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座敷童子
第2話 いいことの相談
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真穂と出会ってから数日後。
美兎は流石におかしいと思ってきた。何故かと言うと、仕事が順調過ぎるのだ。
いつもなら先輩に即没にされてしまうデザイン案が十個中七個も採用されるとか。
電話応対もクレームがあることなく、スムーズに行くこととか。
些細なことばかりだが、いいこと尽くめばかりなのだ。だから、思い当たることと言えば、あの真穂と言うあやかしか幽霊の『おすそ分け』のお陰だ。
けれど、何故こうも些細とは言え幸運続きなのかがよくわからない。それが何故美兎と美兎の周囲だけ起きているのかも。
(迷惑……とも言い難いんだけど)
なんだか、自分で仕事をしたはずなのに実感が湧かないのだ。
仕事がうまく行くのは悪いことではない。いいことではあるのに……美兎に、達成感が感じ取られていないのだ。だから、順調過ぎて空き時間に休憩室でぼーっとしてしまうことが増えた。贅沢過ぎる悩みではあるが。
「おや、湖沼さん?」
会社のビルの屋上フロアに行くと、ここに来るようになってから知り合った男性が先に座っていた。
「あ、三田さん!」
「お疲れ様ですね?」
「お疲れ様です」
(株)西創デザインは、広告代理店がメインだが他社にもフロアの一部を賃貸として貸している関係で、他社の人間も多い。
あと、清掃業者を雇わないと環境維持が大変なために、清掃スタッフも多い。三田と言う、初老の男性と美兎が出会ったのは、この屋上フロアでだった。美兎が気分転換に訪れた時に挨拶してから、自然と仲良くなったのだ。
「……少しうかない顔をされていらっしゃいますね?」
そんなにも顔に出ていたのか、と美兎は持っていたカップのコーヒーを備え付けのローテーブルに置き、もにゅもにゅと顔を触った。
いきなりの行動にも、三田は『ふふっ』と笑ってくれたが。
「……そんな変な顔していました?」
「いえ。落ち込む……と言うよりかは考え込んでいらっしゃるようでしたので」
「……ちょっとだけ悩みが」
「僕が聞いても?」
「話していいんですか?」
「お力添え出来れば」
とは言っても、妖怪か幽霊の話をするわけにもいかない。少しだけ、言葉を濁して話すことにした。
「その……贅沢な悩みなんですけど。仕事が順調過ぎるんです」
「おや。良いことでは?」
「ええ。けど、順調過ぎて達成感が薄くなってきたと言うか」
「手を抜いたわけでもなく、ただただ順調と言う感じですか?」
「そうなんです! だから、定時上がりとかがしょっちゅうで家でもゆっくりできるんですけど!!」
「湖沼さんはまだまだお若いですし、今のうちに休む……いえ、これではただの説教ですね。すみません」
「いえ」
直接的な原因が非現実的なことだから言えるわけがない。
その理由を話せる相手と言えば、人間なら美作がいるが……いっそ、界隈に出向いてあの真穂を探すべきか。
それを決めたとて、本当に幽霊のような妖怪だったら簡単に見つかるわけがない。
思いっきり息を吐くと、三田に肩を軽く叩かれた。
「悩めるうちに悩むのもお若い人のつとめですが。……解決の糸口がもし見えているのなら、それの相談に乗ってくださる方に聞いてみるのも有りですよ?」
「相談……」
と思いつくのは、あの猫人である火坑だ。もちろん、夢喰いの宝来もいるが、彼はいつでも楽庵にいるわけではない。
なら、順番的に火坑に相談してみよう。
「ありがとうございました。なんとかなりそうです!」
「いえいえ、お力になれたようで良かったですよ?」
美兎は三田にお礼を言ってから、休憩フロアから仕事に戻っていく。
「あ、湖沼ちゃーん」
休憩から戻ると二年先輩の沓木に呼ばれたので、急いで彼女のデスクに向かう。
彼女は、バックから大量のお菓子を美兎に渡してくれたのだ。しかも袋付きで。
「これは……?」
「私の彼氏からのおすそ分け。なんか調子良くていつも以上に作り過ぎたらしいのよ? 湖沼ちゃん、少しもらってくれる?」
「ありがとうございます」
「あ、シリカゲルとか入れてないから出来るだけ早めに食べて?」
「はい!」
