ヒレイスト物語

文字の大きさ
92 / 171
第三章 変化

心臓に悪い時間

しおりを挟む
そして今に至るのだ。シェーンのファッションショーが始まると思っていたのだが、シェーンのものはすでに決まっているようですでにいくつかかごに入っている。今は男性服を見ていた。


「シェリー。誰の服選んでるの?もしかしておう・・・お父さんの服選んでるとか。」


娘が服を選んでくれたと知ったらどんなに王様は喜ぶだろうか。そうであればあの王様からの威圧が少しは柔らかくなるはずだ。しかし、俺の考えは儚く散っていった。


「何言ってるのよ。ビスの服に決まってるじゃない。」


俺の服を選んでいるらしい。そんなこと知られれば間違いなく王様の威圧は強くなるだろう。それだけは避けたい。


「そうなんだ。あ、ありがとう。でも、お父さんの服も選んだ方がいいんじゃないかな。」


「嫌よ。ほらこれなんかいいんじゃない。」


その一言だけ吐き捨てた。どうやら逃げ道は絶対に知られないようにしなければならないその道だけらしい。


「うん。いいね。」


こんなにも感情が籠っていない声が出るものなのだな。初めて知ったよ。そんな事をしていると店のおば・・・お姉さんに話しかけられる。


「おや、ビス君。久しぶりだね。それにしてもこんな可愛い子連れてビス君も隅に置けないね。彼女さんかい?」


「あ、いえち・・・そうです。可愛いでしょ。自慢の彼女です。」


否定しようとしたら、シェーンに腕をつねられてしまった。横目に見えるシェーンは赤くなっているような気がするが気のせいだろうか。


「シェリーって言います。」


そう言って俺の腕に絡みついてきた。


「おやおや、ラブラブだね。・・・というかシェリーちゃんシェーン様に似てるって言われない?」


ヤバいバレたか。お姉さんはじっとシェーンの顔を見ている。


「そうですか?初めて言われました。でも、シェーン様に似てるだなんてお世辞でも嬉しいです。」


俺は今まで聞いたことないシェーンの声を聞いた。こんなに変わるものなのだろうか。しかしそれで乗り切れたようだ。


「嘘じゃないよ、本当に。本物かと思っちゃったわよ。まあ、本物がこんなところにいるはずないか。ハハハハ。邪魔者はとっとと退散するよ。何か用事があったら 呼んでね。奥にいるから。じゃあね。」


そう言ってお姉さんは去っていった。なんとか切り抜けられたらしい。シェーンの言った通り切り抜ける通り切り抜けることができた。


「はあ、心臓に悪い。こんなことが続くのか。」


「本当よ。心臓に悪いわ。」


シェーンも同じ気持ちだったらしい。シェーンの顔は横目で見えた時よりも赤くなっているように感じた。シェーンはこっちをじっと見つめてくる。


「はあ、ビスもうちょっと、柔らかい感じでいいわよ。・・・あんなのずるいわよ。」


何だかわからないが、ここは返事をしておいた方がいいだろう。


「わ、わかった。気をつける。」


「絶対わかってないわね。まあ、いいわ。私も耐えて見せるわ。」


シェーンは何か意気込んでいるが何のことだがさっぱりわからなかった。

買うものを決め終え支払いに向かおうとする。だが、シェーンに止められてしまう。


「ちょっと待って。私が払うわ。」


「いや、俺が払うよ。」


「じゃあ、ビスは私の分を払って。ビスの分は私が払うから。それでいいでしょ。」


それでいいのだろうか。考えているとすでにシェーンは店の奥に行ってしまった。




ここでの買い物を終え、店を出る時俺だけお姉さんに止められた。


「ビス君あんな可愛い彼女悲しませちゃ駄目よ。あとシェーン様にもよろしく言っといてね。ここの服気にいったようなら教えてね。そしたらいくつかプレゼントするから。」


何か怖いことを言っていないかこの人は。


「はははっ。何言ってるんですか。おば・・・お姉さん。ここで買い物したのはシェリーですよ。」


「あら、そうだったわね。私ったら、ボケたのかしら、嫌だわ~。シェリーちゃんによろしくね。・・・大丈夫よ。誰にも言わないから。」


そう言って奥へと去っていく。


「ははっはははっ。」


俺は笑いしか出てこなかった。俺はお姉さんの言葉を信じるしかない。それに縋るしかないのだ。そんな思いを抱え外に出た。


「遅かったわね。何かあったの?」


「いや、別に特には。しいて言うなら、俺の運命はお姉さんのみぞ知るってことぐらいかな。」


シェーンはジト目でこっちを見てくる。頭おかしくなったんじゃないのと言わんばかりに。


「何よ、それ。」


「何でもない。忘れてくれ。それよりも次行こう。」


「今度はどこ行くの?」


「そろそろお昼になりそうだし、ご飯にしようかなと思ってるんだけどいい?」


「そうね。お腹も空いてきたところだし。」


「じゃあ、決まり。ほら行くよ。」


俺はシェーンの手を取り歩き出す。なぜか急にシェーンの手が汗ばんできたような気がする。それに何か呟いている。


「だからそれを止めてって言ってるのに。心臓に悪いわ。」


「ん?何か言った?」


「何も言ってないわよ。もう。」



何もしていないのに怒られてしまった。お腹が空いて気が立っているのだろうか。まあ、次のところに着いたら機嫌を直してくれるだろう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

悪役令嬢、休職致します

碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。 しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。 作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。 作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...