101 / 171
第四章 不変
激変
しおりを挟む
朝食も食べ終わり俺とモルテはフロントにやってきていた。この時まではドイボさんは優しかった。俺はあの時部屋の掃除など宿の仕事をやるとドイボさんに言ったのだ。そして今は空き部屋の掃除をしている。モルテとは別行動なので、今ここにいるのは、俺とドイボさんだけだ。ただ、ドイボさんは今朝とは別人のようになっていた。
「おい、ビス。ここまだ埃付いてるぞ。」
「はい。すみません。今すぐ。」
俺はやっと気づくことができた。ドイボの”後悔しないでくださいね。”という言葉の意味に。早くも俺は後悔している。
「はあ、お前はダメだな。あっちの奴の方が見所あったぞ。」
そりゃそうだろう。小さい頃から親の手伝いをしてきたのだから。嫌でも覚えたんじゃないだろうか。
「すみません。」
俺はそういうしかなかった。
「はあ、まあいい。私はあっちの様子を見てくるけど、サボるんじゃないぞ‼」
そう言ってドイボさんはモルテの方へと向かっていった。俺は張り付けた笑顔で見送った。
「・・・やっと解放された。こんなに厳しいなんてな。」
あとでモルテの小言がすごそうだ。ただ、これは俺の招いたことだ。甘んじて受け入れよう。そう誓い、空き部屋の掃除を続ける。
「もうこれくらいでいいだろう。」
辺りを見回すとピカピカに輝いているようだ。まあ、感覚の問題なのだが。これでドイボさんに文句も言われないだろう。試しに隅っこを指でなぞってみる。
「・・・うん。見なかったことにしよう。」
空き部屋の掃除も終わり部屋を出るとちょうどそこにアシオンが通りがかった。
「ん?ここで何やってるんだ?お前の部屋ここじゃないだろ。」
なぜ人の部屋がどこなのか知っているのか気になったが、まあ気にしても仕方ないか。それよりも気になることがある。
「ドイボさんの手伝いを。それよりアシオンさんがどこに行かれるんですか?大剣なんか持って?」
アシオンは大剣を肩に担いでいたのだ。それを気にするなという方が無理だろう。
「これか?ちょっと体を動かそうと思ってな。ちょうどいい。お前付き合えよ。」
アシオンに俺は腕を掴まれ引きずられる。凄まじい力だ。振りほどこうにも振りほどけない。どうやら、あの筋肉は見掛け倒しではないらしい。
「ちょっと待ってくださいよ、アシオンさん。まだ仕事の途中なんです。」
「固いこと言うなよ。おっさんになんか言われたらオレがどうにかしてやるから、な。」
アシオンは何か勘違いをしているようだった。別にドイボさんが怖くて嫌がっていたわけではない。怪しい人物と二人きりになることを避けたかったのだ。だが、俺はアシオンの誘いに乗ることにした。実力を測るのにもいいと思ったからだ。まあ、一番の理由は現実逃避したかっただけなのだが。
「わ、わかりました。だから腕を離してください。アシオンさん。」
そう言うとアシオンはあっさりと腕を離してくれる。ただ、何か言いたげに顔をしかめていた。
「どうかしましたか?」
アシオンはその一言で合点がいったのか、喉のつまりが取れたかのように言葉を発した。
「お前。その敬語やめろ。お前に敬語を使われるとなんかこうむず痒いんだ。」
そう言いながら体を掻きむしっていた。敬語を使う度にこの行動をされたのでは溜まったものではないので、アシオンの言う通りにする。
「わ、わかった。アシオンさん。」
まだ、文句があるのか、アシオンは俺を指さし力強い視線を向けてくる。
「それと、さん付けも禁止だ、いいな。」
「わかった。アシオン。」
それでようやく満足したのか振り返り目的地へと足を向けた。だが、ここまで言われて俺も一言言ってやりたいことがあった。
「アシオン。”お前”ってやめてくれないか。俺は”ビス”だ。」
「・・・ははははっ。すまんすまん、そうだったな。ビス。」
笑うようなことか。それに笑う前に何か不思議な間があったような。まあ、名前をちゃんと呼んだので良しとしよう。
「おい、ビス。ここまだ埃付いてるぞ。」
「はい。すみません。今すぐ。」
俺はやっと気づくことができた。ドイボの”後悔しないでくださいね。”という言葉の意味に。早くも俺は後悔している。
「はあ、お前はダメだな。あっちの奴の方が見所あったぞ。」
そりゃそうだろう。小さい頃から親の手伝いをしてきたのだから。嫌でも覚えたんじゃないだろうか。
「すみません。」
俺はそういうしかなかった。
