108 / 171
第四章 不変
意図しない関係
しおりを挟む
”良くもやってくれたな。”という言葉が出てくると覚悟していた。そしてそのあと全員正座させられるものかと。だが、怒っているというよりもむしろ喜んでいるような気さえした。それに俺たちというよりも床の凹みに興味を示しているようだ。ドイボはゆっくりと凹んだ床に近づいていく。
「ありゃー、こりゃ随分派手にやったものですね。」
「すみません、ドイボさん。弁償、というわけにはいきませんが、やはりお金を払わせてもらいます。」
しかし、ドイボさんは、勢いよくこちらを向いてくる。
「あ、いえ。別に怒っているわけではありませんよ。それにお金を払う必要もありません。」
「しかし・・・」
ここまでドイボさんの優しさに甘えるわけにはいかないと思いここは食い下がった。するとドイボさんは俺の目を見つめてくる。ただ、その視線は俺を見ているようで、何か違うものを見つめているようだった。
「・・・似ていますね。それにこの凹み懐かしい。」
ドイボさんの視線はすでに床の凹みへと移されており、俺に聞こえるか聞こえないかぐらいの声でそう呟いている。前半の部分が少し聞き取れなかったが後半はかろうじて聞き取れた。
「懐かしいって昔何かあったんですか?」
「ん?ああ、すみません。声に出ていましたか。いえね、昔これ以上の凹みをつくったやつらがいまして、それでこの凹みを見て思い出してしまったんですよ。あの時は本当に驚いたな。だって扉を開けたらこの部屋の半分以上が抉られ、地面が露出していたんですから。そんなことが何回もありましたからね。」
これ以上の凹みと聞いて、てっきり一箇所のみかと思ったがどうやら違ったらしい。俺の想像以上だ。ドイボさんの言っていた状況を想像してみる。
・・・そりゃ、この凹みではそんなに驚かないはずだ。むしろこんな凹みは可愛いものなのだろう。
「年寄の思い出話なんてつまらないですよね。」
無言でドイボさんの話しを聞いていたからか、誤解させてしまったようだ。
「あ、いえ。そんな事はないです。もっと聞きたくなりました。」
「はははっ。それならいいのですが。ですが、残念なことにもう仕事に戻らなくてはいけませんので、これで。その凹みは後で他の傷とまとめて治しますから、まだ、使っててもらって大丈夫ですよ。」
そぅいってドイボさんはトレーニングルームから出ていく。ドアを開け、そのまま去っていくかと思ったが、何かを忘れていたのかこちらに振り向いて俺を見てきた。
「ああ、それとお金はいいですから。もし、またそんなこと言うようでしたらわかってますね。」
それだけ言うとドアを閉め姿が見えなくなった。敬語でいつもの調子で話してはいるのだが、何かあの時の雰囲気を孕んでいた。あとあと怖いので、もう絶対言うまいと心に誓った。
それにしても、俺以外の奴らはお気楽なものだ。唯一の救いはモルテが俺とドイボさんが話しているのをじっと見ていたことだろうか。ただ、意識はここにないようだった。
「モルテ起きてるか?」
「え?あっはい。ああ、もう終わったんですね。」
視線はこちらに向け、意識を飛ばしていたらしい。なんて器用なことをするんだ。ここにきて見たことがないモルテの姿をいくつか姿を現している。これがいいことなのかどうかわからないが、俺は何だか嬉しかった。まあ、今回の件はちょっとイラっとしたが。
それよりもこの二人だ。片方は自分には関係ないことだと言わんばかりにそっぽを向き大剣を振るっている。そして、会話が終わったことに気付いたのかこちらを向いてくる。
「おっ。話は終わったか。じゃあ、早く手合わせしようぜ。」
俺はその言葉を無視してもう片方に視線を移す。するともう片方はなにやらブツブツ呟いて地面に拳を向け、素振りをしている。何をしたいのか容易に想像ができた。
「おい、やめろ。そんなところで張り合うな。」
「いや、負けたくない。その人以上に穴を開けてビスを驚かす。」
何故俺なんだ。ここはドイボさんではないのだろうか。というか俺はそんなに驚いた表情をしていたのか。それに敬語ではなくなっている。色々ツッコミどころが満載である。しかし、そのツッコミをする余裕はなかった。メイユが俺の言葉を聞かず、このままではこの部屋どころかこの宿さえ破壊されかねないのから。
「おい、そこの暇そうな二人、手伝えよ。雨に撃たれたくないならな。」
なんだか、この一日で随分仲良く?なった気がする。今日でお別れは少し寂しくも感じられてしまう。まあ、完全に気を許したわけではないのだが。
「ありゃー、こりゃ随分派手にやったものですね。」
「すみません、ドイボさん。弁償、というわけにはいきませんが、やはりお金を払わせてもらいます。」
