転生夫婦~乙女ゲーム編~

弥生 桜香

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第二章

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 メイヤの体調を見て、私たちは戻ってきた。

「急にいなくなるなんて何考えているのよ。」

 プリプリと怒る彼女に私は静々と頭を下げる。

「申し訳ございません。」
「ふん、今回は許してあげるとけど、次はないからね。」
「……。」

 私は何とか表情を作って耐えているが、後ろからの圧が凄い。
 色々と思うところはある。
 だけど、こんな小娘に時間を割くのも面倒だった。
 もし、これが実の娘だったら叱るだろう。
 しかし、彼女は、精神面は除くと、私と同い年の少女だ。
 元の立場で言えば多少の苦言程度は言えるかもしれないが、ミナの立場の私が彼女に何か言うのはまずいだろう。
 しかも、メイヤやメイカ以外の人に見られれば何を言われるのかは分かり切っている。
 ひとしきり文句を言い終わった彼女は私の目の前からいなくなる。
 ホッと息を吐きだすが、油断はできない。

「……何もしないでね。」
「取り敢えずはな。」
「……。」

 全然安心できない答えに私はこっそりとため息を吐く。

「もう。」
「しょうがないだろう、というか、あいつ、このままでいいと思っているのか?」
「さあ、何を考えているのか分からないけど、彼女の親は何を考えているのでしょうね。」
「分からん。」
「……。」
「あり得ないと思うけど、俺達の誰かに押し付ける気とか?」
「……。」

 まさか、と言いたかったが、彼女の親だ、まさかの考えを持っている可能性があった。

「…本当に頭が痛い話ね。」
「ああ。」
「このままいっそ逃げてしまいましょうか。」
「俺は構わないけど?」
「……。」

 メイヤの家族を思うと確かに彼は何の躊躇もなく捨てるだろう、だけど、イザベラである私は少し困ってしまう。

「まあ、それは最終手段だがな。」
「……。」

 メイヤを見た。もし、私が許可をすれば今すぐにでも私を連れて全てを放棄するだろうと判断が出来た。
 まあ、それも一つの選択だろう。
 私たちがこの「国」もしくは、「世界」を見捨てる。
 それは一つの道であるのだ。
 でも、それは今じゃない。

「うん、そうね。今はあの子を助けたい。」
「ああ、分かっている。」

 優しく微笑むメイヤ。
 もし、ここにマヒルが居れば確実にこういうだろう。
 兄貴の世界の中心は本当にルナで出来ているんだろうな、と、そして、それは私もそう思ってしまう。

「どうしたんだ?」
「ううん、もし、ここにマヒルが居れば貴方の世界は私を中心として回っているのだというだろうな、と思っただけ。」

 私の言葉にメイヤは一瞬、虚を突かれたような顔をするが、すぐに、首を横に振った。

「それは違うな。」
「えっ?」

 否定する彼に、もしかして、自覚がないのかと顔を強張らせる。
 「前」の時に鈍い鈍いと言われ続けた私が気づいているのだから、多分間違いはないはずなのに、彼は自覚がないのだろうか。
 そうならば鈍いのは私ではなくメイヤになるのでは…。

「俺の世界はお前そのものだぞ。」
「へ?」
「お前が居なければ俺はいない。中心何てそんな生ぬるいものじゃない。」
「……。」

 どうしよう、想像以上にメイヤの中の私の比率が大きすぎた。
 想像上の義弟と親友が何故か残念な子を見るような目で私を見て首を振っている。

「ついでに言えば、昔あいつに同じ事を言われたから、同じように返しておいたぞ。」
「……。」

 もうすでに、義弟は知っていたようだ。

「その時のマヒルは何か言っていた?」
「ものすごーく、何か言いたげな顔をして、そして、諦めたように首を振ってたな。」
「そ、そう。」
「ルナ。」
「何?」
「お前はこの発言を聞いてどう思っている訳?」
「そうね、想像以上で驚いているかな。」
「ふーん。」
「どうしたの?」
「ドン引きしたり、気持ち悪いとは思わないんだな。」
「えっ?規模は想像よりも超えていたけど、今更よね?」
「今更か。」
「ええ、今更。」

 私の言葉を聞いて少しホッとしているメイヤに本当に今更なのにと、私は不思議に思う。
 昔の方がもっとすごい言葉を言っていた時があったのに忘れたのだろうか?
 まあ、覚えていないのなら仕方ない、まあ、多分彼だから私は受け入れられているのだろう。
 これが彼じゃない誰かに言われるのなら確実に嫌悪感が私を襲っていただろうな。

「ルナ?」
「何でもない、ただ、そうね。」
「何だ?」

 私は口元に指を当て、そして、口元を歪ませる。

「もし、私以外の人に言ったのなら、私はきっと貴方を殺してしまいそう。」
「あり得ない話だな。」
「そう?」
「ああ、俺はルナしか愛してないし、お前意外に言うつもりはない。」
「どうかしら、もし、私よりも前の人が居たら同じ事を言うんじゃないかしら?」

 少し冗談のつもりで言った言葉に私はだんだん不安になる。

「それはないな。」
「どうしてそう言い切れるの?」
「前のお前たちを愛していたのはそれぞれ前の俺たちだ、今ここに居る俺は懐かしむことはあっても、そこまでの愛情はないな。」
「……。」
「お前も少し記憶があるから分かるだろう、懐かしく思っても、それはあくまでもその時の自分であって今の自分じゃない感じが。」
「そうね。」

 分かっている、分かっているけど、それでも、不安になる気持ちは抑えられないのだ。

「お前の話がもし、あり得たとしたら俺は今頃お前が作り出したミナまで愛している事になるんだぞ。」
「えっ?」
「だけど、それはあり得ないし、あいつを愛しているのはメイカであって、俺ではない。」
「……。」
「まあ、それでも不安になるのなら口にしろ、拭いきる事が出来るかは分からないが、それでも、お前が安心できるように頑張ってみるからな。」
「……。」

 メイヤはそう言って私の頭を撫でる。
 確かにメイヤがいうようにもし、昔の彼が現れたとしても、私自身は彼らをそこまで愛する事はないだろう。
 今ここで共に過ごし、同じ記憶を共有する彼だけを愛しているのだから。
 きっとそれは彼も同じなのだろう。
 でも、今ここで納得はしていても、また不安になるだろう。
 それはきっと仕方のない事なのだ。
 多くの記憶を抱えている私たちならではの悩みなのだ。

「もう少しだけ、こうしていてもいい?」
「ああ、勿論だ。」

 私の感情が落ち着く僅かな時間だけでも、私は彼を独り占めしていた。
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