名古屋錦町のあやかし料亭〜元あの世の獄卒猫の○○ごはん~

櫛田こころ

文字の大きさ
151 / 204
赤鬼

第1話『チョコがほとんどのブラウニー』

しおりを挟む

 名古屋中区にあるさかえ駅から程近いところにあるにしき町。繁華街にある歓楽街として有名な通称錦三きんさんとも呼ばれている夜の町。

 東京の歌舞伎町とはまた違った趣があるが、広小路町特有の、碁盤の目のようなきっちりした敷地内には大小様々な店がひしめき合っている。

 そんな、広小路の中に。通り過ぎて目にも止まりにくいビルの端の端。その通路を通り、角を曲がって曲がって辿り着いた場所には。

 あやかし達がひきめしあう、『界隈』と呼ばれている空間に行き着くだろう。そして、その界隈の一角には猫と人間が合わさったようなあやかしが営む。

 小料理屋『楽庵らくあん』と呼ばれる小さな店が存在しているのだった。









 沓木くつき桂那けいな、二十五歳。

 大手広告代理店に勤めて、今年で三年目になる社会人の一人だ。仕事内容は主に広告デザインを中心にしている、いわばデザイナー。響きに聞こえがいいかもしれないが、まだまだ入社三年目なのでそう多くは扱ってもらえない。

 雑事も当然多いが、全く使ってもらえないわけではないし、任される仕事も少しずつだが増えてはいる。

 そして、新入社員を出迎えて歓迎会などの賑わいが大人しくなってきた頃。桂那は半休を取り、自宅でお菓子作りをしていた。

 桂那とは大学時代から交際している彼氏への誕生日プレゼントを作るためである。お菓子作りだなんて、本職のパティシエである彼には到底叶わないが。

 桂那の会社からは徒歩三十分くらいかかるところ……栄の一角にあるマカロン専門店。そこのパティシエの一人が、桂那の彼氏なのだ。


「……うーん。材料はひと通り買ったけど。……たか君が好きなのはやっぱり」


 チョコ。言いようがないくらい、チョコ中毒者なのだ。

 彼の自宅に行くたびに、チョコ菓子のストックがいつのまにか増えたり減ったりする量がすごいくらい。

 なら、食べ応えがある生チョコ風味のブラウニーを作ろうと決めた。


「とにかく、チョコを刻んで」


 今回のブラウニーに、油分はチョコのみ。これは桂那の経験だが、バターを忘れて焼いたのに。出来上がったら生チョコのようにしっとり出来て美味しかったからだ。まだ、彼氏には作ったことがなかったのでちょうどいい。

 湯煎しやすいように刻んでから、同時に沸かして置いた湯の鍋にボウルを置き、牛乳とチョコを入れて。

 丁寧にゴムベラを使ってチョコを溶かして牛乳と混ぜ合わせていく。途中、別のボウルに卵を割ってとき解したものに砂糖を入れてよく混ぜた。

 このボウルの中身に、溶かしたチョコを少しずつ入れてよく混ぜて。薄力粉をふるって粉気がなくなるまで、ゴムベラで切るように混ぜたら。

 事前に予熱しておいたオーブンの中に、型に流し込んだブラウニーの生地を170℃の熱の中で三十分弱焼くだけ。

 片付けも簡単なので、ささっと進めてからコーヒーブレイクしていたら。

 玄関の方から、鍵を開ける音がしたのだった。


「や、ケイちゃん」


 予想以上に、早くやってきた桂那の彼氏。

 相楽さがら隆仁たかひとがやってきたのだった。


「お疲れ様。早かったわね?」
「うん。クリスマスとかが、まともに休みもらえなかったし。今日は早上がりでいいからって、店長が気ぃ遣ってくれてね?」


 そして、二人の間ではお決まりのハグをするのだが。

 桂那には、肩に当たったものの痛みで少し顔をしかめた。


「隆君、変身解けかけてるよ?」
「ほんと? ごめん、痛かったよね?」
「少しは慣れたけど……」


 顔を上げれば、人間とは違う細長い角が二本と。

 青白い肌、赤く艶のある長い髪になった、隆仁は人間ではない。

 桂那の彼氏は人間ではない。

 美しい美しい、赤い鬼なのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

処理中です...