転生夫婦~乙女ゲーム編~

弥生 桜香

文字の大きさ
17 / 122
第一章

16

しおりを挟む
「さて、ヒース。」
「はい。」
「何の御用でわたくしの所に来ましたの?」
「姉さん、あの女に関わるのは止めてください。」
「あの女?」
「殿下に付きまとうあの女です。」

 ヒースの言葉に一人の女生徒を思い浮かべる。

「あの娘がどうしたというの。」
「あの女は様々なマナー違反を犯しています。」
「ええ、そうね。」

 私は口の中が苦く感じ、お茶を飲む。

「さっさと追い出しましょう。」
「……。」

 ヒースの言葉に私は思わず、力任せにカップを置いてしまい、耳障りな音がした。

「姉さん?」
「貴方が言いたいのはそれだけかしら?」
「それだけって…。」

 困惑する彼に私は彼に視線を向ける。

「あの方の経歴に傷をつける気ですか?」
「えっ?」
「あの方は身分により生徒会長になっておりますわ、そして、学生が辞めるとなれば貴族の方々は何と思うでしょう?」
「その生徒に問題があったのかと。」
「ええ、そう思う方もいらっしゃいますわ、でも、少数でしょうね。」

 そう、そう思ってくれる人はこちら側か中立の人間だろう。
 実際は違う。

「あの方の手腕がなっていないと、言う方が出てきますわね。」
「……。」

 まさか、と声なき声に私は苦笑し、ミナを見る。
 彼女は小さくコクリと頷いた。
 やはり、そうだった。

「なので、わたくしが口を酸っぱく言い続けるしかありませんね。」
「ですが。」
「下手にあの方が出ればあの娘はきっと自分のいいように解釈をするに違いありませんし。」
「それは…。」

 口ごもるヒースに私は目を瞑る。

「大丈夫です、そもそも彼女の学力ならば間を置かず、出ていく事になるでしょう。」
「えっ?」
「ミナ。」
「はい。」

 ミナは何処からか一枚の紙を取り出した。

「姉さん?」
「こちらはあの娘成績よ。」
「何でそんなものがここに…。」
「……。」
「……。」

 ヒースの言葉に私とミナは顔を見合わせる。

「秘密よ。」
「……次期当主となられるのでしたら、これくらい出来るようになさってくださいな。」
「ミナ。」
「あら、少し違いましたね、このくらいできる部下を作ってくださいね。」
「……。」

 黙り込むヒースに私は溜息を零す。
 確かに今の彼のままだと少し不安がある、でも、彼には伸びしろがあるし、きっと、この学校で自分の至らない部分に気づいてくれるだろう。

「さて、ヒース、そろそろ、お部屋に戻りなさい。」
「姉さん…。」
「明日も学校ですよ。」
「……。」

 まだ何か言いたそうな彼に私はきつく言う。

「ヒース。」
「分かりました……姉さん。」

 ゆっくりと立ち上がり、扉に手を伸ばした彼は振り返った彼は私を見つめる。

「姉さんは幸せですか?」

 ヒースの質問に私はあの人の姿を思い浮かべた。

「ええ、勿論よ。」
「……………………分かりました。」

 私の表情を見たヒースは今にも泣きそうな顔をしながら頷いた。

「おやすみなさい、姉さん。」
「ええ、ヒースもおやすみなさい、ゆっくりと休んでね。」
「はい。」

 静かに扉が閉まり、ミナは扉に向かって舌を突き出す。

「ミナ。」
「あんなお子様許せません。」
「……。」

 ミナは手厳しいなと私は思いながらそっと立ち上がり、窓辺に立つ。

「ねぇ、ミナ。」
「はい。」
「私はあの方が平穏ならば、正直に言えば、この国何てどうなってもいいんです、まあ、この世界が崩れないように私たち均衡者がいるのに…矛盾しているかしら?」
「いいえ。」

 私の疑問にミナは首を振る。

「貴女様は世界が終焉を迎えない為にいらっしゃいます、なので、それよりも小さな国が滅びようと、一つの貴族が没落しようが、人が亡くなろうが関係はありません。」
「……。」

 ミナの言葉に私は苦笑する。

「私は本当にずるいわね。」
「何がですか?」
「貴女は私、私は貴女、答えなんて自問自答、分かっているはずなのにね。」
「仕方ありません、それに貴女様とわたしは確かに同じ存在でしたが、残念ながら今は違います。」
「ミナ?」
「わたしは貴女様と同じようにあの方を想う事は決してありません、強いて言いますと、貴女様を取られるようで憎くも感じます。」
「……。」

 ミナの言葉に私は正直驚いた。
 確かに彼女からはあの人に対して私のような感情は抱いていない事を知っていた、だから、多分、彼と同じ分身を作れば彼女がその彼を愛するのだとは本能のように確信している。
 でも、まさか、彼女の口から憎んでいる何て言葉が出てくるとは思いもよらなかった。

「ミナ。」
「さて、イザベラ様、もう就寝なさってください、明日も学校がありますしね。」

 切り替える彼女に私はこれ以上何も言えなかった。
 小さく頷き、私は寝支度を始める。
 私と彼女は同じ存在、だけど、切り離された瞬間に、私たちは別の存在になった。
 それは必要な事だった。

 でも……、それはよかったのかと、後々、私は自問自答する事になる。

 だけど、残念ながらこの時の私はそれを知る由もなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

悪徳領主の息子に転生しました

アルト
ファンタジー
 悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。  領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。  そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。 「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」  こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。  一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。  これなんて無理ゲー??

異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
 農家の四男に転生したルイ。   そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。  農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。  十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。   家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。   ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる! 見切り発車。不定期更新。 カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南
ファンタジー
十二才の少年コウヤは、前世では病弱な少年だった。 それは、その更に前の生で邪神として倒されたからだ。 今世、その世界に再転生した彼は、元家族である神々に可愛がられ高い能力を持って人として生活している。 コウヤの現職は冒険者ギルドの職員。 日々仕事を押し付けられ、それらをこなしていくが……? ◆◆◆ 「だって武器がペーパーナイフってなに!? あれは普通切れないよ!? 何切るものかわかってるよね!?」 「紙でしょ? ペーパーって言うし」 「そうだね。正解!」 ◆◆◆ 神としての力は健在。 ちょっと天然でお人好し。 自重知らずの少年が今日も元気にお仕事中! ◆気まぐれ投稿になります。 お暇潰しにどうぞ♪

異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが

ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

処理中です...