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覚
第2話『ゴロゴロぽでん』①
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熱燗が届く前に、温め直していたのかスッポンのスープを大将である火坑から差し出された。頭や甲羅の部分はないが、肉厚な脚の部分があり……覚である空木はおしぼりでもう一度手を拭いた。その手で、器の肉を手に取り迷うことなく、かぶりつく。
(相変わらず、良い出汁で丁寧に煮込まれています……)
詳しい作り方は秘密と言われているが、この猫人の師匠であるジョンのあやかしも同じく。スッポンは今でこそ人間にもあやかしにも好まれているが、調理の困難に手をわずらわせる調理人も多い。
ある程度、皮や肉にかぶりついてから……頼んだ熱燗が来たので、手を拭いてから猪口に入れて傾ける。温度もちょうど良い、寒さで冷えた身体に染み渡っていくようだ。
「大将、今日は何を馳走していただけるんでしょうか?」
「そうですね? 少し洋風と行きますが、『ぽでん』と言う料理を披露させていただきます」
「ぽでん?? おでんではなく?」
「おでんとポトフを合わせた料理なんですよ。最近人間界でも知られるようになった料理です」
「……それは楽しみです」
「すぐにご用意します」
ポトフ。
今でこそ、空木のようないにしえから存在しているあやかしにも理解出来る料理ではあるが、それとおでんを掛け合わせた料理など初めてだ。
熱燗とまだ残っていたスッポンスープを肴にしながら待っていると、外から来た時に香っていた和風出汁が強くこちらにやってきた。
(……とても良い香りです)
嗅ぎ慣れた和風出汁だが、どこかおでんとは違う甘い香りがしてくる。野菜の香りなのはすぐにわかった。ポトフと掛け合わせているのなら、キャベツや玉ねぎがあるのだろうか。
久しく、ポトフも食べていないので適当な予想しかできないでいるが。
「大変お待たせ致しました。ぽでんです」
火坑が大振りの白い深皿に盛り付けて来たのは……たしかに、見た目はおでんではなくポトフに見える。しかしながら、香りは鰹と昆布の出汁の香りがした。
「これは……食べ応えがありそうですね??」
肉は骨つきソーセージに、大振りの豚バラ肉。
野菜は、プチトマト、にんじん、キャベツにジャガイモと玉ねぎ。
ごろっと並んでいるのに、ちっとも大雑把には見えない盛り付けに。空木は改めて、手を合わせた。
箸を持つと、まずは野菜から口に入れることにする。よく煮込まれた、大振りのキャベツは箸を入れるだけですぐに崩れ落ち……息を慎重に吹きかけてから空木は口に入れた。
「味は出汁以外は塩と胡椒だけです」
「納得の味ですね!」
本当に、出汁の味付け以外は塩と胡椒だけしか感じ取れない。しかし、甘味や旨味は具材から十分スープに染み出しているので、下手に余計な味付けを入れずとも十分に美味だ。胡椒の辛味も強烈ではなく、あくまで優しい。
料理は頻繁にしない空木ではどのようにするかはわからなかったが。
次に、ジャガイモ。
次に、肉。
次に玉ねぎ。
今度はプチトマト。
どれもこれもが、ただただ優しくて美味しい。それを空木に教えてくれた。
「次のお酒は、せっかくですから冷酒はいかがでしょう?」
火坑に言われるまで、既にぽでんと交互に飲んでいた熱燗が終わっていたのに気づかなかった。それに、ここに来た時以上に身体が暑いので、その提案は有難い。
すぐに出て来たので、またひと口含むと……するすると飲みやすい淡麗の辛口のお陰か口の中がさっぱりとした。
「このように美味なる料理を……あの子は口に出来ているのですね?」
空木が猪口をカウンターに置くと、火坑は柔らかく微笑んだ。
「はい。美兎さんにはよく来ていただいています。まさか、あなた様のご子孫だとは思いませんでしたが」
