幼なじみと夏の夕方

市樺チカ

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幼なじみと夏の夕方

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夏の暑い日。上からの太陽とアスファルトの照り返しに挟まれて、オーブンの中にいるような気分だった。

「なー健二、コンビニで少し涼んで行こうよ」
「バスが来るまであと十分しかないぞ」
「大丈夫大丈夫。五分休んで、バス停まで走ればギリギリ間に合うって」
「…これ逃したら二時間後なんだからな」
「分かってる分かってる。あ、アイス食おうぜ」

そう言うと爽太は嬉しそうに道路端にあるコンビニに駆けていった。携帯で時間を確認し、健二も後を追う。

「何にするかなぁ。やっぱソーダ味か…いやレモンも…」
「コーラ一択だろ」

透明なケースに張り付いてあれこれ迷う爽太を押し退け、素早くコーラ味のアイスを取り出した。小銭を手にレジへ向かい、支払いを済ませてイートインコーナーに座る。ちらりと冷凍庫の方に目をやると、ようやく爽太がアイスを選んだ所だった。

「見て、健二。新作の梅味にした」

にしし、と笑いながら隣に腰掛けて小袋を空ける。薄緑色の棒アイスを口に含み、さくっと音を立てて齧った。

「うぅん…、ソーダにすれば良かったかも」
「お前、梅苦手なのに何でその味にしたんだよ」
「いやぁ、アイスならいけるかなって」
「アホか」

微妙な顔で咀嚼をする爽太の手首を掴み、自分の方に引き寄せる。顔を近付けて梅味のアイスを齧った。

「…普通に美味いけど」

口内に広がる爽やかな香りと甘味はさして悪いものではない。やはり単純に苦手な味、というだけのようだ。

「ほら。交換な」
「やったー。ありがとな、健二」

右手に持ったコーラ味のアイスを差し出し、代わりに梅味のアイスを奪った。爽太は美味い美味いと言いながら食らいついている。

ふと店内の時計に目をやった。店に入ってから七分。バスの出発時刻まで三分を切っている。

「やべ、爽太っ。走るぞ」
「えっ、ちょ、待ってっ」

アイスを口に咥えて鞄を引っ掴み、爽太の腕を引いてコンビニを出た。全速力でバス停に向かって走る。

「…はぁっ、はっ」

少し前にバスが見えた。既に停車しているらしい。健二は渾身の力を振り絞ってスピードを早めた。

「っ、うわっ」

後ろから情けない声が上がる。振り返ると足がもつれた爽太が前へつんのめって転んでいた。

「…、大丈夫か」

動かしていた足を止め、少し戻って爽太に手を差し出した。

「悪い。引っ張り過ぎた」
「いってー…、けど大丈夫。俺こそ悪いな。バス、行っちゃったわ…」

はっとして後ろを振り返ると、丁度バスが走り去るところだった。二人で肩を落とし、顔を見合った。

「取り敢えず家に電話するか」

鞄から携帯を取り出す健二にならい、爽太は尻のポケットを探った。だがそこに入っていたはずの携帯がない。

「…嘘だろ…」

健二の立っている少し先。バス停の手前に見覚えのある携帯がふっ飛ばされていた。走り寄って持ち上げ、電源ボタンを押す。

「あ、終わった」

画面はバリバリに割れ、電源は付かない。拭いても振っても叩いても、うんともすんとも言わなくなってしまった。
ふらふらと健二に歩み寄って壊れてしまった携帯を見せると、目を見開いて驚いた顔をした。

