転生夫婦~乙女ゲーム編~

弥生 桜香

文字の大きさ
66 / 122
第二章

しおりを挟む
「ちょっと、あんた、脚もんで。」

 私は荷物をほどいていると、ホリアムット男爵令嬢がベッドに寝そべりながらそんな事を言ってきた。
 何とか私たちは日没までに街にたどり着くことが出来て、たまたま三室空いていたので、それで、部屋を取った。
 部屋割りはアルファードとメイカ。
 ヒース、ボラリスク様、ファラウス様。
 そして、ホリアムット男爵令嬢と私という割り振りになった。

「ちょっと、愚図いわね。」

 現実逃避をしていた私でしたが、苛立つ声にこれ以上は無理かと思い、諦めて手を止める。

「申し訳ございません、わたくしは貴方様のメイドではございません。」
「はあ?何言ってんの、メイドなんだから、一緒でしょ。」
「……。」

 呆れたように言うホリアムット男爵令嬢に私は何とか笑顔の仮面を維持する。

「わたくしの主人はイザベラ様ですので。」
「だから?わたしはあんたのご主人様を救い出してあげるいわば救世主様なのよ、それなのに、あんたが敬わないなんておかしいじゃない。」
「……。」
「ほら、さっさとして、この後夕食なんだから。」
「……。」

 これ以上何を言っても無駄なのだと分かり、私はため息を零し、それでも、彼女を無視する。

「ちょっと、あんたマジ頭悪いわけ?」
「……。」
「そんな事は後でいいから、さっさとこっちをやりなさいよ。」
「殿下はおっしゃったはずです、この旅では自分の事は自分で行うようにと。」
「だったら何?」
「貴女様は何をなさっております?」
「何って疲れたから休んでいるのよ、何か文句あるかしら。」
「……。」

 自分の事ばかりしか考えていない彼女に私はため息を零しそうになる。

「自分の荷をほどかなくてはいいのですか?」
「はあ?そんなん必要ないでしょ?」
「何故ですか?」
「明日出るんだし、なんの問題ないでしょ。」
「さようですか。」
「つーか、ペチャクチャ喋る余裕があるなら、さっさと脚もんで。」
「致しかねます。」
「ああ?」

 はっきりと断ると、彼女は近くに飾っていた花瓶を掴み、その水を私にかける。

「……。」
「あんたね、自分の立場が分かっている訳?」
「……。」

 水滴が荷物にまで垂れそうだったので、私はそれを阻止する。

「あんたはお荷物、わたしは救世主、だったら、分かるわよね。」
「……。」
「ほら、さっさと脚をもんで、むくんでいるんだからね。」
「……。」

 このまま断れば確実に彼女は私を傷つける事を厭わないだろう。
 そんな事になれば、確実に彼が激怒する。
 これ以上、状況を悪化するのはよくないと思い、私は渋々ながら動くことにした。
 濡れた体の水分を近くにあった器に移し、体と服を乾かし、私は彼女のむくんでいると言っている脚をもみはじめた。

「ふーん、あの女のメイドは伊達じゃないのね、ねぇ、あんたさ、あの女じゃなくてわたしに仕えなさいよ。」
「……。」
「まあ、いいわ、そのうちわたしの慈悲深さにあんたから頭を下げる事になるんだしね。」
「……。」

 誤って傷つけないように私は細心の注意を払い、ホリアムット男爵令嬢の脚を揉む。
 それは夕食だとファラウス様が呼びに来るまで続いた。

「はー、お腹すいた、じゃあ、あんたはわたしが戻ってくるときに着る服とか用意しときなさいよ。」
「……何故、ミナ嬢がそんな事をなさっているんですか?」
「彼女はメイドだし、当たり前の仕事ですよね?」
「……。」

 扉の向こうでファラウス様が何か言いたげに口を開こうとするが、私は首を振って、それを制する。

「じゃ、ツェリベ様行きましょう。」
「……。」

 ファラウス様を犠牲にして私はようやく雫になった部屋で自分の荷ほどき、とホリアムット男爵令嬢の分も行った。
 そして、夕食を終え、彼女は私に休みを与える事無く無茶なお願いと言う命令を言うが、私はその半分くらいしか聞くことなく、何とかやり過ごした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが

ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。

悪徳領主の息子に転生しました

アルト
ファンタジー
 悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。  領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。  そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。 「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」  こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。  一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。  これなんて無理ゲー??

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

処理中です...