異界の編集は、世の中と隣り合わせ

櫛田こころ

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第18話 本性を知るのが怖い 参

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 一方で、政を見送った朱里は改造した廃墟でひとりぼっちになっていた。

 キャラクターがプリントされていたバスタオルを受け取った後に……政の身体は倒れ、バスタオルごと蕩けてしまった。

 朱里は助けもせず、剥き出しになっていた排水管に蕩けた彼らへ言葉をかけて見送るだけ。言葉をかけてやり、ここで政としばしの別れだと覚悟を決めたあとは。

 ひたすら、政が集めてくれたふわっふわのぬいぐるみやブランケット、毛布たちを寄せて整えていくのだ。


 ここで最後に籠城するのは、『最愛の女』となる朱里だけ。ただし、その相手は今見送った彼ではない。黒百合姫と名乗る立場となる朱里を仕立てた張本人は当分来ないのだ。


「あ~あ。ここで待つのはどれくらいかしら? ケアマネージメントだなんて、あたしの性格じゃないけどぉ」


 ぽんぽん、とぬいぐるみたちの配置が定まれば。上から毛布をかける。この上に横たわり、朱里は次への『手立て』を披露しなくてはいけないのだ。

 これまで、間接的に得たモノを『マサ』にたらふく集めてもらったのだから。ここから、天変地異が始めることで喪う存在らへの『アフターサポート』をしなくてはいけない。

『編集部』とは書物を作ることではない。全く違う事柄のために、用意された事業部と言っていい。曖昧にするために、朱里らを用意したのも人間ではないからだ。


「空の宙? ふわもこの向こう? あたしだって、『本当のおばあちゃん』の姿形も知らないのに。……ちゃんとした人生設計に『魂BOX』の形も崩すの勿体ないなあ? 成に回収してもらった蜜で似せた美貌だーけーどー」


 蜜はただの魂の形。

 黒百合にした姿はただの箱の外に使うラッピング。

 朱里の名前も看板でしかない。与えるのは、探し当てた己の『最愛』。その相手の看板が、朱里も『成』だとしか認識していない。

『異界の編集部』事態も、総力を掛けて部隊となる存在を選んでいると朱里は認識を植え付けられただけ。

 自分がたまたま現実側に存在していて、『世紀末の編集』を担う長のひとりになっただけ。

 人間だったのか、幽霊だったのか、妖怪変化でも神なのか何もわからない。


「全く反対側の『大陸』にいるおばあちゃんの依頼だけど。多分、『長』ってことだから……あたしの本当のおばあちゃんじゃなさそうね」


 ころんと毛布に転がると、背中から何かが流れそうな感覚を覚え、朱里は慌てて起き上がった。


「あっぶな!? いきなり、『蜜』が流れるってことは。どっかの地下水路が濁流になって、陥没事故多発の可能性出ちゃうじゃない!?」


 異物である『蜜』の、現実側への副作用を思い出してから……朱里はひと呼吸して、もう一度横たわった。


「何処かへ流れるなら……すべての星へ伝えて。其方らの奪いたい『愛』を思い出して」


 だからこそ、地球は一度崩壊して再生していく。その創り変えを目指してきたモノこそ、『異界の編集部』なのだから。

 朱里はその覚悟を決め、背中から黄金色の蜜を毛布に染め上げていく。その毛布の蜜は下のぬいぐるみやブランケットに染み込み、インクで濁るとその下の床に染み込んでいった。

 さらにさらに、床の亀裂の中にとろりと染み渡り、地下の方へと流れていった。奥底の水路まで辿り着くと、黒く濁った水の中へとさらに流れる。

 その映像が朱里の脳裏には流れてきていたので、にんまりと口を緩めた。


「さあ、出てきて? 綿の子たち」


 朱里が袖で隠れている手で祈る様に組むと、目を閉じて意識を少しずつ消していく。それと同時に、水に溶け込んだ蜜が弾け、人間ではないが半透明の存在が多数出現してきた。


『うっわ!? 水の中って、朱里様やり過ぎ!?』
『仕様がないだろう。……始まったからには、まず水の中からの『解放』か』
『あ、れ?? ボク、術士? 刀? なんかキャラクター混ざってる??』
『俺も混ざってる。……竜王なのか。大剣なのか』



 ほとんどが意識を閉ざしているが、政に一度顕現させられたふたりだけは覚醒したものの、今は混乱しているようだった。外見だけ漫画やゲームのキャラクターに寄せてもらっているが、人間ではないのはないのは彼らも同じ。異界の編集部に誘われて呼応しただけの『魂の一部』なのだから。

 そのふたりが呼応したのを最後に、朱里は完全に『黒百合姫』の蜜をしばらく長す箱となった。魂魄のみを護る事に徹するためにも、雑念となる意識は邪魔だと閉じておくしかない。

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