もう一度君と…

弥生 桜香

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第五章

第五章「文化祭」7

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 台本が渡された次の日の放課後、女子、数名を教室に残し、後は男ばかりになった。

「それじゃ、ナレーションから。」
「へいへい。」

 どこか面倒臭そうにしながら男子の学級委員が台本に目を通しながらどこか棒読みに近い抑揚のないナレーションを始める。

「いいのか、あれ?」

 こっそりと碧が呟く中、涼也は肩を竦める。

「いいじゃねぇ。」
「あれは、あれで、面白いし。」
「受け狙い?」
「違いねぇ。」
「……。」

 涼也はこちらを無言で睨む女子の学級委員に目で謝る。
 彼女は涼也の視線に気づき、彼には首を振り、残りの三人を睨む。

「おい、碧。」
「んあ?」
「出番。」
「やべ、今どこ?」
「三ページの王妃の最後のセリフ。」
「………………あった。」

 台本に目を走らせ、碧はホッとしたような顔をしたと思うと、表情を和らげる。
 因みに今の碧の格好は女装なのだが、一見すれば女にしか見えない。
 制服の上は肩若干きつそうなのに、なぜか下のスカートはかなり緩く、仕方なく、ブレザーを腰に巻き付けている。
 それを知った女子は碧を睨んだ。
 涼也はその光景を思い出し、女はどうしてあんなくだらない事に執着するのだと、それを聞いた女性を敵に回しそうな事を考えていた。
 ぼんやりとしていた涼也だったが、碧がセリフを話し出すと、へぇ、と言いながら感心している。
 小さい子によく本を読んであげていたからか、彼はセリフに喜怒哀楽をのせて話すので、生き生きとしているように涼也には思った。
 初っ端からダメ出しをしていた演劇部の女子たちも流石に碧の上手さにはあまりダメ出しをしなかった。
 強いて言えば碧の演技にアドバイスをするくらいで、後は意外にもスムーズに進んでいき、涼也が思っていたよりも早く練習は終わった。

「あー、疲れた。」

 どかりと足を開いて椅子に座る碧の後ろに影が差す。

「なーにが、疲れたよっ!」

 鈍器で殴られたような鈍い音に涼也が振り返れば、そこには頭を抱えて蹲る碧の素県と、彼に制服を貸した霜月(しもつき)春香の姿があった。

「うー、痛いよ、春香ちゃん。」
「もう、姫役なんだから少しは女の子らしくしなさいよ。」
「何でだよ、今は休みじゃん。」
「あんたは無器用なんだから普段から気をつけておかないと襤褸を出すでしょうが。」

 霜月の言葉に碧は自覚があるのかぐっと言葉を飲み込む。

「面倒だよ……。」
「それでもよ、いい、あんたはあの王妃と違い、お笑い担当じゃないのよ。」
「ひでーな。」

 王妃役の少し筋肉質な男子が抗議の声を上げるが、涼也は何も言わずそっと目線を逸らす。

「あんたは黙っていれば美少女なのよ、折角の美少女なのにもったいないじゃない。」
「いや、俺、男だし。」
「本当に惜しいわね、よく見れば肌だって綺麗だし、パーツの一つ一つが整っているのに、その性格で残念になっているもんね。」
「……春香ちゃん、流石の俺もグサッときた。」
「あら、褒めているのよ?」
「……。」

 碧は溜息を零し、そして、時計を見てゲッと声を出す。

「やばい、チビの迎えの時間だ、行かないとっ!」

 鞄を引っつかみ、そのまま教室を出ていく碧を唖然と皆が見送ったが、すぐにポツリと誰かが呟く。

「あいつ、あの恰好(女装)のまま出ていったけど、大丈夫か?」

 シンと静まり返る教室に涼也は追いかけようとしたが、それよりも早く出ていく姿を見て足を止め、碧は先ほど出ていった人に任せて彼は自分の帰宅準備を始めたのだった。
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