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第二章
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ようやく次の街にたどり着き、私たちはすぐさま宿を取った。
ホリアムット男爵令嬢はあの時から大人しくなっている、正直怖いと思ってしまう。
彼女が何を思って口を閉ざしているのか。
現実を認めてくれているのか。
それとも、さらなる現実逃避をしているのか。
現実を見てくれているのならそれは嬉しい事だけれども、もし、現実逃避をしているのならば、彼女はどんな突拍子もない事を言いだすのか分かりかねる。
「そう言えば、ここは温泉と言うのがあるんだったな。」
「ええ、疲労にも効くそうですから言って見るのもいいかもしれませんね。」
「…だが、山に入るみたいだぞ。」
「………マジか。」
「また、山に入るのですか。」
呑気な会話をしている三人に私はそっとアルファードを見る。
「……。」
アルファードは少し呆れたような顔をしているが、その目は優しかった。
「……疲れているから、パスする。」
「そうですね、疲れをとる為に行くのに、疲れに行くのは少し。」
「別に大した効果はないだろう。」
温泉を知らないヒースたちはどうやら行きそうもないようだった。
「メイカたちはどうします?」
「興味があるから俺は行こうと思うが…。」
「部屋で大人しくしておくから勝手に言ってこい。」
メイカはそう言うと、自分に当てられた部屋に向かった。
「あの方も部屋に戻られたし、自分たちも戻りますか。」
「そうだな。」
「だな。」
ヒースたち三人も部屋に行く。
ホリアムット男爵令嬢はかなり前に部屋に戻っているので、廊下にいるのは私と彼だけだった。
「それにしても、温泉があるだなんてここの世界観はどうなっているのかしらね。」
「さあな、だが、そのお陰で色々楽しめるだろう。」
「そうね。」
少し呆れたように言う、私にアルファードは肩を竦める。
「すぐにでも行くのか?」
「ええ、暗くなる前に行きたいと思うわ。」
「分かった、それじゃ、準備出来次第ロビーで。」
「分かったわ。」
私は急いで準備をする。
その時、ベッドに横たわるホリアムット男爵令嬢を見る。
「……。」
本当はあまり声をかけたくなかった。
だけど、もし、彼女も温泉に興味があるのなら一人で行くよりは、と思うので、結局私は声をかけていた。
「今から温泉に行こうと思うのだけれども、貴女様も行きますか?」
「……。」
彼女は顔を一瞬上げ、そして、何の感情もない目のまま首を横に振った。
「そうですか。」
「……。」
「山の方にありますので、お一人ではいかれないようにお気をつけてくださいね。」
「……。」
ホリアムット男爵令嬢は無言のままベッドにまた倒れこむ。
「……。」
彼女が一体何を考えているのか分からなかった。
だけど、私が首を突っ込むのも変な気がしたので、結局私は外で待っているアルファードを思い、準備を整えるとそのまま外に出る。
そして、案の定、彼は先に私を待っていた。
「お待たせ。」
「いや、あまり待っていない。」
「そう?」
「ああ。」
アルファードは軽装で腰にはしっかりと剣を佩いていた。
「それにしても、温泉って久しぶりね。」
「ああ、最後に行ったのはいつだったか?」
「多分、孫たちと近場の温泉に行ったのが最後のはずよ。」
「そうか、そんなにも前か。」
「ええ。」
あの時の真っ赤な欠片が落ちる光景を思い出し、泣きたくなる。
平和な日常。
だけど、それも、ごくわずかな時間でしかなった。
「……貴方は幸せでしたか?」
私の問いにアルファードは軽く目を見張り、だけど、すぐに優しい笑みを浮かべる。
「お前がいて、幸せじゃない時なんてほとんどない。」
「……。」
苦しい事だって、悲しい事だってあったはずなのに、彼はいつもそう言って微笑んでくれる。
それが嬉しくて、だけど、不安になる。
「お前は違うのか?」
「私も幸せです、だけど、貴方にはいつも頼りっきりで…。」
「それが俺の誉だからいいんだ。」
「……。」
「ああ、もう着いたようだな、山と言っていたが、そんなに高くはなかったようだな。」
いつの間にか私たちは温泉が湧き出ている場所に建てられた小屋、いや、小屋よりはもっといい建物だけれども、それでも、「前」の旅館とかそう言うのよりやはり劣っている建物がそこにあった。
「……男女混浴のようだな。」
「ええ、そうね、私は構わないのだけども。」
「いや、俺はここで見張りをしているからゆっくり入ってこい。」
アルファードは一度中に入り、中に誰もいない事を確認するとそう言ってくる。
「でも。」
「もし、誰かが入ってきたらお前が困るだろう。」
「ええ。」
「だったら、大人しく入ってこい。」
こうなったアルファードは頑固なので、私はおとなしく一人温泉を堪能したけれども、やはり、こんな広い温泉に一人は贅沢すぎるようなきがした。
そして、十分に堪能した後、アルファードと見張りを交代するが、彼は外で見張っていたのに、私は中で待つことなる。