「―そういう事で、次のバスで帰る。あと、爽太の母ちゃんにも同じこと伝えといて。あいつ携帯壊して電話出来ないみたいだから」

それじゃ、と言って通話を切る。愕然とする爽太を見、腹を抱えて笑った。

「ははっ、マジでぼろぼろだな。ひびが入りすぎて画面真っ白じゃん」
「わ、笑うなよっ。先月買ってもらったばっかりなんだぞ…」

泣きそうな顔の爽太の背に手を当て、どんまいと言いながら叩いた。自分の携帯を仕舞い、頭の後ろで両手を組む。

「それにしても、二時間もどうするんだ。ずっとここに居ても仕方ないだろ」
「うーん、そうだなぁ。あ、神社行こうぜ」
「…おう」

バス停から山に向かって少し歩いた所に古くて小さな神社がある。駐在している人はいないが、近所の爺さんが毎朝掃除をしに来ているのでとても綺麗だ。

「おっ、あったぜ」

神社の裏手、一段高くなっている社の下に缶の箱が隠されている。クッキーの絵が描かれているこの箱は、爽太と健二の秘密の宝箱だ。その辺で拾ったがらくたや気に入った物をここに仕舞って保管している。
小学生だった頃は拾ったおもちゃや漫画で一杯だったものだが、高校生となった今は随分と毛色が変わった。

「これこれ、この間裏山に落ちてたエロ本。表紙の子めっちゃ可愛いーっしょ」
「お前こういう女好きだよな。なんていうか、子供っぽい感じの」
「ロリコンみたいに言うなよな。大体ほら、十八才って書いてあるじゃん。年上だっつーの」

ぺらぺらと捲ってお気に入りの子の特集ページを開く。あどけない顔をしてグロテスクな肉棒を頬張る姿が紙面いっぱいに広がっている。

「どうよ、エロいっしょ」
「…エロい」

興奮で頬を上気させ、股間を片手で押さえながら本を見せる。健二は身を乗り出して爽太の隣に顔を寄せた。頭同士がこつんとぶつかった。

「…するか」
「…うん」

向かい合うように胡座をかいて座り、真ん中にエロ本を置いた。制服の前を寛げて下着の中に手を突っ込む。

「はぁっ」

本の映像と頭の中をリンクさせ、自分が咥えられているように想像しながら手を上下する爽太。健二は黙ってその姿を見つめている。

「ちょっ、あんま見んなって。早く健二もやれよ」
「…あぁ」

汗ばんだ手を開き、下着をずり落ろして肉杭を取り出した。爽太よりも一回り大きいそれの先端を摘まむように捏ね回す。

「っ、はぁ…なんつーか、健二のやり方って独特だよな…っ」

まずは先端を捏ね回し、次にくびれを弄ぶ。そして最後に握って、と手順を踏む健二の自慰は、爽太のやり方とは全く異なるようだった。

「うるせ…っ。お前こそ、いい加減皮オナやめろよ」

皮を被せたまま手を上下する姿を見ながら悪態をついた。爽太の手が下にいく度に、ぬち、と音を立ててピンク色の先端が覗く。

「なー、っ健二、フェラって…、どんな感じなんだろうな…っ」
「…さあな」

絶頂が近いのか、爽太の荒い息遣いが健二のところまで届いている。時折体を揺らしながら手の動きを早めているようだ。
健二はそっと動きを止めた。爽太を見つめ、ゆっくりとまばたきを繰り返す。

「してやろうか。フェラ」

真っ直ぐに爽太を見つめる健二だが、内心は嵐が吹き荒れるように動揺していた。殴られるだろうか、気持ち悪いと蔑まれるだろうか、と頭を抱えたくなる衝動に駆られる。
こんな雰囲気になるなら言わなきゃ良かった、と後悔しはじめた時、ぽかんとしていた爽太が口を開いた。

「えっ、いいの」


本の上に両手をつき、身を乗り出して健二を覗き込んだ。その目には期待と困惑が半分ずつ交じり合っている。

「それ退かせよ」

言われた通りに本を退け、胡座をかいて目を閉じた。目の前ではごそごそと動く気配がする。

「それでいい。そのまま目閉じとけ」

ぴちゃ、と小さな水音が耳をついた。健二の熱い舌が猛った肉杭の幹を撫でる。

「う…っわ…なにこれ…っ」

玉近くの根本から一直線に上を目指し、皮を被った先端に辿り着いた。親指ほどしか露出していないピンク色の先端をちろちろと舐めあげると、強すぎる刺激に腰が揺れた。

「そこっ…やばいってっ」

口を離させようと体を引くが、今度は強く吸い付いてきて離れようとしない。動く度にじゅぼ、と鳴る音が恥ずかしくなって、抵抗を止めて大人しく受け入れることにした。

「っ、なにして…っ」

健二が器用に舌先を尖らせて、皮の内側に侵入してきた。丸い形に沿うように右回りに舌を回して内側をほじる。

「ふ、ぁあっ」

初めての快感が全身を駆け巡り、思わず声を上げた。女のような甲高い声を出してしまったのが恥ずかしくて両手を使って口元を覆う。
その様子を見ていた健二は片手を伸ばして爽太の腕を掴んだ。強く引っ張って手を外させる。

