

 ……一体、どうしたのだろうか?


 *


「すまないねコウくん。もう着いたよ」

「ここは……」

 コウがレイト先生に連れられてやって来た場所は、道場だった。
 ここ最近来ていなかった道場がどこか寂しげに見えたのは、きっとコウの思い違いなのだろう。

 それより、どうしてここを選んだのかが気になった。

「どうして、此処なんですか?」

「――僕が君と、勝負をしたいからだよ」

「勝負、ですか?」

 申し訳なさそうな笑みを浮かべているレイト先生に、コウは疑問を抱く。

 ……何で今、勝負なんてものを言い出すんだ?

「コウくんには、僕と木剣で勝負――稽古して欲しいんだ。勝利条件は……相手を無力化すること、かな。 どう?やってくれる?」

「……やります」

 疑念は晴れないが、お願いされてしまっては仕方ない。コウはレイト先生から木剣を受け取った。


 コウたちは道場の真ん中まで歩き、およそ5メートル程の距離を取って、互いに向かい合う。

 そして、軽く一礼してから木剣を構えた。

 コウは正眼の構えを取りながら、剣先越しにレイト先生を見据える。
 同様に木剣を構えているレイト先生は、苦笑いをしていた。

「構えの時点で分かるよ。コウくん、強くなったね」

 さほど話し方は変わらないが、勝負する前だからか、どこか好戦的な声でレイト先生はそう言ってきた。

「そんなこと言って、負ける気は毛頭ないんでしょう」

 流れに乗るようにして、コウも軽口を叩く。だが、やがてコウたちは静まりかえり、稽古にだけ集中するように変化する。
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