4 / 168
0-4.イタコのエミ
しおりを挟む「……作るって言っても、レトルトだけど」
教授に持たされた差し入れは、レトルトの甘口ポークカレーに少しお高いパックご飯だけ。
これだけで作るのはすごく簡単だが、穫は物足りないと思った。
実家の食堂で、まかないまでは作らせてもらってた経験上、従業員には美味しいご飯で英気を養ってもらいたい思いと、状況が凄く似てたからだが。
「お湯沸かしてる間に、冷蔵庫で材料探そう!」
ご飯はレンチンでもいいので後回し。
それから、穫は持ってる調理能力を活かして、レトルトやインスタントを含めた食材を使いつつも、キッチンで料理をする。
今は大学の距離を考えての一人暮らしだが、家事はずっとこなしてきた。他人のために作るのは、女子の友人以外ないが彼女達にも美味しいと言ってもらえた。
その言葉を信じ、挑むのみ。
「ポテサラとツナのパックがあったから、油切りしたツナとポテサラを合わせて」
加えてスープに、冷凍食品で揚げ焼きに出来そうなおかずを見つけたら、コンロで調理。
最後にご飯をレンチンして盛り付けた皿に、冷蔵庫でこれまた大量にストックしてあったシュレッドチーズをたっぷり乗せ、温めたカレーのルーを注ぐ。
「出来た!」
食べる相手が男だから、かなり多めに作ってしまったが残しても大丈夫なレパートリー。
さあ、今度はリビング掃除、と向かおうとしたらそこも功によって粗方片付けられていた。
風呂はシャワーで済まされたのか、達川笑也は新しい服を着たまま、ソファでうつ伏せに寝転がされている。
「お? 出来たんか?」
袋を縛り終えたところで、功が顔を上げてくれた。
穫が返事をすれば持ってくるように言われたので、あらかじめ準備しておいたトレーに全て乗せてゆっくりと持っていく。
「なんやなんや。教授の差し入れ以外にも、作ってくれたん?」
「カレーだけじゃ、お腹いっぱいにならないでしょうし……他の食材ももったいないかなって」
「……………………え、何。いい匂い」
ローテーブルに置く時に、ようやくメインの達川が目を覚ました。
適当に乾かされても癖っ毛は収まらなかったのか、顔を上げても前髪のせいで顔がよく見えなかった。
カレーの匂いにつられてこちらを見ると、穫を前にしてこてんと首を傾げた。
「…………えっと、君が功の言ってた依頼人?」
前髪越しに見えてるらしいが、穫からはやはり目元は見えない。
ただ、輪郭はほっそりしてるし口調も柔らかいから、優しい印象を持てた。
「はい。車谷教授からご連絡があったでしょうが、私が万乗穫です」
「ご丁寧にご挨拶ありがとう。お見苦しいとこ見せまくって申し訳ないけど、僕が達川笑也です。依頼はすぐに聞いてあげたいんだ、けど…………ご飯、冷めちゃう前に食べていい?」
「あ、はい」
やはり、腹の空き具合が我慢出来なかったのか、自己紹介が終わった途端、達川の腹の音が大きく部屋に響いた。
功は大袈裟なくらい肩を落としたが、早く食べろと促すように達川の頭を叩いた。
「よー噛んで味わうんやぞ? 女の子からの手料理ってそうそうないんやし」
「痛いって、功。あー……そう言えばそうだね」
少し間を置くのが気になったが、それから達川は功の心配をよそに行儀よく食事をしてくれた。
「え、チーズ? 教授から僕がチーズ大好きなの教えてもらってた?」
「い、いえ。冷蔵庫のストックにすっごくあったので……」
それと、穫も大好きだから、家でカレーを食べる時はよくやっていた。
あれだけチーズのストックがあったから、もしやと思ったのが功を成したようだ。達川は美味しい美味しいと言いながら、最後まで綺麗に食べてくれた。
「ご馳走さま。すっごく美味しかったよ、レトルトがメインでも僕じゃこんな美味しく作れないし」
「なら、本来の仕事もこなせや」
「それは、もちろん」
また功に軽く小突かれると、達川は食器のトレーを持ってキッチンの方へ行ってしまった。
「万乗さん、僕が戻って来てもあんまり驚かないでね?」
とも言い残して、行ってしまった。
何だろうと穫が首を傾げてると、ソファに腰掛けてた功が大笑いするのを堪え出した。
「ほんまに驚くけど、大声は出さん方がええなぁ?」
「え?」
「さっきまでの笑也。よう覚えとき」
それだけ言うと、片付けたリビングから発掘したテレビをつけてしまう。
何が起こるんだろうと思うも、穫も少しだけ勘が働いた。
こんな和んでしまったが、穫は達川に依頼をしに来たのだ。
自分自身の事について。
(教授に聞いた内容じゃ、達川さんなら一発だって)
それが本当ならば、どうしても縋り付きたかった。
ラグマットの上に座りながら、膝上で拳を握りしめていると何か温かいモノに包まれた。
「ダメよ。女の子がそんなきつーく拳なんて握りしめちゃ」
聞こえてきた声に顔を上げれば。
大きな黒い瞳と白い肌が美しい、黒髪の美人がいつの間にか穫の隣に座っていた。
「ど、どちら様で……?」
「んもう。見ててって言ったじゃない、あたしよ。あ・た・し」
「え、え?」
「エミ。それだけ言うても無理やろ」
功が呼んだエミと言う女性は、彼が声をかけても少し頬を膨らませるだけ。
「だってー、久しぶりに美味しいご飯食べさせてくれた相手でしょ? 御礼もちょっとしか言ってないのに、もう仕事だものー」
「せやかて、目の前で見したったら良かったやん。一度戻れば?」
「そうねー」
話がわからず、頭の中がはてなマークばかりになっていると、エミはすっと立ち上がって右手を自分の頭にかざした。
「くゆれ、くゆれ」
何のおまじない、と口にしかけたのを両手で塞いだ。
声を上げる寸前、エミの綺麗な髪が急に肩まで短くなり出したのだ。
それは体つきや、服、顔まで変わり。最後にはキッチンに消えたはずの達川が代わりに立っていたのだった。
「…………あー、やっぱり驚いた? 実は、あれも僕なんだ。『イタコ』としてのね」
エミと達川が同一人物。
女装とか、そんな変装術どころじゃない不可思議な現象。
たしかに、教授がこの人を頼れと言った意味が少しだけ理解出来た。
そして、同時に決意した。彼になら、穫の体質と周辺で起きる怪異について話せると。
21
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。
NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。
中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。
しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。
助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。
無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。
だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。
この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。
この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった……
7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか?
NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。
※この作品だけを読まれても普通に面白いです。
関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】
【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました
小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。
しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!?
助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、
「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。
幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。
ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく!
ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる