転生夫婦～乙女ゲーム編～

第二章

１３

「メイカ。」
「メイカっ！」
「……。」

　喜色を浮かべるホリアムット男爵令嬢は現状を本当に理解していないと思う。
　彼は何を思って私の肩を抱くのか。
　彼は何を考えて貴女の手を掴むのか。
　何故理解しないのだろう。

「メイカ、聞いてよ、この女ったらわたしの物を盗んだのよっ！」
「ミナはそんな事をしない。」
「する、ていうか、メイカ騙されているっ！」

　唇を尖らせる彼女に私はため息を零し、彼は得体の知れないモノを見るようにホリアムット男爵令嬢を見ている。

「何だ。」
「また、喚いているのか。」
「……いい加減にしてほしいですね。」

　流石に五月蠅かったのか、三人が部屋から出てくる。

「ねえ、彼は？」
「あいつは、部屋だ、流石に出てくるのはまずいだろう。」
「ええ。」

　絶対にメイカに媚を売るだろうホリアムット男爵令嬢に私とアルファードは同時にため息を零す。

「聞いてくださいよ、この子ったら。」
「ミナ、すまないが、中に入れてくれないか。」

　流石にこれ以上外で話す内容ではないと判断した彼が許可を求めてくる。

「ええ、どうぞお入りください。」

　私はアルファードと彼ら三人を中に入れる。
　本当に何で彼女は事を荒立てるのが好きなのか分からない。
　上からの命令がなければ確実に満場一致で彼女を置いて行くことが出来るのに、何で命令があるのだろうか。
　私はこっそりと息を吐く。

「で、何があったんですか？」

　冷めた目でツェリベ様がホリアムット男爵令嬢を見る。

「聞いてくださいよ、この子ったらわたしのお金を盗んだんですよっ！」
「……身に覚えは？」

　ツェリベ様が私を見て聞く。

「ありません。」
「でしょうね。」

　ツェリベ様は端から私を疑っていなかった、まあ、当然だろう、今までの行いを見て私を信じるか、彼女を信じるか当然の結果だろう。

「何で、わたしを信じないのよっ！」

　信じられないと憤慨する彼女に全員がげんなりとなる。

「それではお聞きします、貴女の財布にはいくら入っていますか？」
「最初は二千あったわ、だけど、バトッたのにお金が増えていないのよ、絶対にこいつが盗んだに決まっているっ！」

　ビシリと私に指を突きつける彼女に私は首を振る。

「そんな事は致しません。」
「申し訳ございませんが、ミナさん、貴女の残額は？」
「三千と五百二十六です。」

　ツェリベ様は私に手を差し出し、私は持っていた財布と、簡単につけている帳簿を彼に渡す。

「………間違いはありません。」
「はあ、あり得ない、というか、絶対にこの女が使いまくっているんだら、信じてよ。」
「色々突っ込みたいが、あんたさ何で戦えば金が増えると思っているんだ？」
「そう言うシステムだからよ。」
「……。」

　ヒースたちは互いに顔を見合わせ頭がいかれていると顔をしている。

「そんな事は起きません。」
「はあ？」

　私が否定の言葉を言えば、ホリアムット男爵令嬢は顔を歪める。

「何でそう言い切るのよ。」
「私たちは獣の皮も牙も何も取ってきておりません、倒して匂いを出来るだけ消してからここに来ているので、換金も出来ませんので決してお金が増える事はありません。」
「何を言っているのよ、戦えば必ずお金や素材が手に入るでしょ。」
「そのような奇怪な現象は見た事がありません。」
「奇怪って何なのよ、この世界は。」
「……私としては貴女の考える世界の方が何なんですかと、問いたくなります。」

　思わずと言うようにヒースたちが頷いているのが見える。
　この人はどれだけ自分の世界に浸っているのか、私は彼女の将来がどこかに隔離されている姿しか思いつかなかった。

「つまりは、この女の狂言だったという事だな。」
「そうですね、時間の無駄ですね。」
「えっ、嘘でしょ、悪いのは全部この女なのに。」

　あっさりといなくなろうとするヒースたちにホリアムット男爵令嬢は愕然としている。

「もし、貴女が、金が欲しいというのなら自分で何か街などで換金できるものを考えてください。」
「なっ、何でよ、わたしは貴族なのよっ！」
「ええ、貴族のお嬢様ですね、世間知らずの。」

　ツェリベ様は冷めた目で彼女を睨み、そして、身を翻す。

「災難だったな。」

　ヒースは憐憫の籠った目を私に向ける。

「申し訳ございません、私が未熟でしたので事を荒げてしまいました。」
「……いや、こんな非常識な奴に常識は通用しない、何かあれば言ってくれ。」
「ありがとうございます。」

　本当は自分だってかかわりたくないのにヒースは私に優しく声をかけてくれる。
　でも…、ヒースそれはよくないわ、だって、私の後ろでアルファードが貴方を睨んでいるのよ。
　少しは成長したと思ったけど…、空気が読めないのね…、残念なのは変わらないのね…。