「……百五十年前の、彼女との出会いがあったからです」
美兎に繋がる、空木の妻となった人間の女。
美樹との出会いは……時代の移り変わりが激しい時だった。
(相変わらず、良い出汁で丁寧に煮込まれています……)
詳しい作り方は秘密と言われているが、この猫人の師匠であるジョンのあやかしも同じく。スッポンは今でこそ人間にもあやかしにも好まれているが、調理の困難に手をわずらわせる調理人も多い。
ある程度、皮や肉にかぶりついてから……頼んだ熱燗が来たので、手を拭いてから猪口に入れて傾ける。温度もちょうど良い、寒さで冷えた身体に染み渡っていくようだ。
「大将、今日は何を馳走していただけるんでしょうか?」
「そうですね? 少し洋風と行きますが、『ぽでん』と言う料理を披露させていただきます」
「ぽでん?? おでんではなく?」
「おでんとポトフを合わせた料理なんですよ。最近人間界でも知られるようになった料理です」
「……それは楽しみです」
「すぐにご用意します」
ポトフ。
今でこそ、空木のようないにしえから存在しているあやかしにも理解出来る料理ではあるが、それとおでんを掛け合わせた料理など初めてだ。
熱燗とまだ残っていたスッポンスープを肴にしながら待っていると、外から来た時に香っていた和風出汁が強くこちらにやってきた。
(……とても良い香りです)
嗅ぎ慣れた和風出汁だが、どこかおでんとは違う甘い香りがしてくる。野菜の香りなのはすぐにわかった。ポトフと掛け合わせているのなら、キャベツや玉ねぎがあるのだろうか。
久しく、ポトフも食べていないので適当な予想しかできないでいるが。
「大変お待たせ致しました。ぽでんです」
火坑が大振りの白い深皿に盛り付けて来たのは……たしかに、見た目はおでんではなくポトフに見える。しかしながら、香りは鰹と昆布の出汁の香りがした。
「これは……食べ応えがありそうですね??」
肉は骨つきソーセージに、大振りの豚バラ肉。
野菜は、プチトマト、にんじん、キャベツにジャガイモと玉ねぎ。
ごろっと並んでいるのに、ちっとも大雑把には見えない盛り付けに。空木は改めて、手を合わせた。
箸を持つと、まずは野菜から口に入れることにする。よく煮込まれた、大振りのキャベツは箸を入れるだけですぐに崩れ落ち……息を慎重に吹きかけてから空木は口に入れた。
「味は出汁以外は塩と胡椒だけです」
「納得の味ですね!」
本当に、出汁の味付け以外は塩と胡椒だけしか感じ取れない。しかし、甘味や旨味は具材から十分スープに染み出しているので、下手に余計な味付けを入れずとも十分に美味だ。胡椒の辛味も強烈ではなく、あくまで優しい。
料理は頻繁にしない空木ではどのようにするかはわからなかったが。
次に、ジャガイモ。
次に、肉。
次に玉ねぎ。
今度はプチトマト。
どれもこれもが、ただただ優しくて美味しい。それを空木に教えてくれた。
「次のお酒は、せっかくですから冷酒はいかがでしょう?」
火坑に言われるまで、既にぽでんと交互に飲んでいた熱燗が終わっていたのに気づかなかった。それに、ここに来た時以上に身体が暑いので、その提案は有難い。
すぐに出て来たので、またひと口含むと……するすると飲みやすい淡麗の辛口のお陰か口の中がさっぱりとした。
「このように美味なる料理を……あの子は口に出来ているのですね?」
空木が猪口をカウンターに置くと、火坑は柔らかく微笑んだ。
「はい。美兎さんにはよく来ていただいています。まさか、あなた様のご子孫だとは思いませんでしたが」
「……百五十年前の、彼女との出会いがあったからです」
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美樹との出会いは……時代の移り変わりが激しい時だった。
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