「良いじゃん、その声」

それだけ言うと再び口淫を開始した。今度は先端に口付けを落とし、唇を使って皮を引き伸ばす。何度か繰り返して伸びが良くなった所で顔を上げた。

「ちょっと痛いかもしれないが…、我慢しろよ」

唇をすぼめ、肉杭の先端に吸い付くように照準を合わせた。口内を真空にしながら顔を埋め、唇で皮を剥きつつ幹を握ってずり下げる。

「あっ、うぁああっ」

びくん、と大きく腰が突き出された。健二の喉を目掛けて、信じられない量の精液が迸る。

「っ、げほっ」

突然のことに驚いて口を離して咳き込んだ。口元からぱたぱたと爽太の吐き出した液体が垂れる。

「ご、ごめん健二っ」

閉じていた目が開かれ、心配そうに顔を覗いた。視線がぶつかった途端、爽太の動きが止まる。

「な、何だよ」

口元を拭おうとした指を掴み、下へおろさせた。口端から流れ出て首へと垂れていく白い液体をじっくりと見つめる。

「いや、なんつーの、その…」
「…悪い、気持ち悪いもん見せたな」

健二は慌てて体を離した。ワイシャツの袖で口を拭い、立ち上がろうと膝に手をつく。それを見た爽太が慌てて腕を掴んだ。

「ち、違うって…」

ぶん、と腕を振り払った。掴む先を無くした手がだらりと垂れる。

「表で待ってるから。片付けたら来いよ」

口早に言い切り、さっさと歩いていく後ろ姿を呆然と見つめた。健二がこんなに冷たい態度を取るのは初めてのことだ。

「…違うって言ってんのに…」

呟きながら視線を落とす。股ぐらには先端を完全に露出した肉棒が力無く垂れ下がっていた。先程の名残が光を反射してぬらりと輝いている。

「くそっ」

脳裏には口から精液を流す健二の姿が鮮明に焼き付いている。再び芯を持とうとする自身を窘めて、身支度を整えた。


後片付けを済ませ、社の正面へ回った。賽銭箱の前に腰掛けて俯いている健二に駆け寄る。

「ごめん、待たせたなっ」

肩を叩いて声を掛けると、小さく返事をして立ち上がり、爽太を置いて歩き出してしまった。急いで後を追う。

「なぁ、健二」
「…何だ」
「何でそんな感じになってんの」
「…だろ…」

足を止めてもごもごと口を動かす健二。聞き取れずに耳を寄せると、がしりと肩を掴んで突き放された。

「気持ち悪いだろっ、友達に、男にあんなことされて。今罪悪感で死にてぇんだよ」

苦し気な顔で大声を上げる健二を、爽太はきょとんと見つめ返していた。

「いや別に、普通に嬉しかったけど。…てか手離してくれよ。痛い」

口を開けて固まる健二。爽太は薄く笑って歩き始めた。

「おい爽太、それって…どういう…」

鳥居の手前まで来たところで走り寄ってきた健二が隣に並ぶ。そわそわとする姿を横目に見ながら足を動かした。

「なー、健二。まだ時間あるし、またコンビニ行こうぜ」
「分かったから、そんなことよりさっきの…」
「俺、今度こそソーダ味のアイス食べるんだー」

困惑しながら話す健二の言葉を遮って、他愛ない会話を続けた。


「なんかさー、毎年夏の暑さが酷くなってる気がすんのって俺だけ」
「…いや、そうだな。去年よりも、暑い気がするよ」

少しずつ日が陰ってきたとはいえ、まだまだ夏真っ盛りだ。額から出た汗が頬を伝って顎から落ちる。

「来年はもっと暑いのかなぁ」
「ああ。そうだろうな」

むわっとした熱風が二人の体を包む。それから逃げるように足早にコンビニへと向かった。
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