転生夫婦~乙女ゲーム編~

弥生 桜香

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第一章

18 《アルファード》

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 始めは小さな違和感だった。
 だけど、それが確信に変わったのは授業中に変わった彼女の空気だった。

 昔から、彼女はそういったものに敏感だった。
 そのお陰で何度も俺たちは救われてきた、だから、俺は彼女のその直感を信じている。
 彼女が立ち上がった瞬間、俺もすぐさま立ち上がる。

「……。」
「……。」

 俺の立てた音に気づいたのか彼女が振り返る。
 ああ、綺麗だ。そのアイスブルーの瞳。
 たとえ、姿形が変わってもその瞳の奥にある彼女の美しさはいつの時代も変わらない。
 彼女と俺は頷き合う。

「どうしたんだ。」

 先ほどまで授業を行っていた教師が突然の俺たちの行動に戸惑っているが構っている余裕なんてものはない。

「緊急事態です。」
「すぐに生徒を安全な場所に避難させてください。」

 俺たちは簡単な指示を飛ばすと、それぞれの方向に向かう。
 彼女の得物は弓矢だ。
 それならば広い場所が必要となる。
 彼女はそれを理解しているから上へと向かう。
 本当は彼女を守る為に俺もついていきたかったが、それは出来ない。
 だってな……。

「ここを通せば、イザベラの危険度が上がるからな。」

 そう地上の魔物を一掃しなければ、彼女に危険が及ぶ。
 それを理解しているから、自分は彼女の傍ではなくこの戦場を選んだ。
 まあ、自分の立場的に考えれば安全な場所に避難した方がいいのだろうが、そんな事をすれば間違いなく自分以外の多くの人が犠牲になる。
 正直、イザベラ以外の人間が死んでも俺としては構わない。
 だけど、彼女は俺ほど非道にはなれない。
 優先順位は互いに一番は決まっている。

 俺は彼女の命。

 彼女は俺の命。

 そして、次点で己の命。

 後は自分たちの子どもやその子孫。

 親兄弟は正直その時代時代によって変わってくる。
 今の俺の家族は守りの対象にはなりえない。
 でも、彼女の家族は弟以外はまあ、いい人だとは思う…。
 いや、あの姉はどうしたものか…。
 イザベラを愛している時点で確かに好ましいものはある、だけど、あの愛情は行き過ぎてはいないではないか。

「っと、考え事はここまでだな。」

 俺は近づく魔物の群れににらみを利かせる。
 俺の殺気に魔物の群れでも前衛にいた奴らは一瞬怯んだが、相手が俺一人だと分かったのか、前進し続ける。

「強者が誰かも分からない何て可愛そうな奴らだな。」

 俺は馬鹿にするようにそう吐き捨てると、俺の半身を呼び出す。

「《騎士(リッター)》っ!」

 手に馴染む剣に俺は頼もしく思う。
 この《騎士(リッター)》で多くの彼女の敵を葬って来た、今だってそれは変わらない。

「行くぞ。」

 石畳を蹴り、俺は一気に距離と詰める。

「火の精霊よ、我が願いを聞き、我が敵を焼き尽くせ。」

 数が多いので、俺は特に範囲を指定する事なく俺の周りに常にいる精霊に命じた。
 彼らは喜び、俺の魔力を吸って力を放出してくれる。
 お蔭で十分の一くらいは減っただろう。
 その時、上から凛とした玲瓏たる詠唱が聞こえた。

「降り注げ、氷の雨 氷雨(アイスレイン)っ!」

 数多の氷柱が降り注ぎ、天を支配しようとしていた魔物を打ち落とす。
 彼女の狙いが良いのか、魔物が落ちてくるのは俺のいない範囲内でしかも、落ちて来た魔物が下にいる魔物を下敷きにして圧死させてくれているので、本当に助かった。

「負けてられないな。」

 俺は口角を上げ笑う。
 きっと鏡を見れば獰猛な笑みを浮かべた自分がいるのだろうけど、不幸か幸いかここには鏡なんてものはないので、分からない。

「舞え、火炎、踊れ、灼熱、円舞灼炎っ!」

 詠唱をすれば炎が俺の意思を組み踊り出す。
 炎が魔物を舐め上げ、黒焦げにする。
 その間に俺は剣を走らせ、魔物を確実に斬っていく。
 時に、背後を取られそうになるが、そんな時はいつも天から月の女神(イザベラ)がその矢を放ち、確実に仕留める。

 そして、魔物は俺たちに勝てないと分かったのかじりじりと後退する。
 俺たちは深追いをするつもりはない、だから、逃げるなら、逃げろ、でも、今後の憂いをなくす為にお前らの命はギリギリまで奪うけどな。
 そうこうしている内に最後の一体を塵にして、俺たちは防衛戦を勝ち取った。

 俺は振り返り、彼女を見る。
 本当なら彼女の姿何て見えないはずなのに、俺の目にははっきりとその姿が見えた気がした。
 俺の月の女神はその美しい銀糸を靡かせ、天を仰いでいる。

 俺はここでようやく自分が勝ったのだと実感する。
 天に《騎士(リッター)》を掲げる。
 その時、歓声が上がった。
 うるさく感じたが、それでも、俺はそれを咎める事無く剣を振ると半身は現から姿を消す。

 さて、どうなるか。

 このゲームの物語は走り出したばかりだ、エンディングまではまだ遠い。
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