162 / 204
閻魔大王 弐
第6話 大王を……
しおりを挟む
閻魔大王も大王だ。
現世では、約一年近く顔を合わせていなかったとは言え……元補佐官のひとりであった、今は猫人の火坑。
彼の恋仲となった、覚の子孫の一端である湖沼美兎。
ふたりを見に行きたいと……彼らが交際を始めたとあの世にも噂が届くので、ここ最近はよく口にしていた。まさか、本当ひとりで会いに行くと思わなかったが。
第四で、不喜処の獄卒であった火坑を殊更可愛がっていたのは……閻魔大王だけではない。先輩としてでも、後輩として可愛がっていたのは亜条とて同じだ。
転生させて、月日はそこそこ経ったが。あやかしとしても、火坑は立派に成長しているのだ。まさか、あやかしの血を多少受け継いでいる人間の女性と交際するとは予想外過ぎたが。
しかし、今彼らは幸せだと思う。
極上の心の欠片を生み出す美兎と、それを調理するのを可能とした火坑とのやり取りは見ていて微笑ましい。
大王が気にかけるのも、よくわかる。だからとは言え執務を放って現世の界隈に来るのは大変よろしくないが。
あの世に戻ったら、それ相応の折檻をせねば……と心に決めてから亜条もいい加減料理を口にしようと箸を伸ばした。
「これは……」
とても優しい味だった。
旬のアスパラガスは美兎の心の欠片らしいが、絶妙な歯応えに加えてふわとろの卵と細切りされているスパムとの……独特の塩気に香りが堪らない。
ひと口噛めば、アスパラガスが……スパムの中から美味い汁が溢れ出してくるのだ。素朴な野菜と卵の炒め物でしかないのに、立派な酒の肴だ。
亜条は仕事は出来るが、料理は不得手なのでこの味は火坑にしか出来ないだろうと納得した。
久しぶりに飲む、こちらでの芋焼酎のロックも風味が強いがこの野菜炒めにはちょうどいい。
「うむ、美味い!! 火坑、熱燗のお代わりを!!」
「これ以上はいけませんよ?? 先輩にさらにお叱りを受けてもいいのですか?」
「う」
「そうですよ、大王」
亜条も堪能はしているが、部下としての本分を忘れていたわけではない。
食事は楽しんでいるが、本分は閻魔大王の補佐官。
飛び出してきた、閻魔大王を逆に諌める立場でもあるのだ。
「ふふ。閻魔大王様とは、以前お会いした切りですが……楽しいお方なんですね?」
酒でほんのりと頬が色づいている美兎は、どことなく愛らしい。亜条は一応伴侶がいるので、それくらいの気持ちしか湧いてこない。
火坑としては、少し違った心境ではあるようだが。目が慈しみの眼差しであり、あの世にいた頃とは違った表情。
やはり、契ってはいなくとも伴侶が得られた喜びはひとしおなのだろう。
「楽しい……か??」
「はい。閻魔大王様って、もっと怖いイメージだったので」
「ふむ。裁判ではそれなりの威厳はあるようにしているが」
「けど、今はお客さんじゃないですか? 失礼ですが……お父さんみたいな感じで」
「お父さん、か? ある意味間違ってないな?」
「……大王」
かつての部下であり、愛猫だった火坑をそう言う関係だと思うのは間違いないが。
とりあえず、軽く小突いたから引きずるようにして連れ帰ることにした。これ以上、大王としての失態を人間に見せない為にも。
「何故じゃ!?」
「充分、馳走になったはずですが?」
「……あの女子とも、もっと話したかった」
「火坑の父君のように思われているのでしたら、いいことでは?」
「否定していたではないか?」
「完全に否定したわけではありませんよ」
別に悪いとは思っていない。
地獄の主である閻魔大王をそのような例えで言える相手など。
火坑の伴侶となる女性であれば、納得出来るのだから。
(だいぶ先でも、ふたりの婚礼については関わりたいでしょうし)
それは、亜条にとっても楽しみであった。
現世では、約一年近く顔を合わせていなかったとは言え……元補佐官のひとりであった、今は猫人の火坑。
