逆行したら別人になった

弥生 桜香

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第一章

巻き込まれ、飛び込む

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「どうか、助けてください。」

 外から若い女性の声がした。
 私は一度幻惑の術を解いて、そして、ジェダイドにセラフィナイトを預ける。
 ジェダイドは心配そうに私を見るが、私は小さく頷き、そっと外を伺う。

「お願いします。」
「おい、嬢ちゃん突然馬車の前に現れるな、危ないだろう。」
「すみません。でも…。」
「おい。いたぞ。」
「あ……。」

 少し離れた場所から壮年に入る男性の声が聞こえる。

 女性は絶望に満ちた顔をしている。

 私はどうするかと頭を悩ませる。

 一つはこの馬車の責任者の考えを待つ事。

 もう一つは馬車の責任者を無視して自分から話しかける事。

 私は一瞬考え、そして、待つことを選ぶ。

 ここで下手に間に入ってしまえばこの馬車を紹介してくれたコーラルの母に迷惑をかけてしまうかもしれない。

「お前、何逃げてんだ。」
「やめて、わたしはーー。」

 何か叫びそうになる女性に彼女の腕を掴んだ男性は慌てて彼女の口を塞ぐ。

「……ただ事じゃないな。」
「何でもありませんよ。」
「……。」

 女性を捕まえる男と責任者らしき男が無言で睨み合っている。
 ただし、女性を捕まえている男性は気が弱いのか涙目になっているが、それでも、引く事はしない。

「何があった。」
「村の行事があって、こいつが逃げ出したんだ。」
「行事?」
「ああ、湖を守る神龍様に舞を奉納する巫女なんだ。」
「そんなものがあるのか。」
「ああ。」
「……。」

 男の目が若干泳いでいる。何か嘘を吐いている、だけど、それを分かっていても聞き出す言葉も検索する権限は私にはない。

「そうか。」

 責任者の男はそう言った。
 私は半分失望した、やはり、助けないのかと。

 でも、分かっている、もし、よそ者が口を出したとしても、余計な事をする可能性もある。
 それに彼の仕事は客を安全に次の目的に案内する事だ。
 だから、彼の判断は間違いではないだろう。

 でも、正解でもないはずだ。
 だからと言って、私が助けるかとなると、多分、私も助けないだろう、そっと、視線をジェダイドに向ければ、彼は何処か痛みを堪える顔をしていた。

 そして、その顔を見た瞬間、私は動いていた。
 私の手に鈍い手ごたえと、ガツンという音耳に入った。

「えっ…。」
「餓鬼が……。」
「あっ……。」

 私は己の手を見て、溜息を零す。
 ジェダイドはきっと助けられない自分に苛立ちと不甲斐なさ、様々な感情を抱いていただろう。

 私はそれを取り除きたいと思った。

 思ってしまった。

 そして、結局悪手に出てしまうのは私の悪い癖だろう。

「お姉さん、大丈夫?」
「えっ、ええ。」
「お兄さん、すみません、私ここで居ります。」
「おい、いいのか?」
「仕出かしてしまいましたので、責任は取りますよ。」
「……。」
「俺も同じく。」

 馬車から飛び降り、私の隣に立つジェダイドの表情はどこか誇らしげだった。

「やっぱり、お前はお人よしだよ。」

 耳打ちするジェダイドに私は苦笑する。

「私以上にジェダイドの方がお人よしですよ。」

 こうして無茶を仕出かした私に笑いかけるなんて彼も何処か可笑しいのかもしれない、でも、そんな彼だから私は傍に居たいと思っている。

「はぁ、揃いも揃って。」
「すみません。」
「ほらよ。」

 男はそういうと私にお金を放り投げて来た。

「えっ?」

 難なく受け止めた私は目を白黒させる。

「目的地までいかなかったからなキャンセル分を引かせてもらったが、そんなけ返すな。」
「いいんですか?」
「ああ。」

 私はお金をギュッと抱きしめる。

「ありがとうございます。」
「……無事で切り抜けろよ。」

 多分彼は経験から私たちが厄介ごとに首を突っ込もうとしているのが分かっているのだろう、だから、そんな言葉を私に行ってきた。

「勿論です。」

 巻き込まれるのはきっとジェダイドも分かっている、だけど、彼は巻き込まれる心配よりも、無視する方が嫌がっている。
 だから、私は彼の意思を、心を大切にしたい。
 それは純粋な人助けじゃない、ジェダイドの為の人助けだ。
 自分勝手な考えだと我ながら思う、だけど、私はもう開き直っている。
 ジェダイドが望むのならこの身はどうなってもいい、彼が望むのなら命以外だったら全て使う気持ちはある。

「坊主もこの嬢ちゃんをちゃんと見張っていろよ、こいつは厄介な女になるぞ。」
「分かっている。」

 何の事を言っているのか分かりませんが、何故かジェダイドはしっかりと頷き、男はそれを見て満足そうにしている。

「じゃあ、白き乙女の加護があらん事を。」

 彼はそういうと、馬車を走らせた。
 さあ、私たちはまた厄介ごとに首を突っ込んでしまった。
 どうなるかなんて誰も分からない、でも、私は今回もまた彼を守るながら切り抜けるしかなかった。
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