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第73話 『カプセル異世界』に
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五年後。
たった、五年で並行世界との連携がさらに取りやすくなり。
宇宙空間に実は存在していた『カプセル異世界』と称したシェルターたちが、『クロニクル=バースト』側にコンタクトを取ってきた。
「ただいま~」
奈月は仕事でシェルターの中でダイブしていたが、起きるときは必ず『ただいま』を言うことにした。そうしないと、三年前に結婚した紗夜が拗ねるからだ。
「おかえり。ちびちゃんたちもよく寝てたね?」
「あ。……重いと思ったら、態と乗せた?」
「そっち行きたがるんだもん」
互いに治療が安定期に入ったところで、地球産の『カプセル異世界』ことシェルターの実験台になろうと言い出したのは奈月と紗夜だった。ほかのメンバーもそれぞれのパートナーがいる者同士だけ……シェルター同士の行き来が出来るように、と条件をつけて宇宙空間に漂っている。
行き来するときは事前連絡すれば、入り口がドッキングする優れもの。これを開発したのは、クロードたちの部門らしい。パートナーがいないのに仕事がそれだと皆にはからかって遊んだものだ。
とりあえず、宇宙側で既にいる『カプセル異世界』については光年が離れすぎているため、二週間前に言わないと五分の距離も詰めるのがまだ難しかった。
最初はキャンピングカー並みの設備しか整っていなかったが、あちらとのやり取りを繰り返したおかげで……シェルター内で出産という偉業まで成し遂げてしまった。奈月と紗夜には双子の男女が出来、今奈月のお腹の上でこてんとよく寝ていた。
ふたりとも顔は奈月によく似たが、甘えた感じは紗夜にそっくり。両親のいいところをうまくピックアップした感じだ。頭を撫でてもなかなか起きない豪胆な性格はどちらに似たのやら。
「今何時?」
「夜の八時。ご飯、出来てるよ」
「お。今日は何?」
「養殖チームから魚もらったし、竜田揚げにしてみた」
「うっわ。向こうで飯食うの我慢してたから、ありがたい!!」
「でしょ? ちびちゃんたち起こして。並べておくから」
行動過敏や感覚過敏が一定に落ち着いた紗夜は、もう立派な母親の顔をするようになった。結婚や子どもが出来た生活になったことも大きいだろうが……まだまだ奈月のように、精神年齢を低めに設定しないと難しいのは、もう通り越したかもしれない。
女は母になれば変わるともいうが、父になったのに奈月は相変わらずの奈月。並行世界同士のやり取りをしても、他所の自分は他所だと思えるようになったのも最近だ。
「凪咲~。宏樹ー? ご飯だって」
「「む~~」」
まだ二歳になる少し前だけど、すくすく育っていることが何よりの幸せだ。
虚弱だと思わされ、生き長らえるどころか結婚も子どもも出来ることがないと諦めていた自分が、幼い子どもたちの父親にきちんとなることが出来た。基本シェルターにいる限り、在宅ワークしか出来ないので育児には積極的に参加するようにしている。
食事の方も、紗夜が疲れていたら変わるくらいには作れるようになってきている。数年前に藍葉が開発した宅配弁当はまたさらにリニューアルに磨きがかかったので、今でも重宝している。それでも、自分で作れるものは作れるようにと、シェルター間で菜園システムや養殖チームを組んで生活はしていた。
雅博やメメは運営側として地球に残っているが、そろそろ復興作業がどれくらい進んだか気になるところ。宇宙空間の時差はさっき紗夜が知らせてくれた時計のお陰で、地球の時間もなんとなくわかるようにしている。
端末の表面をスライドさせれば、ノーパソサイズのディスプレイが展開され……メールがいくつか来ていたので確認すれば、雅博からのがあった。
「紗夜、まちゃたちが近いうちにこっち側のシェルターに来るって」
「え? 別荘みたいに作るの?」
「そ。メメはデザインの仕事あるし、たまには~くらいのつもりらしい」
「うちの子たちとも、会ってないもんねー?」
「それがメインらしい」
星の循環を予測したのは、遠い遠い『加東奈月』のどこかかもしれないが。
この生活を苦に思わないように、自分たちを遠隔操作してくれたことに今では感謝している。
星規模の世界災害や復興作業はまだ続いているものの、日常はきちんとあるのだから。いつ何時か、その時が来ることを知性ある存在だからとは言って、人間たちが管理できるとは限らないのだから。
