転生夫婦~乙女ゲーム編~

弥生 桜香

文字の大きさ
83 / 122
第二章

20

しおりを挟む
 手続きを終えた私たちは宿に戻ると、宿の前にはすでに準備の終えたメイカたちがいた。

「おっそーい、どこに行っていたのよ。」

 眉を吊り上げ、不満げな顔をするホリアムット男爵令嬢に私は頭を下げる。

「申し訳ございません、旅に必要なものを用意していた為遅くなりました。」
「嘘でしょ?」
「何故そのように思われるのでしょうか?」

 唇を尖らせているホリアムット男爵令嬢に私は本気で首を傾げる。

「だったら、何でメイカが一緒なのよ、必要ならあんた一人で行くべきでしょ?」
「……朝早くに女を一人歩かせろと言うのか?」
「そりゃ、か弱いわたしだったらよくないけど、そこの鉄仮面の女なんて問題ないでしょ?」

 アルファードの言葉にホリアムット男爵令嬢はそんな事を言うものだから、後ろから怒りの感情が吹き出しているのがヒシヒシと伝わる。

「どうせ、そんな貧相な奴欲する方が頭おかしいのよ。」
「……頭がおかしくて結構だな。」

 アルファードはそう言うとホリアムット男爵令嬢を睨みながら私の肩を持つ。

「お前みたいな女にこいつの良さは一生分からないさ。」
「……色々言いたいのは分かるが、その辺にしておけ。」

 うんざりとしたような顔でメイカが会話に割り込む。

「えー、アル、この女規律を破っているんだよ、この女を置いて行こうよ。」
「ホリアムット男爵令嬢。」
「アル、ローズって呼んで。」

 媚を売るように笑うホリアムット男爵令嬢に全員がうんざりしている。
 それなのに、気づかないだなんて、凄い鋼の神経をしているのだと感心する。

「お前はこの旅の目的を理解しているのか?」
「そりゃあ、分かっていますよ、わたしが聖女として魔王を倒せばいいんですよね?」
「……。」
「それで、アルのお嫁さんにふさわしいと思ってもらえて、戻ったら結婚ですよね、きゃー、素敵、どんなドレスがいいかな。」
「……。」

 一人で妄想を広げる彼女に全員が引きまくっている。

「分かっていないようだな。」

 メイカの低い声にホリアムット男爵令嬢は首を傾げる。

「オレの唯一は彼女しかいない。」
「ん~?わたしですよね?」

 どこまでも自分本位の事しか言わない彼女にメイカの額に青筋が浮かんでいる。

「誰が、お前だと言った?」
「ふふふ、照れないで下さいよ。」
「照れてない。」

 メイカの指が腰に佩いている剣に伸びている。

「「アルファード」の唯一は「イザベラ」しかいない、何で分からないんだ、この常春女が。」
「ちょっと、アル聞き捨てならないんだけど?」

 メイカの言葉にホリアムット男爵令嬢は半眼になる。

「何であんな女の名前を上げる訳、つーか、アルって実は頭が悪の?
 あの女は生きていないって言っているでしょ、だから、アルはあんな女と結婚できないの。
 大丈夫よ、アルにはわたしがいるだし、わたしがちゃーんと幸せにしてあげるから。」
「……。」

 私たちはホリアムット男爵令嬢の言葉に絶句する。
 何故彼女はそこまで自分に酔えるのだろう。
 ここは現実なのに。
 夢(ゲーム)の中では決してないのに、何でシナリオ通りに進むのだと信じ込んでいるのだろう。
 もし、物語とかでこの先の話がそうなっていたとしても、これまでの話で確実に異なる場所があったはずなのに、何故彼女は妄信的に自分の世界を信じるのだろう。

「ありえない。」
「アル?」
「絶対にありえない、もし、彼女が生きていないというのなら、その時は――。」

 メイカはそう言うとまっすぐに私を見る。
 その時は、殺してくれ。
 その目はそう言っていた。
 私はそっと目を伏せる。

 分かる気がする。
 置いて行かれる立場であった私も一緒に死んでしまいたいと思った事もある、だけど、そうすれば、私を守ろうとしてくれた彼を冒涜する事になると思って、生きようとした。
 でも、結局は彼を失ってから長くは生きられなかったのだけど。
 だから、メイカの視線の思いは分かる気がした。

「まあ、まあ、人の目も増えてきましたし、そろそろ次の街に行きましょう。」

 ツェリベ様が割り込み、そう言ってきた。

「……。」
「……。」

 メイカはこれ以上冷静にホリアムット男爵令嬢に構っていられる気がしなかったのかそっぽを向き、荷物を担ぐ。

「ミナ。」
「……ええ。」

 アルファードに促され、私は用意されていた自分の荷物を持つ。

「それじゃ、行こうか。」

 空気が悪いまま私たちは次の街に向かって歩き出した。

 私はメイカのあの目が脳裏に焼き付いてしまっていた。

 「彼」はいつごろから、「私」にあんな目を向けていたのだろう、始めは虚ろだった瞳、その目はやがて光を取り戻し、いつの間にか、メイカのあの目と同じ輝きを放っていた。

 本当にメイカは「彼」なのだと突きつけられる。

 もし、ミナを失えば、彼は壊れてしまうだろう、そして、メイカはミナがいなければ、この生に執着をしない。

 もし、この世に未練があれば、ミナを死に追いやった原因を滅する事だろう。

 そうならないように私はひそかに祈る。

 どうか、この旅路の先に悲しみがありませんように。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

まったく知らない世界に転生したようです

吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし? まったく知らない世界に転生したようです。 何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?! 頼れるのは己のみ、みたいです……? ※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。 私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。 111話までは毎日更新。 それ以降は毎週金曜日20時に更新します。 カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが

ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。

処理中です...