転生夫婦～乙女ゲーム編～

第一章

５１

　とうとうその日がやってきてしまった。

　私は朝から体を磨かれ、髪まで艶やかにされた。

　普段は使わない気づかいによってかなりげんなりしたが、それでも、まだ終わっていない。

　できるだけ表情に出さないようにしていたが、ミナだけは理解してくれたのか、ずっと苦笑だった。

　純白の衣装に、瞳と同じ色のイヤリング。

　髪飾りはアルファードの瞳と同じ色の物を使った。

　鏡を見れば、まるでモデルように美しい人が立っていた。

「まるで美の女神のようです。」
「いえ、月の女神でしょう。」
「ああ、どちらにしても、お美しい。」

　自分を絶賛してくれるメイドたちに私はこっそりと苦笑を漏らす。

「イザベラちゃん、準備は出来たかしら？」
「はい。」

　お母様も綺麗に着飾っている。

　深紅のドレスは着る人を選びそうなのに、お母様にあつらえたかのようにぴったりだった。

　耳飾りはお母様の瞳の色。

　首飾りはお父様の瞳の色のもので、調和がとれていた。

「まあ、流石、イザベラちゃんよく似合っているわ。」
「お母様もお美しいですよ。」
「あら、いい年をしたおばさんにそんなお世辞はいいのよ？」
「世辞じゃありません、事実です。」
「ふふふ、ありがとう。」

　笑うお母様はふっと、笑みを消し、冷笑を浮かべる。

「あら、旦那様、そんなところでどうしました？」
「……。」

　扉の陰からお父様が姿を現し、私はびっくりする。
　と言っても、私以外のメイドたちも驚いているのだが、私をはじめ誰も表情に出していない。

「……準備は整ったか？」
「はい。」
「では、急ぐとしよう。」
「あら、旦那様、何か言う事はありませんの？」
「……。」

　お父様は私とお母様を見て、そして、何も言わずに出て行く。

「旦那様、素直におっしゃってくださいな。」

　お母様はニヤニヤと笑いながらお父様を追いかける。

　お母様は本当に意地悪だ。

　きっと、素直に言葉を言わないお父様をギリギリまでおちょくるのだろう。

　そして、それを私は間近に見る羽目になるのだろう。

　今からかなり憂鬱だ。