しかし、ドイボさんは、勢いよくこちらを向いてくる。
「あ、いえ。別に怒っているわけではありませんよ。それにお金を払う必要もありません。」
「しかし・・・」
ここまでドイボさんの優しさに甘えるわけにはいかないと思いここは食い下がった。するとドイボさんは俺の目を見つめてくる。ただ、その視線は俺を見ているようで、何か違うものを見つめているようだった。
「・・・似ていますね。それにこの凹み懐かしい。」
ドイボさんの視線はすでに床の凹みへと移されており、俺に聞こえるか聞こえないかぐらいの声でそう呟いている。前半の部分が少し聞き取れなかったが後半はかろうじて聞き取れた。
「懐かしいって昔何かあったんですか?」
「ん?ああ、すみません。声に出ていましたか。いえね、昔これ以上の凹みをつくったやつらがいまして、それでこの凹みを見て思い出してしまったんですよ。あの時は本当に驚いたな。だって扉を開けたらこの部屋の半分以上が抉られ、地面が露出していたんですから。そんなことが何回もありましたからね。」
これ以上の凹みと聞いて、てっきり一箇所のみかと思ったがどうやら違ったらしい。俺の想像以上だ。ドイボさんの言っていた状況を想像してみる。
・・・そりゃ、この凹みではそんなに驚かないはずだ。むしろこんな凹みは可愛いものなのだろう。
「年寄の思い出話なんてつまらないですよね。」
無言でドイボさんの話しを聞いていたからか、誤解させてしまったようだ。
「あ、いえ。そんな事はないです。もっと聞きたくなりました。」
「はははっ。それならいいのですが。ですが、残念なことにもう仕事に戻らなくてはいけませんので、これで。その凹みは後で他の傷とまとめて治しますから、まだ、使っててもらって大丈夫ですよ。」
そぅいってドイボさんはトレーニングルームから出ていく。ドアを開け、そのまま去っていくかと思ったが、何かを忘れていたのかこちらに振り向いて俺を見てきた。
「ああ、それとお金はいいですから。もし、またそんなこと言うようでしたらわかってますね。」
それだけ言うとドアを閉め姿が見えなくなった。敬語でいつもの調子で話してはいるのだが、何かあの時の雰囲気を孕んでいた。あとあと怖いので、もう絶対言うまいと心に誓った。
それにしても、俺以外の奴らはお気楽なものだ。唯一の救いはモルテが俺とドイボさんが話しているのをじっと見ていたことだろうか。ただ、意識はここにないようだった。
「モルテ起きてるか?」
「え?あっはい。ああ、もう終わったんですね。」
視線はこちらに向け、意識を飛ばしていたらしい。なんて器用なことをするんだ。ここにきて見たことがないモルテの姿をいくつか姿を現している。これがいいことなのかどうかわからないが、俺は何だか嬉しかった。まあ、今回の件はちょっとイラっとしたが。
それよりもこの二人だ。片方は自分には関係ないことだと言わんばかりにそっぽを向き大剣を振るっている。そして、会話が終わったことに気付いたのかこちらを向いてくる。
「おっ。話は終わったか。じゃあ、早く手合わせしようぜ。」
俺はその言葉を無視してもう片方に視線を移す。するともう片方はなにやらブツブツ呟いて地面に拳を向け、素振りをしている。何をしたいのか容易に想像ができた。
「おい、やめろ。そんなところで張り合うな。」
「いや、負けたくない。その人以上に穴を開けてビスを驚かす。」
何故俺なんだ。ここはドイボさんではないのだろうか。というか俺はそんなに驚いた表情をしていたのか。それに敬語ではなくなっている。色々ツッコミどころが満載である。しかし、そのツッコミをする余裕はなかった。メイユが俺の言葉を聞かず、このままではこの部屋どころかこの宿さえ破壊されかねないのから。
「おい、そこの暇そうな二人、手伝えよ。雨に撃たれたくないならな。」
なんだか、この一日で随分仲良く?なった気がする。今日でお別れは少し寂しくも感じられてしまう。まあ、完全に気を許したわけではないのだが。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
悪役令嬢、休職致します
碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。
しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。
作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。
作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる