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第38話 天神様と少女

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「あ……ありがとう、ございます」


 ワーウルフらを、すべて掃討し終えた後……少女は、私達へ礼を告げてくれた。幾分か顔色は悪いが……危機が去ったことで落ち着きは出来たようだね?


「怪我とかはない?」


 私が尋ねると、少女はゆっくりと首を縦に振ってくれた。


「……うん。なんとか」

「そう。けど……なんでこんなとこに? ここ、魔の森の近くだけど」

「……必要なものがあって」

「「必要なもの?」」

『な……に?』

「ひゃ!? しゃべった!!」


 足元にいたフータが言葉を話すことに、驚くのは誰でも同じかもしれないね?

 私がフータを抱き上げて、少女の目線に合わせてあげることにした。


「僕が契約している精霊だよ」

『フータ!』

「……フータ?」

「名前だよ? そう言えば君は? 僕はミザネで、こっちはトビト」

「……である」

「……………………リーン」


 トビトが軽く会釈すると、少女は自分の名を名乗ってくれた。もう一度よく見るが……日本でも十歳程度の年齢に見えてしまう。今の私とて、十五の身体だからあまり変わらないかもしれないが。


「ん。リーン? 必要なものって何? 僕らが聞いてもいいなら、だけど」

「…………お、お母さん……の傷を治す……薬草、探しに」

「このような危険な場所でか?」

「…………うん」


 しっかり頷くので……余程、その母親が一大事かもしれないね?

 他の大人……特に、冒険者に頼む手もあるだろうに……リーンは自分で危険をかえりみずに飛び出してきた。その勢いには感心するが……しかし。


「……ここはすごく危ないって僕らは聞いていたよ? お父さんとか、他の大人は?」

「…………お父さん、昔に死んじゃった」

「……辛いこと聞いてごめんね」

「……ううん」


 子供に言いにくいことを言わせるとは……元神であれど、実に情け無い。

 とは言え、ここで別れて……またこの子を一人にしたら、先程と同じ襲撃を繰り返すだろう。

 であれば、だ。


「じゃあ、リーン。僕らも手伝うよ、薬草探し」

「! いいの……?」

「急ぐ旅じゃないし。僕らもこの森に用があるしね? トビト達もいいでしょ?」

「……承知」

『う……ん!』

「じゃ、こっちは大丈夫」


 リーンの髪を撫でながら提案してみると……彼女の顔は、落ち込んでいたものから……花が咲いた時のような輝かしい笑顔となったよ。


「うん……うん! ありがとう!!」

「決まり! じゃ、ちょっとの間だけど……君は僕らの依頼主だ」

「うん! えっとね……薬草なんだけど」


 リーンが木の枝で地面に絵を描いている間に……トビトとフータはワーウルフの亡骸の処理を。私はリーンの警備をする意味も兼ねて、彼女の側で絵が出来上がるのを待ったよ。

 子供だが、意外に絵が上手で……うまく特徴を書き出せていた。

 しかし……治癒草などでもない、はじめて見る薬草だったね?
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