せっかくだから、火坑にも分けてあげようと決めて美兎は仕事を再開することにした。
美兎は流石におかしいと思ってきた。何故かと言うと、仕事が順調過ぎるのだ。
いつもなら先輩に即没にされてしまうデザイン案が十個中七個も採用されるとか。
電話応対もクレームがあることなく、スムーズに行くこととか。
些細なことばかりだが、いいこと尽くめばかりなのだ。だから、思い当たることと言えば、あの真穂と言うあやかしか幽霊の『おすそ分け』のお陰だ。
けれど、何故こうも些細とは言え幸運続きなのかがよくわからない。それが何故美兎と美兎の周囲だけ起きているのかも。
(迷惑……とも言い難いんだけど)
なんだか、自分で仕事をしたはずなのに実感が湧かないのだ。
仕事がうまく行くのは悪いことではない。いいことではあるのに……美兎に、達成感が感じ取られていないのだ。だから、順調過ぎて空き時間に休憩室でぼーっとしてしまうことが増えた。贅沢過ぎる悩みではあるが。
「おや、湖沼さん?」
会社のビルの屋上フロアに行くと、ここに来るようになってから知り合った男性が先に座っていた。
「あ、三田さん!」
「お疲れ様ですね?」
「お疲れ様です」
(株)西創デザインは、広告代理店がメインだが他社にもフロアの一部を賃貸として貸している関係で、他社の人間も多い。
あと、清掃業者を雇わないと環境維持が大変なために、清掃スタッフも多い。三田と言う、初老の男性と美兎が出会ったのは、この屋上フロアでだった。美兎が気分転換に訪れた時に挨拶してから、自然と仲良くなったのだ。
「……少しうかない顔をされていらっしゃいますね?」
そんなにも顔に出ていたのか、と美兎は持っていたカップのコーヒーを備え付けのローテーブルに置き、もにゅもにゅと顔を触った。
いきなりの行動にも、三田は『ふふっ』と笑ってくれたが。
「……そんな変な顔していました?」
「いえ。落ち込む……と言うよりかは考え込んでいらっしゃるようでしたので」
「……ちょっとだけ悩みが」
「僕が聞いても?」
「話していいんですか?」
「お力添え出来れば」
とは言っても、妖怪か幽霊の話をするわけにもいかない。少しだけ、言葉を濁して話すことにした。
「その……贅沢な悩みなんですけど。仕事が順調過ぎるんです」
「おや。良いことでは?」
「ええ。けど、順調過ぎて達成感が薄くなってきたと言うか」
「手を抜いたわけでもなく、ただただ順調と言う感じですか?」
「そうなんです! だから、定時上がりとかがしょっちゅうで家でもゆっくりできるんですけど!!」
「湖沼さんはまだまだお若いですし、今のうちに休む……いえ、これではただの説教ですね。すみません」
「いえ」
直接的な原因が非現実的なことだから言えるわけがない。
その理由を話せる相手と言えば、人間なら美作がいるが……いっそ、界隈に出向いてあの真穂を探すべきか。
それを決めたとて、本当に幽霊のような妖怪だったら簡単に見つかるわけがない。
思いっきり息を吐くと、三田に肩を軽く叩かれた。
「悩めるうちに悩むのもお若い人のつとめですが。……解決の糸口がもし見えているのなら、それの相談に乗ってくださる方に聞いてみるのも有りですよ?」
「相談……」
と思いつくのは、あの猫人である火坑だ。もちろん、夢喰いの宝来もいるが、彼はいつでも楽庵にいるわけではない。
なら、順番的に火坑に相談してみよう。
「ありがとうございました。なんとかなりそうです!」
「いえいえ、お力になれたようで良かったですよ?」
美兎は三田にお礼を言ってから、休憩フロアから仕事に戻っていく。
「あ、湖沼ちゃーん」
休憩から戻ると二年先輩の沓木に呼ばれたので、急いで彼女のデスクに向かう。
彼女は、バックから大量のお菓子を美兎に渡してくれたのだ。しかも袋付きで。
「これは……?」
「私の彼氏からのおすそ分け。なんか調子良くていつも以上に作り過ぎたらしいのよ? 湖沼ちゃん、少しもらってくれる?」
「ありがとうございます」
「あ、シリカゲルとか入れてないから出来るだけ早めに食べて?」
「はい!」
せっかくだから、火坑にも分けてあげようと決めて美兎は仕事を再開することにした。
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