彼曰く湯冷めしたらどうするんだという事だ。
本当に過保護な彼に私は失笑しか出ない。
ホリアムット男爵令嬢はあの時から大人しくなっている、正直怖いと思ってしまう。
彼女が何を思って口を閉ざしているのか。
現実を認めてくれているのか。
それとも、さらなる現実逃避をしているのか。
現実を見てくれているのならそれは嬉しい事だけれども、もし、現実逃避をしているのならば、彼女はどんな突拍子もない事を言いだすのか分かりかねる。
「そう言えば、ここは温泉と言うのがあるんだったな。」
「ええ、疲労にも効くそうですから言って見るのもいいかもしれませんね。」
「…だが、山に入るみたいだぞ。」
「………マジか。」
「また、山に入るのですか。」
呑気な会話をしている三人に私はそっとアルファードを見る。
「……。」
アルファードは少し呆れたような顔をしているが、その目は優しかった。
「……疲れているから、パスする。」
「そうですね、疲れをとる為に行くのに、疲れに行くのは少し。」
「別に大した効果はないだろう。」
温泉を知らないヒースたちはどうやら行きそうもないようだった。
「メイカたちはどうします?」
「興味があるから俺は行こうと思うが…。」
「部屋で大人しくしておくから勝手に言ってこい。」
メイカはそう言うと、自分に当てられた部屋に向かった。
「あの方も部屋に戻られたし、自分たちも戻りますか。」
「そうだな。」
「だな。」
ヒースたち三人も部屋に行く。
ホリアムット男爵令嬢はかなり前に部屋に戻っているので、廊下にいるのは私と彼だけだった。
「それにしても、温泉があるだなんてここの世界観はどうなっているのかしらね。」
「さあな、だが、そのお陰で色々楽しめるだろう。」
「そうね。」
少し呆れたように言う、私にアルファードは肩を竦める。
「すぐにでも行くのか?」
「ええ、暗くなる前に行きたいと思うわ。」
「分かった、それじゃ、準備出来次第ロビーで。」
「分かったわ。」
私は急いで準備をする。
その時、ベッドに横たわるホリアムット男爵令嬢を見る。
「……。」
本当はあまり声をかけたくなかった。
だけど、もし、彼女も温泉に興味があるのなら一人で行くよりは、と思うので、結局私は声をかけていた。
「今から温泉に行こうと思うのだけれども、貴女様も行きますか?」
「……。」
彼女は顔を一瞬上げ、そして、何の感情もない目のまま首を横に振った。
「そうですか。」
「……。」
「山の方にありますので、お一人ではいかれないようにお気をつけてくださいね。」
「……。」
ホリアムット男爵令嬢は無言のままベッドにまた倒れこむ。
「……。」
彼女が一体何を考えているのか分からなかった。
だけど、私が首を突っ込むのも変な気がしたので、結局私は外で待っているアルファードを思い、準備を整えるとそのまま外に出る。
そして、案の定、彼は先に私を待っていた。
「お待たせ。」
「いや、あまり待っていない。」
「そう?」
「ああ。」
アルファードは軽装で腰にはしっかりと剣を佩いていた。
「それにしても、温泉って久しぶりね。」
「ああ、最後に行ったのはいつだったか?」
「多分、孫たちと近場の温泉に行ったのが最後のはずよ。」
「そうか、そんなにも前か。」
「ええ。」
あの時の真っ赤な欠片が落ちる光景を思い出し、泣きたくなる。
平和な日常。
だけど、それも、ごくわずかな時間でしかなった。
「……貴方は幸せでしたか?」
私の問いにアルファードは軽く目を見張り、だけど、すぐに優しい笑みを浮かべる。
「お前がいて、幸せじゃない時なんてほとんどない。」
「……。」
苦しい事だって、悲しい事だってあったはずなのに、彼はいつもそう言って微笑んでくれる。
それが嬉しくて、だけど、不安になる。
「お前は違うのか?」
「私も幸せです、だけど、貴方にはいつも頼りっきりで…。」
「それが俺の誉だからいいんだ。」
「……。」
「ああ、もう着いたようだな、山と言っていたが、そんなに高くはなかったようだな。」
いつの間にか私たちは温泉が湧き出ている場所に建てられた小屋、いや、小屋よりはもっといい建物だけれども、それでも、「前」の旅館とかそう言うのよりやはり劣っている建物がそこにあった。
「……男女混浴のようだな。」
「ええ、そうね、私は構わないのだけども。」
「いや、俺はここで見張りをしているからゆっくり入ってこい。」
アルファードは一度中に入り、中に誰もいない事を確認するとそう言ってくる。
「でも。」
「もし、誰かが入ってきたらお前が困るだろう。」
「ええ。」
「だったら、大人しく入ってこい。」
こうなったアルファードは頑固なので、私はおとなしく一人温泉を堪能したけれども、やはり、こんな広い温泉に一人は贅沢すぎるようなきがした。
そして、十分に堪能した後、アルファードと見張りを交代するが、彼は外で見張っていたのに、私は中で待つことなる。
彼曰く湯冷めしたらどうするんだという事だ。
本当に過保護な彼に私は失笑しか出ない。
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