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第九章 眞島の場合⑤
第4話『思い出のAセット』②
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だから自然に任せて気持ちを昇華させようとしたが……裕司から彼女と別れたと教えてくれたのだ。
それがちょうど、怜がうっかり彼の前で盛大に転けてしまった後。
送るから、と手を貸して帰宅する時に……裕司が言ったのだ。
「他よりも、目を離せない子を見つけたからぜよ?」
と言って、空いている手で怜に額を軽く小突いた。それだけで、期待がめちゃくちゃ膨らまないわけがない。
「……自惚れていいのかね?」
「もちろん。今日だって、めちゃくちゃ焦った。大したことなくても、怪我した怜やんばっか優先したくらいだから。あいつとは……悪かったけど、あんまりうまくいってなかった。理由は今日ちゃんと理解したぜよ。もう、俺は怜やんに傾いていたんだって」
相手にも怜にも失礼だろうが、と裕司が言うのに。怜は首を横に振って……打った箇所が痛むのも気にせずに、彼の首に手を回す。少し身長差はあったが、裕司も受け止めてくれた。
「こもやんがいい! 好きなの!!」
「俺もぜよ、怜やんが好きだ」
「うん、うん!」
たしかに、少し不誠実な部分はあったが……裕司也に相手に別れを告げてきたので、真正面に近い角度で怜に気持ちを告げてくれた。
裕司としては、もう少し格好をつけたかったらしいが……怜の今日の怪我で、余計にほっとけなくなったようだ。この子の近くに、いち早く駆けつけたい存在になれるように……と。
道端なのでキスはしなかったが、手を恋人繋ぎにしてゆっくり帰ったのはいい思い出だった。
それから一年くらい経つが……ゆっくりした付き合いでも怜は満足していた。
相変わらず、ふざけた口調遊びで楽しむくらいのコミュニケーションも出来ている。まかない処では、彼の日は美味しいまかないを作って食べさせてもらえている。
お互いの部屋も、友達付き合いだった時より行き来しているし……共寝もしている。触れ合うことはなくとも、服越しの体温が伝わる感触は怜にとって嬉しかった。腕枕とかは、裕司の大事な料理の腕なので控えている。
皐月に言うと、何度か呆れられたりもしたが……熟年夫婦かともからかわれた。
「こもやんは、こもやん也に考えてくれているかもしれないんだよ」
「てっきり、あんたが二十歳になったら一線越えるかと思ってた」
「……まあ、私も思ったけど。でも、いいんだよ」
指輪もきちんと選んで贈ってくれるくらい、裕司が怜を大事にしてくれるているから。
笑顔で答えた怜に、皐月はヨシヨシと何故か頭を撫でてくれた。
その日は、週一だけのバイトをしにホテルに行った。テスト期間でも、少しはバイトに行かないと学費を納められないからだ。これについては、裕司から学んだ。
そして、ちょうど裕司がまかないの担当日で……彼の口から告げられた今日のメニューには。
『豚ミンチのオムライス』があったので、怜は迷わず頼んだ。
それがちょうど、怜がうっかり彼の前で盛大に転けてしまった後。
送るから、と手を貸して帰宅する時に……裕司が言ったのだ。
「他よりも、目を離せない子を見つけたからぜよ?」
と言って、空いている手で怜に額を軽く小突いた。それだけで、期待がめちゃくちゃ膨らまないわけがない。
「……自惚れていいのかね?」
「もちろん。今日だって、めちゃくちゃ焦った。大したことなくても、怪我した怜やんばっか優先したくらいだから。あいつとは……悪かったけど、あんまりうまくいってなかった。理由は今日ちゃんと理解したぜよ。もう、俺は怜やんに傾いていたんだって」
相手にも怜にも失礼だろうが、と裕司が言うのに。怜は首を横に振って……打った箇所が痛むのも気にせずに、彼の首に手を回す。少し身長差はあったが、裕司も受け止めてくれた。
「こもやんがいい! 好きなの!!」
「俺もぜよ、怜やんが好きだ」
「うん、うん!」
たしかに、少し不誠実な部分はあったが……裕司也に相手に別れを告げてきたので、真正面に近い角度で怜に気持ちを告げてくれた。
裕司としては、もう少し格好をつけたかったらしいが……怜の今日の怪我で、余計にほっとけなくなったようだ。この子の近くに、いち早く駆けつけたい存在になれるように……と。
道端なのでキスはしなかったが、手を恋人繋ぎにしてゆっくり帰ったのはいい思い出だった。
それから一年くらい経つが……ゆっくりした付き合いでも怜は満足していた。
相変わらず、ふざけた口調遊びで楽しむくらいのコミュニケーションも出来ている。まかない処では、彼の日は美味しいまかないを作って食べさせてもらえている。
お互いの部屋も、友達付き合いだった時より行き来しているし……共寝もしている。触れ合うことはなくとも、服越しの体温が伝わる感触は怜にとって嬉しかった。腕枕とかは、裕司の大事な料理の腕なので控えている。
皐月に言うと、何度か呆れられたりもしたが……熟年夫婦かともからかわれた。
「こもやんは、こもやん也に考えてくれているかもしれないんだよ」
「てっきり、あんたが二十歳になったら一線越えるかと思ってた」
「……まあ、私も思ったけど。でも、いいんだよ」
指輪もきちんと選んで贈ってくれるくらい、裕司が怜を大事にしてくれるているから。
笑顔で答えた怜に、皐月はヨシヨシと何故か頭を撫でてくれた。
その日は、週一だけのバイトをしにホテルに行った。テスト期間でも、少しはバイトに行かないと学費を納められないからだ。これについては、裕司から学んだ。
そして、ちょうど裕司がまかないの担当日で……彼の口から告げられた今日のメニューには。
『豚ミンチのオムライス』があったので、怜は迷わず頼んだ。
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