「はあ、まあいい。私はあっちの様子を見てくるけど、サボるんじゃないぞ‼」
そう言ってドイボさんはモルテの方へと向かっていった。俺は張り付けた笑顔で見送った。
「・・・やっと解放された。こんなに厳しいなんてな。」
あとでモルテの小言がすごそうだ。ただ、これは俺の招いたことだ。甘んじて受け入れよう。そう誓い、空き部屋の掃除を続ける。
「もうこれくらいでいいだろう。」
辺りを見回すとピカピカに輝いているようだ。まあ、感覚の問題なのだが。これでドイボさんに文句も言われないだろう。試しに隅っこを指でなぞってみる。
「・・・うん。見なかったことにしよう。」
空き部屋の掃除も終わり部屋を出るとちょうどそこにアシオンが通りがかった。
「ん?ここで何やってるんだ?お前の部屋ここじゃないだろ。」
なぜ人の部屋がどこなのか知っているのか気になったが、まあ気にしても仕方ないか。それよりも気になることがある。
「ドイボさんの手伝いを。それよりアシオンさんがどこに行かれるんですか?大剣なんか持って?」
アシオンは大剣を肩に担いでいたのだ。それを気にするなという方が無理だろう。
「これか?ちょっと体を動かそうと思ってな。ちょうどいい。お前付き合えよ。」
アシオンに俺は腕を掴まれ引きずられる。凄まじい力だ。振りほどこうにも振りほどけない。どうやら、あの筋肉は見掛け倒しではないらしい。
「ちょっと待ってくださいよ、アシオンさん。まだ仕事の途中なんです。」
「固いこと言うなよ。おっさんになんか言われたらオレがどうにかしてやるから、な。」
アシオンは何か勘違いをしているようだった。別にドイボさんが怖くて嫌がっていたわけではない。怪しい人物と二人きりになることを避けたかったのだ。だが、俺はアシオンの誘いに乗ることにした。実力を測るのにもいいと思ったからだ。まあ、一番の理由は現実逃避したかっただけなのだが。
「わ、わかりました。だから腕を離してください。アシオンさん。」
そう言うとアシオンはあっさりと腕を離してくれる。ただ、何か言いたげに顔をしかめていた。
「どうかしましたか?」
アシオンはその一言で合点がいったのか、喉のつまりが取れたかのように言葉を発した。
「お前。その敬語やめろ。お前に敬語を使われるとなんかこうむず痒いんだ。」
そう言いながら体を掻きむしっていた。敬語を使う度にこの行動をされたのでは溜まったものではないので、アシオンの言う通りにする。
「わ、わかった。アシオンさん。」
まだ、文句があるのか、アシオンは俺を指さし力強い視線を向けてくる。
「それと、さん付けも禁止だ、いいな。」
「わかった。アシオン。」
それでようやく満足したのか振り返り目的地へと足を向けた。だが、ここまで言われて俺も一言言ってやりたいことがあった。
「アシオン。”お前”ってやめてくれないか。俺は”ビス”だ。」
「・・・ははははっ。すまんすまん、そうだったな。ビス。」
笑うようなことか。それに笑う前に何か不思議な間があったような。まあ、名前をちゃんと呼んだので良しとしよう。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【完結済】悪役令嬢の妹様
紫
ファンタジー
星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。
そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。
ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。
やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。
―――アイシアお姉様は私が守る!
最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する!
※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>
既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
※小説家になろう様にも掲載させていただいています。
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる