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雨女
第5話 心の欠片『炙りしめ鯖のバッテラ』
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しめ鯖で炙り、しかも握りと来た。
美兎は期待がどんどん膨らんでいく。穴子天ぷらの握りだけでも充分に美味しかったのだ、今から作られる握りも絶対に美味しいだろう、と。
大きな笹の葉らしい緑色が鮮やかな葉に包まれた、しめ鯖の身は近距離なためこちらにまで酢のいい香りがしてきた。
「では、今から炙っていきますね?」
と言って、火坑が取り出したのはガスバーナーだった。ただ、すぐには使わずに握りやすいように身を切り分けてから、バッドのような入れ物の中で炙るようだ。
轟轟と燃え盛る、火の勢いに隣に腰掛けていた灯矢は『わぁ!』と興味あり気に声を上げたのだった。
「焼いちゃうの?」
「いえ。少し違いますね? お魚の表面に軽く焦げ目をつけるだけです」
「焦げちゃうの? 苦くない?」
「ふふ、お任せください」
たしかに、知らなければ知らない調理法だろう。美兎も学生時代にレストランとかで食べに行った時に、ドリアとかを目の前で炙るサービスがあった時に知ったくらいだった。あの時は、元彼と行ったのだが……正直思い出したくなかった。流れで付き合っていたとは言え、色々酷い男だったからだ。
それよりも、と今想いを寄せている猫人の方を見れば調理が始まっていた。しめ鯖の表面を、少しずつ焦がして炙っている。焼き目がついた途端に、火が脂と皮を焦がしていく香りがなんとも言えずいい香りだった。
「いい匂い~」
「普通のしめ鯖よりも、炙りの方が女性は好まれますしね? さて、皆さんガリは大丈夫でしょうか?」
「だいじょぶ!」
「はい!」
「たりめーだ!」
「大丈夫です」
「……ガリ?」
「お寿司についてくる生姜の酸っぱいやつよ?」
「! 僕好き!」
「では少々工夫して、バッテラのような押し寿司にしましょうか?」
「ば……?」
「てら……?」
「箱寿司に似た大阪名物の押し寿司よ? 尾に近い部分まで食べれるから……いいわね?」
「真穂さま、そんなに美味しいの?」
「ええ。灯矢も気にいるんじゃないかしら?」
「わー!」
そこから、スッポンのスープなどで胃袋を温めたりと待っている間に、その押し寿司は出来上がったようで。
火坑が専用の箱から取り出すと、綺麗な押し寿司が出来上がっていた。
「お待たせ致しました。湖沼さんの心の欠片で作らせていただきました、バッテラ風の炙り鯖寿司です」
焦げ目の香りはもうほとんどしないが、ところどころ艶やかに輝いている美しい鯖の皮目が目を楽しませてくれた。
ガリ、はシャリとの間に挟まっているらしく、辛いか気になったが火坑の料理だから絶対に美味しいとの確信はあった。通い始めて、まだ数ヶ月程度だが、美兎はこの店の料理は全て虜になっていたから。
箸で持ち上げると、それなりに重く感じたが軽すぎることもない。一緒に出された醤油の小皿に、ちょんちょんと軽く寿司を浸してから口に運んでいく。
シャリ。
まず、口に広がったのは柔らかな炙ったしめ鯖ではあるが。すぐに、間に挟んであるガリが口の中でシャリシャリと歯にあたる度にほぐれていく。
ガリは適度な酸味と生姜の辛味が一瞬襲ってくるが、すぐに脂の乗った鯖のくどさを和らげてくれたのだ。酢飯も押し寿司にしてあるのに、ほろほろとほぐれていくのが快感。
そこに、またしめ鯖の旨味と脂が追いかけてくると、口福の循環が巡るばかり。
穴子天ぷらの寿司もだったが、本職ではないだろうに一級品の寿司として仕上がっていた。
「ん~! いい仕事してるじゃない?」
「ふふ、お粗末さまです」
「ほんと! すっごく美味しいです!」
「気に入っていただけて何よりです。白板昆布があれば、もう少し美味しく出来たのですが」
「充分ですよ!」
昆布を寿司で使うとは驚きだったが、彼の話を聞くにバッテラだと定番に使われる昆布だそうだ。
機会があれば、是非食べてみたい。そう言うと、仕入れ次第では用意しておくと言ってくれたので、美兎は思わずガッツポーズをした。
「美味しいー!」
「ええ、本当に美味しいわね?」
真穂とは逆隣にいる雨女親子も気に入ったようだ。見た目だけなら、本当の親子に見えるのに……実の親子ではないと言うのが少し悲しく感じた。
だけど、美兎は部外者なので深くは介入出来ない。
残りの押し寿司を食べながらそう思うことにした。
美兎は期待がどんどん膨らんでいく。穴子天ぷらの握りだけでも充分に美味しかったのだ、今から作られる握りも絶対に美味しいだろう、と。
大きな笹の葉らしい緑色が鮮やかな葉に包まれた、しめ鯖の身は近距離なためこちらにまで酢のいい香りがしてきた。
「では、今から炙っていきますね?」
と言って、火坑が取り出したのはガスバーナーだった。ただ、すぐには使わずに握りやすいように身を切り分けてから、バッドのような入れ物の中で炙るようだ。
轟轟と燃え盛る、火の勢いに隣に腰掛けていた灯矢は『わぁ!』と興味あり気に声を上げたのだった。
「焼いちゃうの?」
「いえ。少し違いますね? お魚の表面に軽く焦げ目をつけるだけです」
「焦げちゃうの? 苦くない?」
「ふふ、お任せください」
たしかに、知らなければ知らない調理法だろう。美兎も学生時代にレストランとかで食べに行った時に、ドリアとかを目の前で炙るサービスがあった時に知ったくらいだった。あの時は、元彼と行ったのだが……正直思い出したくなかった。流れで付き合っていたとは言え、色々酷い男だったからだ。
それよりも、と今想いを寄せている猫人の方を見れば調理が始まっていた。しめ鯖の表面を、少しずつ焦がして炙っている。焼き目がついた途端に、火が脂と皮を焦がしていく香りがなんとも言えずいい香りだった。
「いい匂い~」
「普通のしめ鯖よりも、炙りの方が女性は好まれますしね? さて、皆さんガリは大丈夫でしょうか?」
「だいじょぶ!」
「はい!」
「たりめーだ!」
「大丈夫です」
「……ガリ?」
「お寿司についてくる生姜の酸っぱいやつよ?」
「! 僕好き!」
「では少々工夫して、バッテラのような押し寿司にしましょうか?」
「ば……?」
「てら……?」
「箱寿司に似た大阪名物の押し寿司よ? 尾に近い部分まで食べれるから……いいわね?」
「真穂さま、そんなに美味しいの?」
「ええ。灯矢も気にいるんじゃないかしら?」
「わー!」
そこから、スッポンのスープなどで胃袋を温めたりと待っている間に、その押し寿司は出来上がったようで。
火坑が専用の箱から取り出すと、綺麗な押し寿司が出来上がっていた。
「お待たせ致しました。湖沼さんの心の欠片で作らせていただきました、バッテラ風の炙り鯖寿司です」
焦げ目の香りはもうほとんどしないが、ところどころ艶やかに輝いている美しい鯖の皮目が目を楽しませてくれた。
ガリ、はシャリとの間に挟まっているらしく、辛いか気になったが火坑の料理だから絶対に美味しいとの確信はあった。通い始めて、まだ数ヶ月程度だが、美兎はこの店の料理は全て虜になっていたから。
箸で持ち上げると、それなりに重く感じたが軽すぎることもない。一緒に出された醤油の小皿に、ちょんちょんと軽く寿司を浸してから口に運んでいく。
シャリ。
まず、口に広がったのは柔らかな炙ったしめ鯖ではあるが。すぐに、間に挟んであるガリが口の中でシャリシャリと歯にあたる度にほぐれていく。
ガリは適度な酸味と生姜の辛味が一瞬襲ってくるが、すぐに脂の乗った鯖のくどさを和らげてくれたのだ。酢飯も押し寿司にしてあるのに、ほろほろとほぐれていくのが快感。
そこに、またしめ鯖の旨味と脂が追いかけてくると、口福の循環が巡るばかり。
穴子天ぷらの寿司もだったが、本職ではないだろうに一級品の寿司として仕上がっていた。
「ん~! いい仕事してるじゃない?」
「ふふ、お粗末さまです」
「ほんと! すっごく美味しいです!」
「気に入っていただけて何よりです。白板昆布があれば、もう少し美味しく出来たのですが」
「充分ですよ!」
昆布を寿司で使うとは驚きだったが、彼の話を聞くにバッテラだと定番に使われる昆布だそうだ。
機会があれば、是非食べてみたい。そう言うと、仕入れ次第では用意しておくと言ってくれたので、美兎は思わずガッツポーズをした。
「美味しいー!」
「ええ、本当に美味しいわね?」
真穂とは逆隣にいる雨女親子も気に入ったようだ。見た目だけなら、本当の親子に見えるのに……実の親子ではないと言うのが少し悲しく感じた。
だけど、美兎は部外者なので深くは介入出来ない。
残りの押し寿司を食べながらそう思うことにした。
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