彼の恋仲となった、覚の子孫の一端である湖沼美兎。
ふたりを見に行きたいと……彼らが交際を始めたとあの世にも噂が届くので、ここ最近はよく口にしていた。まさか、本当ひとりで会いに行くと思わなかったが。
第四で、不喜処の獄卒であった火坑を殊更可愛がっていたのは……閻魔大王だけではない。先輩としてでも、後輩として可愛がっていたのは亜条とて同じだ。
転生させて、月日はそこそこ経ったが。あやかしとしても、火坑は立派に成長しているのだ。まさか、あやかしの血を多少受け継いでいる人間の女性と交際するとは予想外過ぎたが。
しかし、今彼らは幸せだと思う。
極上の心の欠片を生み出す美兎と、それを調理するのを可能とした火坑とのやり取りは見ていて微笑ましい。
大王が気にかけるのも、よくわかる。だからとは言え執務を放って現世の界隈に来るのは大変よろしくないが。
あの世に戻ったら、それ相応の折檻をせねば……と心に決めてから亜条もいい加減料理を口にしようと箸を伸ばした。
「これは……」
とても優しい味だった。
旬のアスパラガスは美兎の心の欠片らしいが、絶妙な歯応えに加えてふわとろの卵と細切りされているスパムとの……独特の塩気に香りが堪らない。
ひと口噛めば、アスパラガスが……スパムの中から美味い汁が溢れ出してくるのだ。素朴な野菜と卵の炒め物でしかないのに、立派な酒の肴だ。
亜条は仕事は出来るが、料理は不得手なのでこの味は火坑にしか出来ないだろうと納得した。
久しぶりに飲む、こちらでの芋焼酎のロックも風味が強いがこの野菜炒めにはちょうどいい。
「うむ、美味い!! 火坑、熱燗のお代わりを!!」
「これ以上はいけませんよ?? 先輩にさらにお叱りを受けてもいいのですか?」
「う」
「そうですよ、大王」
亜条も堪能はしているが、部下としての本分を忘れていたわけではない。
食事は楽しんでいるが、本分は閻魔大王の補佐官。
飛び出してきた、閻魔大王を逆に諌める立場でもあるのだ。
「ふふ。閻魔大王様とは、以前お会いした切りですが……楽しいお方なんですね?」
酒でほんのりと頬が色づいている美兎は、どことなく愛らしい。亜条は一応伴侶がいるので、それくらいの気持ちしか湧いてこない。
火坑としては、少し違った心境ではあるようだが。目が慈しみの眼差しであり、あの世にいた頃とは違った表情。
やはり、契ってはいなくとも伴侶が得られた喜びはひとしおなのだろう。
「楽しい……か??」
「はい。閻魔大王様って、もっと怖いイメージだったので」
「ふむ。裁判ではそれなりの威厳はあるようにしているが」
「けど、今はお客さんじゃないですか? 失礼ですが……お父さんみたいな感じで」
「お父さん、か? ある意味間違ってないな?」
「……大王」
かつての部下であり、愛猫だった火坑をそう言う関係だと思うのは間違いないが。
とりあえず、軽く小突いたから引きずるようにして連れ帰ることにした。これ以上、大王としての失態を人間に見せない為にも。
「何故じゃ!?」
「充分、馳走になったはずですが?」
「……あの女子とも、もっと話したかった」
「火坑の父君のように思われているのでしたら、いいことでは?」
「否定していたではないか?」
「完全に否定したわけではありませんよ」
別に悪いとは思っていない。
地獄の主である閻魔大王をそのような例えで言える相手など。
火坑の伴侶となる女性であれば、納得出来るのだから。
(だいぶ先でも、ふたりの婚礼については関わりたいでしょうし)
それは、亜条にとっても楽しみであった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
121
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる