今世ではのんびりしたいのですが…無理ですか…

弥生 桜香

文字の大きさ
127 / 133
第三章

《油断 6》

しおりを挟む
「う……。」

 セイラは痛みに呻きながら重い瞼を押し上げる。

『気づいた?』
『気づかれましたか?』

 二人の優しい声にセイラは双子を思い出すが、それとはまったく違う事に送れて気づく。

「蒼泉、碧嵐?」
『よかった。』
『あまり動かないで下さい、傷口が広がります。』
「どうなって…。」

 セイラは蒼泉の言葉を無視して身じろぎをしながら自分の記憶を辿る。
 そして、自分が敵に襲われ、自分の考えで崖から飛び降りた事を思い出す。
 見上げれば高い木がそびえたつだけで崖の姿が見えなかった。

「どのくらいの時間が経ったの?」
『さほど経っておりません。』
「あの男は?」
『まだ、崖の上にいるみたい、どうするか考えているわね。』
「そう。」

 セイラの疑問に答えてくれる二人にセイラは頭を働かす。

「近くに身を隠せる場所はある?」
『えっと、ああ、近くにちょうどいい洞窟があるわ。』
「案内してもらえる?」
『ええ、勿論よ。』

 碧嵐の言葉に蒼泉は渋い顔をするが、セイラはそれを申し訳なく思いながらも気づかない振りをする。

「ありがとう、後、頼みたいのだけど、案内し終わった後レラたちの所に行ってもらいたいのだけど、可能かしら?」
『いいけど、何で?』
「この怪我だと待ち合わせの場所に行けそうもないから、治療したとしてもかなりの時間がかかるの。」
『……。』

 碧嵐は真偽を問うように蒼泉を見やる。

『セイラ様の言う通りよ、本当なら動いても欲しくはないのだけど、上で待ち受けるあの者は嫌なものを纏っているから気の休まる場所に隠れて欲しいわ。』
『分かったわ。』

 やる気を見せる碧嵐にセイラは弱弱しく笑う。

「ありがとう。」
『主様は治療に専念してくださいね。』
「ええ、分かっているわ。」

 セイラはふらつきながら立ち上がる。

『……。』
『……。』

 碧嵐も蒼泉も心配そうにセイラを見つめるが、セイラは一人で歩く。
 よたつきながらも、ゆっくりと、だけど、確かな足取りで歩く。
 その姿はあまりにも痛々しく、碧嵐も蒼泉も目をそむけたくなった。

「そう言えば、白磁や北星、東雲は?」
『あの子らは近くで結界を張ってくれているわ。』
『あの子たちもあれは危険だと思っているみたいね、だから、結束して強い結界を張ってくれているわ。』
「そう、後でお礼を言わないと。」

 青い顔で微笑むセイラは儚く、すぐにでも崩れてしまいそうで彼女たちは自分の不甲斐なさに唇を噛む。

「碧嵐、こっちの方であっている?」
『ええ、そっちよ、もう少し行けば見えるから。』
「あっ、本当、結構しっかりとしているのね。」

 セイラは洞窟を見つめ、ホッとした顔をする。
 どうやら、彼女の体力も限界を迎えていた。
 今は気力で起きているのだが、それでも、もう少し遠かったら危なかったとセイラは感じた。

『……あの双子の所に行ってくるわ。』
『ええ、早く呼んできて頂戴。』
『分かったわ。』

 セイラの姿を見ていられないと思った碧嵐は蒼泉に声をかけ、姿を消す。
 セイラは近くでかわされた会話に気づく様子もなく、ただ、洞窟に向かって歩く。

 かすんでいる視界。

 鉛のように思い足。

 セイラは必死で洞窟にたどり着く。
 不幸か、幸いか、彼女の感知能力は衰えていなかった。

「蒼泉、碧嵐、姿を消してっ!」

 セイラはそう言って息をひそめる。
 上に居たと思った男はいつの間にか下に降りてきた、そして、セイラの近くをうろついていた。
 セイラは息をひそめながら洞窟にたどり着く。
 上がった息を整え、彼女は洞窟の壁にもたれかかる。

『セイラ様、治療しましょう。』

 セイラの言いつけを破り、蒼泉は姿を見せる。

「駄目よ……、相手に気づかれる…。」

 セイラは少しでも気づかれる可能性を下げたくて首を振る。

『ですが、そのままでは失血死してしまいます。』
「大丈夫…このくらいならまだ大丈夫…。」
『……。』

 セイラはそう言ってを見上げ、尋ねる。

「皆は大丈夫かしら?」
『セイラ様がとっさに朱花を付けまし、碧嵐も向かいましたし、大丈夫だとは思われます。』
「そう、よかった。」
『……。』
「少し、寝るから…見張りをお願いできる?」
『分かりました。』

 色々限界だったセイラは最後に微笑み、一瞬にして深い眠りについた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...