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第二章

《学ぶ 30》

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 ふぁさっと音を立てながらセイラは洗濯物を干す。
 ようやくセイラがベッドの上から降りてもいいという許可が出たのは昨日だった。
 実際は一昨日から普通にしてもよかったのだが、過保護な三人がそれを許してくれなかった。
 そして、それは今も一緒で、陰から三対の目がセイラを見ていた。

「三人とも、お茶にしようか?」

 セイラが声をかけると三人はびくりと肩を跳ね上げる。

「セイラ様、お茶の準備はわたしがします。」
「そうですよ。」
「いや、お前より、ミラかセイラがうまい。」
「はぁ?喧嘩売ってんの?」
「事実を言っている。」
「そうですね、レラのお茶はもう少し上手になってからがいいですね。」
「……。」

 カルム一人の言葉だったらレラも噛みついていたが、ミラの言葉には落ち込むしかなかった。

「だったら、私とレラで淹れましょうか?」
「セイラ様…。」

 助け舟を出すセイラにレラは目を潤ませるが、残りの二人は顔を顰める。

「それって、お前の体を休ませたいのに、本末転倒じゃねぇか?」
「うっ。」
「どこの世界に主にお茶を教えてもらうメイドが居るんでしょうか?」
「う、う、う…。」
「もう、二人ともレラをいじめないで。」
「虐めてねぇ。」
「そうです。」

 否定する二人にセイラはため息を零す。

「もう、二人とも仲が悪いようで、本当はいいのね。」
「はあっ!」
「うえ…。」

 カルムは心外だという顔をするが、ミラは原型をとどめないほど顔を歪めていた。

「……おい、てめぇ、その顔は何だよ。」
「何ですか、やりますか?」
「はいはい、二人ともその辺でね。」

 セイラはクスクスと笑いながら空を見上げる。
 空は青く、そして、肌を焼く暑さが増していた。
 レミラが亡くなって初めての夏がそこまで来ていた。
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