【終】
たった、五年で並行世界との連携がさらに取りやすくなり。
宇宙空間に実は存在していた『カプセル異世界』と称したシェルターたちが、『クロニクル=バースト』側にコンタクトを取ってきた。
「ただいま~」
奈月は仕事でシェルターの中でダイブしていたが、起きるときは必ず『ただいま』を言うことにした。そうしないと、三年前に結婚した紗夜が拗ねるからだ。
「おかえり。ちびちゃんたちもよく寝てたね?」
「あ。……重いと思ったら、態と乗せた?」
「そっち行きたがるんだもん」
互いに治療が安定期に入ったところで、地球産の『カプセル異世界』ことシェルターの実験台になろうと言い出したのは奈月と紗夜だった。ほかのメンバーもそれぞれのパートナーがいる者同士だけ……シェルター同士の行き来が出来るように、と条件をつけて宇宙空間に漂っている。
行き来するときは事前連絡すれば、入り口がドッキングする優れもの。これを開発したのは、クロードたちの部門らしい。パートナーがいないのに仕事がそれだと皆にはからかって遊んだものだ。
とりあえず、宇宙側で既にいる『カプセル異世界』については光年が離れすぎているため、二週間前に言わないと五分の距離も詰めるのがまだ難しかった。
最初はキャンピングカー並みの設備しか整っていなかったが、あちらとのやり取りを繰り返したおかげで……シェルター内で出産という偉業まで成し遂げてしまった。奈月と紗夜には双子の男女が出来、今奈月のお腹の上でこてんとよく寝ていた。
ふたりとも顔は奈月によく似たが、甘えた感じは紗夜にそっくり。両親のいいところをうまくピックアップした感じだ。頭を撫でてもなかなか起きない豪胆な性格はどちらに似たのやら。
「今何時?」
「夜の八時。ご飯、出来てるよ」
「お。今日は何?」
「養殖チームから魚もらったし、竜田揚げにしてみた」
「うっわ。向こうで飯食うの我慢してたから、ありがたい!!」
「でしょ? ちびちゃんたち起こして。並べておくから」
行動過敏や感覚過敏が一定に落ち着いた紗夜は、もう立派な母親の顔をするようになった。結婚や子どもが出来た生活になったことも大きいだろうが……まだまだ奈月のように、精神年齢を低めに設定しないと難しいのは、もう通り越したかもしれない。
女は母になれば変わるともいうが、父になったのに奈月は相変わらずの奈月。並行世界同士のやり取りをしても、他所の自分は他所だと思えるようになったのも最近だ。
「凪咲~。宏樹ー? ご飯だって」
「「む~~」」
まだ二歳になる少し前だけど、すくすく育っていることが何よりの幸せだ。
虚弱だと思わされ、生き長らえるどころか結婚も子どもも出来ることがないと諦めていた自分が、幼い子どもたちの父親にきちんとなることが出来た。基本シェルターにいる限り、在宅ワークしか出来ないので育児には積極的に参加するようにしている。
食事の方も、紗夜が疲れていたら変わるくらいには作れるようになってきている。数年前に藍葉が開発した宅配弁当はまたさらにリニューアルに磨きがかかったので、今でも重宝している。それでも、自分で作れるものは作れるようにと、シェルター間で菜園システムや養殖チームを組んで生活はしていた。
雅博やメメは運営側として地球に残っているが、そろそろ復興作業がどれくらい進んだか気になるところ。宇宙空間の時差はさっき紗夜が知らせてくれた時計のお陰で、地球の時間もなんとなくわかるようにしている。
端末の表面をスライドさせれば、ノーパソサイズのディスプレイが展開され……メールがいくつか来ていたので確認すれば、雅博からのがあった。
「紗夜、まちゃたちが近いうちにこっち側のシェルターに来るって」
「え? 別荘みたいに作るの?」
「そ。メメはデザインの仕事あるし、たまには~くらいのつもりらしい」
「うちの子たちとも、会ってないもんねー?」
「それがメインらしい」
星の循環を予測したのは、遠い遠い『加東奈月』のどこかかもしれないが。
この生活を苦に思わないように、自分たちを遠隔操作してくれたことに今では感謝している。
星規模の世界災害や復興作業はまだ続いているものの、日常はきちんとあるのだから。いつ何時か、その時が来ることを知性ある存在だからとは言って、人間たちが管理できるとは限らないのだから。
【終】
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