【完結】ホテルグルメはまかないさんから

櫛田こころ

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第二部拾伍 怜の場合⑧

第4話『濃厚エビのビスク』

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 クリスマスの仕事をお互いに終わらせて、二日後。

 ほとんど、帰省の準備をしなくてはいけない時期ではあるが。れい裕司ゆうじはお互いに休み……特に裕司は有休を使ったので、休暇をもぎ取れた。まだ入社一年目の怜では、半年を過ぎても有休が与えられていないのだ。


「さあ! 今日は怜やんにもちょいと手伝ってもらうよ!!」

「おーおー! 手伝うとも!!」


 街中の高級ディナーではなく、久しぶりのお家クリスマスパーティー。大人数でもなく、ふたりだけのパーティーだ。お互い、最近は怜の体調不良以外で休みがあまり被らなかったから、今日は大いに飲み食いをしようと決めていたのだ。

 とは言え、チェーン店などのオードブルではなく、裕司と共同作業で一から手作りではあるが。


「うーん。怜やん、ビスクってわかるかい?」

「んー? たしか、エビのポタージュぽいの?」

「あれを作るぜよ」

「うぉお!? 家で!?」

「下ごしらえめちゃくちゃかかるから」

「頑張る!!」


 昨夜から仕込んでいたらしいものもあるようだが、怜は裕司が指示してくれる内容をどんどんこなしていく。学生時代から少しずつ料理をするようになったのと、裕司と暮らすようになったお陰で……多少は手際がよくなってきた。

 エビの殻を剥くなどは、少し大変だったがやり甲斐はあった。途中、水分補給用の温かい番茶を飲みながら手分けして進めていけば。

 お昼を回る頃には、大体の仕込みが終わったので……一度シャワーを浴びてから仮眠。

 起きたら、また残りの作業の続き……を繰り返して。完全に終わったら、また仮眠。けど、怜は先に起きて秀司しゅうじ手製のキーケースが入った小袋を、リビングテーブルの上に置いて。

 そのあとに、裕司が起き上がったら……揚げ物などの仕上げを手伝い。

 完全にテーブルに並べたら……今日は解禁、と度数は低めでもアルコールをとホテルで購入させてもらったシャンパンを開けたのだ。


「「メリークリスマス!!」」


 クリスマスは終わっているが、ふたりにはこれでいいのだとシャンパン用のフルートグラスをかち合わせたのだった。


「はい、ゆーくん!」


 食べる前にさっそく、と怜は裕司にプレゼントの袋を渡してやった。一瞬、目を丸くした彼だが……すぐに笑顔になってくれて袋に手を添えた。

 中身を開けると、『あ』と声を上げた。


「……兄貴の」

「やっぱり、わかる?」


 昔は興味がないと秀司は言っていたが、怜としてはそんなことがないと思っていた。裕司ほど、気遣いの出来る男性がすれ違いはあっても……兄弟の好きなことに気づかないわけがないと。

 怜が聞けば、裕司が今度は苦笑いになった。


「この模様……兄貴が得意なやつだし」

「色々悩んだけど……芽依めいらのこともあったし、頼んだのだよ」

「……割引きしてくれただろうけど、高くなかった?」

「予算内だよ」


 ギリギリ、だとはこの場合伏せておくが。

 裕司からは、ネイルのケア用品でもお高めのものをもらえた。水仕事とか、手洗いなどの消毒が結構多い宴会サービススタッフとしては、ネイルケアはできても爪に塗ることはあまりできないからだ。

 食事は、定番のクリスマス料理に加えて……ふたりで仕込んだエビのビスクは殻も使ったあとに、フードプロセッサーで砕いたお陰か……エビの旨味が濃厚でトロトロで、温めたことで塩気も甘味も程よく、素晴らしい仕上がりになっていた。


「美味い?」

「おいひー!」


 ふたりで手がけた料理がこんなにも美味しいのももちろんだが……ふたりで過ごすのもとても嬉しかった。

 デザートのブッシュドノエルも堪能した後、怜が秀司らの挨拶について伝えると……裕司は慌て過ぎて、椅子から転げそうになった。
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