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第八章 小森の場合④

第4話『源二お手製スイートポテトタルト』

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 ただ、こっそり作ろうとした当日に……源二げんじにバレてしまった。


「バレバレだぞ、小森こもりぃ?」


 れい苺鈴メイリン用にと別のタルト型に生地を入れようとした時……あっさりと源二にバレたのだ。


「…………すみません」


 私用込み込みの作業だったので、裕司ゆうじは素直に謝った。しかし、源二は少し怒りながらも笑顔で裕司の頭を三角巾の上からぐしゃぐしゃに撫でつけた。


眞島まとうちゃんとお前の分かぁ?」

「い、いえ。怜やんとワンさんに」

「あ? 苺ちゃんにもか??」


 源二はワンの下の名前が可愛らしいからと、個人で日本読みの苺ちゃんと呼んでいるのだ。苺鈴メイリン自身はあだ名をつけられるのに慣れていなかったが、嬉しいと聞いたことがある。


「怜やんが、ワンさんの大好物がさつまいもだから頼むとお願いされて」

「ふーん?」


 さあ、これにはどう返してくる……と裕司は身構えたが、源二は圧をかけていた手を離してポンポンと裕司の頭を撫でた。


「源さん?」

「んじゃ、大きさも悪くはないが……数を増やす方はどうだ?」

「え?」

「ふたりだけでも、贔屓すんのは正社員らにもあんまよく写らん。なら、小ぶりでも全員に二個ずつにすれば良いだろ?」


 俺達の手間は増えるが、と言った源二の横顔は……とても良い笑顔だった。

 なので、タルト生地の乾燥も込みで、急いでふたりもだが途中で合流してくれた他のバイト達とスイートポテトタルトを作ることが出来。

 出来上がったら、まずは味見だともうひとりのバイトである玉城たまきも一緒に食べることにした。


「いただくっす!」


 裕司らも食べるが、まだ若手のバイトの反応も気になり……サクッと音を立ててから、玉城はもぐもぐと食べていく。少しずつ、目端が緩み……だんだんと締まりのない表情になっていくがそれで良かった。


「どーだ?」

「めっちゃ、美味いですよ! タルトはサクサクで……スイートポテトはちょっと甘さ控えめっすけど、タルトと合わせるとちょうど良いっす!! スイートポテトをタルトって初めてっすけど……中身にしちゃっていいんすね?」

「洒落たカフェとか、イタリアン系の店とかならデザートで時々見かけるからな? レシピはちょいとネット漁ったが、あとは俺の修業時代の配合だ」

「さすが、源さん!!」

「うんめ」


 裕司も食べたが、玉城の言うように甘さ控えめのスイートポテトのフィリングが……全粒粉をあえて加えたタルト生地の香ばしさに甘みがよく合って、一個だけでは物足りない。

 たしかに、大きさを変えても怜とかが一個じゃ足りないとか言いそうな出来栄えだった。


「んじゃ、これで行くぞ? 夕方のまかないは前もって決めてた通りだ」

「Aがココナッツカレーで、Bが揚げ豚丼っすね!」

「どっちも怜やん好きそう……」

眞島まとうさん、美味しそうに食ってくれますもんね」


 玉城とも話すことが多い……と言うより、ホテルの人間とは比較的誰とも話す怜なので誰とも仲がいい。その中でも、彼氏の裕司と友達でもある苺鈴メイリンは別格らしいのが嬉しかった。

 結果、事前に個数の変更を伝えたので……怜や苺鈴メイリンの幸せそうな笑顔を見ることが出来た。


「コモリさん、これ買いたいんデスが。お金払えば……出来マスか!?」


 とまで言うくらい、苺鈴メイリンはめちゃくちゃ気に入ったため……源二が内緒だと自分の分からひとつを彼女に食べさせたのだった。
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