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赤鬼
第1話『チョコがほとんどのブラウニー』
しおりを挟む名古屋中区にある栄駅から程近いところにある錦町。繁華街にある歓楽街として有名な通称錦三とも呼ばれている夜の町。
東京の歌舞伎町とはまた違った趣があるが、広小路町特有の、碁盤の目のようなきっちりした敷地内には大小様々な店がひしめき合っている。
そんな、広小路の中に。通り過ぎて目にも止まりにくいビルの端の端。その通路を通り、角を曲がって曲がって辿り着いた場所には。
あやかし達がひきめしあう、『界隈』と呼ばれている空間に行き着くだろう。そして、その界隈の一角には猫と人間が合わさったようなあやかしが営む。
小料理屋『楽庵』と呼ばれる小さな店が存在しているのだった。
沓木桂那、二十五歳。
大手広告代理店に勤めて、今年で三年目になる社会人の一人だ。仕事内容は主に広告デザインを中心にしている、いわばデザイナー。響きに聞こえがいいかもしれないが、まだまだ入社三年目なのでそう多くは扱ってもらえない。
雑事も当然多いが、全く使ってもらえないわけではないし、任される仕事も少しずつだが増えてはいる。
そして、新入社員を出迎えて歓迎会などの賑わいが大人しくなってきた頃。桂那は半休を取り、自宅でお菓子作りをしていた。
桂那とは大学時代から交際している彼氏への誕生日プレゼントを作るためである。お菓子作りだなんて、本職のパティシエである彼には到底叶わないが。
桂那の会社からは徒歩三十分くらいかかるところ……栄の一角にあるマカロン専門店。そこのパティシエの一人が、桂那の彼氏なのだ。
「……うーん。材料はひと通り買ったけど。……隆君が好きなのはやっぱり」
チョコ。言いようがないくらい、チョコ中毒者なのだ。
彼の自宅に行くたびに、チョコ菓子のストックがいつのまにか増えたり減ったりする量がすごいくらい。
なら、食べ応えがある生チョコ風味のブラウニーを作ろうと決めた。
「とにかく、チョコを刻んで」
今回のブラウニーに、油分はチョコのみ。これは桂那の経験だが、バターを忘れて焼いたのに。出来上がったら生チョコのようにしっとり出来て美味しかったからだ。まだ、彼氏には作ったことがなかったのでちょうどいい。
湯煎しやすいように刻んでから、同時に沸かして置いた湯の鍋にボウルを置き、牛乳とチョコを入れて。
丁寧にゴムベラを使ってチョコを溶かして牛乳と混ぜ合わせていく。途中、別のボウルに卵を割ってとき解したものに砂糖を入れてよく混ぜた。
このボウルの中身に、溶かしたチョコを少しずつ入れてよく混ぜて。薄力粉をふるって粉気がなくなるまで、ゴムベラで切るように混ぜたら。
事前に予熱しておいたオーブンの中に、型に流し込んだブラウニーの生地を170℃の熱の中で三十分弱焼くだけ。
片付けも簡単なので、ささっと進めてからコーヒーブレイクしていたら。
玄関の方から、鍵を開ける音がしたのだった。
「や、ケイちゃん」
予想以上に、早くやってきた桂那の彼氏。
相楽隆仁がやってきたのだった。
「お疲れ様。早かったわね?」
「うん。クリスマスとかが、まともに休みもらえなかったし。今日は早上がりでいいからって、店長が気ぃ遣ってくれてね?」
そして、二人の間ではお決まりのハグをするのだが。
桂那には、肩に当たったものの痛みで少し顔をしかめた。
「隆君、変身解けかけてるよ?」
「ほんと? ごめん、痛かったよね?」
「少しは慣れたけど……」
顔を上げれば、人間とは違う細長い角が二本と。
青白い肌、赤く艶のある長い髪になった、隆仁は人間ではない。
桂那の彼氏は人間ではない。
美しい美しい、赤い鬼なのだった。
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