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第三章

《贈り物 9》

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「はい、お茶をどうぞ。」
「ありがとうございます、セイラ様。」
「ありがとう。」
「ありがとうございます。」

 セイラは丁寧に三人の前にお茶を置く。

「カルム、ミラ。」
「……ああ。」
「……はい。」

 セイラの声音からあまり良い感情が読み取れなかった二人は気まずそうな顔をしながら返事をする。

「帰ったら、おぼえておいてね?」
「「……。」」
「返事は?」

 無言の二人にセイラは良い笑みを浮かべる。

「……ああ。」
「……はい。」
「……はあ、もう、そんなにしゅんとなるのなら何故最初から大人しくしないのよ。」

 セイラはおとなしくなった二人を見ながらため息を零し、すまなそうに親父さんと女将さんを見る。

「すみません、お見苦しいものを見せてしまって。」
「構わん。」
「そうよ、この人の態度よりずっと素直で可愛いわ。」
「……。」

 女将さんの言葉に親父さんは何故か身を縮こませ、それをみた子どもたちは互いに顔を見合わせる。
 きっとこの親父さんはこの優しそうな女将さんを何度も何度も怒らせてしまったのだと、子供たちは察した。

「さて、髪飾りを作りたいと聞いているけど、どういうものがいいかと考えていたりするのかしら?」
「えっと、私はあるのですけど。」
「わたしたちはまだですね。」
「セイラ様ならどんなんでも似合いそうなんですけど、難しいんです。」
「ああ。」

 レラの言葉に同様の経験をしたカルムは深く頷いている。

「そんな大層な物じゃなくていいのよ。」
「そういう訳にはいけません。」
「そうですよ。」

 セイラの言葉に噛みつくように言う二人にセイラは苦笑を浮かべ、そして、すでに用意していた紙を取り出す。

「一応こういうのがいいかと思いまして。」
「あら。」
「ほお。」
「ミラのはカチューシャ、レラはヘアゴムに金属の部分を付けたものがいいなと思ってます。」

 双子もセイラと同じように髪を下ろしていることが多いが、レラの方は髪が邪魔な動作をする事が多かったので、セイラとしては、彼女は何か括るものが必要だと思ったのだ。
 だから、今回カルムからもらった髪飾りを見て、ただのゴムじゃなくて何か工夫をしたいと思った。

「どちらも作った事はないが。」
「難しいですか?」
「やってみないと分からんが、時間がかかると思う。」
「構いません。」

 はっきりと言うセイラに親父さんは頭の中でどのように作るか考える。

「どうしましょう…。」
「うう…。」

 双子は早く決めないといけないというように焦りを見せ始める。

「慌てなくてもいいのよ。」
「ですが…。」
「ううう…。」

 セイラは自分がこれ以上何を言っても双子は自分で自分を追い込んでしまうようだと思い、思わずカルムを見る。
 カルムも顔を顰め、そして、助けを求めるように女将さんを見る。

「この人がセイラちゃんのを一つ作り終わりまで時間があるからゆっくり考えれば大丈夫だよ。」
「でも…。」
「ううう…。」
「しょうがないね。」

 女将さんはそう言うとため息を一つ零し、カルムとセイラを見る。

「こっちのお嬢さんたちはこっちに任せて、二人は他にしたい事はないのかい?」
「あっ、そろそろ調味料が切れそうなのがあった。」
「なら、買いに行くか?」
「……。」

 セイラは女将さんを見る。

「行っておいで。」
「すみませんが、二人をよろしくお願いします。」
「任せなさい。」

 カルムはセイラに手を差し出し、セイラはそれを当たり前のようにその小さな手を重ねる。
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