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北斗サイド

文化祭二日目

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「……憂鬱だ。」
「あはは。」

 行きたくない。
 逃げたい。
 だけど、そんな事をすればどんな目に遭わされるやら。
 想像するだけで身震いがする。
 それでも、俺の目の前に正門が視界に入る。
 行きたくない、帰りたい。

「月子さんと会うの久しぶりだよね。」
「……会いたくねぇ。」
「……。」

 何故かそっぽを向くスピカ。
 何だ。
 あまりに子どもっぽい事を言っているから呆れているのか?
 まあ、今更だしな……。
 あーあ。

「ブッチしてぇ。」
「駄目だよ。」
「わーてる、そんな事をすればあの人が何をするか…恐ろしい。」
「……。」

 また身震いか…。
 ちらりとスピカを見れば彼女は呆れた顔をしている。
 こいつはあれの本性を知らないから呑気で入れるんだ。
 あれは人間じゃない。
 悪魔なんだよ。
 弟を玩具だと思った悪魔なんだよ。

「良い人に見えるんだけど。」
「ああ、基本は良い人だろうな。」

 オレ以外の人間にはな……後は……。

「ん?」
「でもな、姉貴が良い人で終わるわけがないんだ、あの人は自分の利益とかいろんなものを考えるんだ。」
「普通の事じゃないの?」
「……幼い弟に情報量として金を請求する人が?」
「……。」
「しかも、その時の俺の全財産を把握してその九割を請求するんだぞ。」
「……。」
「本当にあり得ない。」
「あら、わたしはそれに似合ったものを請求しているのよ?」

 しまった。
 気配がなかったから気づかなかった。
 つーかー、後ろッという事は先についていたのかよ。
 一見どこぞのモデルかと言われそうな美人。
 だけど、その腹は真っ黒な実の姉。

「ね、姉さん。」
「月子さん。」
「久しぶりね、北斗。」
「……。」
「北斗の独り言は大きいわよ、他の人が引いでいるじゃない。」
「……。」

 俺はハッとなり、周りを見る。
 ああ、本当だ引いている。
 スピカと話す時は出来る限り気を付けていたが、すっかり姉に気を取られていて忘れていた。
 ただでさえあのバ会長の所為で今の生徒会の印象が悪いというのに、さらに俺が下げてどうするんだ。
 思わず頭を抱えたくなるが、ぐっと我慢する。

「……。」
「やってしまったわね。」

 悪魔が笑う。
 絶対に楽しんでやがる。
 あーくそっ!
 色々腹立たしくなり、俺は思わずしゃがみ込む。
 叫びてぇ。
 でも、そんな事をすれば悪目立ちする。
 ああ、面倒くさいっ!

「まあ、幸いにもあんたの奇行は疲れの所為だってなっているから、よかったわね。」
「よくねぇよ。」
「……ごめんね、北斗。」

 はぁ…。
 何をやっているんだろうな。
 確かにバ会長以外の生徒会役員が頑張っていると認めてくれている人は少なくない。
 それでも、やっぱり、完璧じゃなければ認められないところがある。
 隙を見せてはいけないのに、何をやっているんだ。
 しかも、スピカに心配をかけるなんて原点どころの話じゃないな。
 本当に何をやっているんだ。
 俺は…。
 っと、その前に、スピカに取り繕っておかないと。

「いや、スピカの所為じゃない、多分、あのバ会長に対しての愚痴やうっぷんがたまりにたまってお前にぶつけていたんだと思う。」
「……。」

 後付けの言い訳。
 それなのに、彼女は納得する。
 そりゃ、原因の一つかもしれないけど。
 今回は明らかに違うだろうが…。
 まあ、こいつが気に病まないのならそれは良い事だけどさ…。

「まあ、あんたたちの反省会はどうでもいいけど、そろそろ移動しましょう。」
「そうだな。」

 姉の言う事を聞かないといけないのはちょっとむかつくけど、ここに居ても仕方ないので、俺達は移動した。
 それにしても、視線が突き刺さる。
 俺は思わずため息を零す。
 そして、俺達は生徒会室に向かう。
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