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第二部壱 怜の場合①

第3話 夢で映る

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 頼まれた材料を買って帰った頃には……もう、裕司ゆうじは家にいた。

 疲れているだろうに、先にまだ冷蔵庫などにある材料で何か作ってくれていたのだ。


「おう。おかえり」

「こもやんもお疲れ様~」


 食材をきちんと冷蔵庫などにしまってから、裕司が手を広げてくれたので……れいは思い切ってハグしに行く。皐月さつきにはバカップルと言われるだろうが、怜達はこれでいいのだ。


「買い物ありがと」

「いえいえ。これくらいしか出来んので」

「今日は時期的にはちと早いけど……揚げ出し豆腐にするぜよ」

「揚げ出し豆腐!?」


 豆腐は味噌汁には多いなとは思っていたが……まさか、メインだとは思わなかった。裕司を少しずつ手伝うようになってきたので、材料を見て何と無くわかるようにはなってきたが…………まさかそう来るとは。嬉しい限りである。


「買い物で疲れた怜やんは、少し休んでいいよ?」

「そうするぅ」


 そこそこ重い荷物を抱えていたので、実は思っていた以上にくたくただったのだ。だから、お言葉に甘えて…………リビングのソファでごろんとしていることにした。少しひんやりした感触が心地よくて、怜はうとうとしてしまう。

 そのまどろみから……怜はいつの間にかどこかへ出掛けていたのか、少し肩が肌寒かった。


『…………え?』


 よく見ると、怜はドレスを着ていた。それも純白の。

 デザインを見る限り……これはどう見ても、ウェディングドレス。ヴェールやブーケはないが、間違えようがない。

 クルクル回って見ている間に、どこからかノックの音が。


『怜やん、準備出来た?』


 裕司の声だ、と思って振り返ると…………まぶしいくらい素敵な花婿に仕上がっていたタキシード姿の彼がそこに立っていたのだ。

 ほら、と手を差し出されたので……つい、手を伸ばしたのだが。彼の手に重ねた途端、上からの声に意識を浮上させられた。


「……ん。怜やん?」

「にゅー……こもやん、素敵ぃ」

「はい? 寝ぼけてる?」

「う?」


 ちゃんと起き上がると……いいお出汁の香りがしてきた、いつもの部屋の中だった。服装を見ても、ドレスではなく秋物の普段着。

 だとすれば……うたた寝で、願望が前のめりに出てしまったのか。なんとも気恥ずかしい夢だった。


「…………なに? 俺がなんかした?」

「……こもやんは…………したような違うような」

「どっちだよ? ほら、手洗ってきなよ。他の準備しとくから」

「ほいほい」


 あったかいものはあったかいうちに食べたいので、怜は言われた通りに洗面所で手を洗いに行く。

 鏡を見ると……高校卒業以降の幼さが多少は抜けているが、まだ大人になったのとは言い難い顔立ちが写っていた。


(…………いつか、こもやんのお嫁さんに)


 なれるのか、と思うと嬉しさ恥ずかしさが込み上がってきた。
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