名古屋錦町のあやかし料亭〜元あの世の獄卒猫の○○ごはん~

櫛田こころ

文字の大きさ
165 / 204
のっぺらぼう

第3話 遅れて知る事実

しおりを挟む
 何を作ってくれるのだろうか。

 辰也たつやは久しぶりに来る楽庵らくあんの料理に、気持ちがワクワクしてきた。

 もちろん、のっぺらぼうの芙美ふみのことも知りたいが……今は多少腹が減っていた。お通しと熱燗程度では腹が満たされるどころか、空腹感が増すだけだ。店主の火坑かきょうはそんな辰也の心の内を読んだのか、この店では定番のスッポンスープを水緒みずおの分も一緒に出してくれた。


「相変わらず、いい味じゃねぇか?」


 水緒はどれくらい来ているかはわからないが、辰也よりは頻繁かもしれない。春先で、社会人としてはそこそこ忙しくなってきた辰也も……久しぶりにそのスープを口にすると、和風出汁だけでない鶏肉とも似たラーメンスープにも近い、ニンニクの効いた味わい。

 今日は金曜日なので、休暇の明日を思えばたくさん口にしても問題はない。肉については、未だに首は食べれないが足の部分は爪が多少気になるものの、こちらも鶏肉に近い食感が美味だ。


「脚肉の刺身などは……先に来たお客様に出してしまいましたが」
「構わねぇって。まだ花冷えする季節に、こう言うのが嬉しいってもんだ」
「ふふ。お花見には、もう終いですが」


 名古屋は夏はとことん暑く、冬と春は寒い。もちろん、過ごしやすい季節もなくはないが……盆地特有の気候の関係で温度差が極端になることが多いのだ。去年の夏に、火坑と出会い介抱してもらった事がなければ……辰也は今も腕の傷で悩んでいただろう。もう、綺麗さっぱりないので安心ではあるが。


「花見かぁ。新人達が、名城公園とかの花見スポットで場所取りしてたな」


 かく言う辰也も、新入社員時代はやったものだが。ただ、腕の傷は長袖で隠せても……あのキリキリとした公園の風はビルの間のとは違う意味でキツかった。今もう一度やれと言われたりしてもお断りだが。


「僕も今年、お花見したんですよ」
「? 誰とです??」
湖沼こぬまさん達とです」
「! いいなあ!?」


 彼女とも、風吹ふぶきの一件以降なかなか会えていなかったが……火坑達と花見とは羨ましかった。誘いがあれば絶対行きたかったのに。


「ほーん? あの嬢ちゃんと付き合ってたもんな?」
「へ?」
「ふふ。他にも真穂まほさん達もいましたが」
「え、え!!?」


 いったいいつの間に……、と辰也は目を丸くしたくなった。

 たしかに、美兎みうは年頃の女性らしく誰かに恋をしているような感じではあったものの……その相手が目の前の猫人だとは知らず。

 風吹もだが、何故可愛い女性は妖怪の相手になってしまうのだろうか。自身も、妖怪相手に恋をしかけている状況ではあっても。


「……羨ましい……」


 思わず、カウンターのテーブルに突っ伏してしまうくらいに。

 水緒にはケラケラ笑われたが、火坑は揚げ物を始めたのか油鍋からパチパチと爆ぜる音が聞こえてきた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

呪われた少女の秘された寵愛婚―盈月―

くろのあずさ
キャラ文芸
異常存在(マレビト)と呼ばれる人にあらざる者たちが境界が曖昧な世界。甚大な被害を被る人々の平和と安寧を守るため、軍は組織されたのだと噂されていた。 「無駄とはなんだ。お前があまりにも妻としての自覚が足らないから、思い出させてやっているのだろう」 「それは……しょうがありません」 だって私は―― 「どんな姿でも関係ない。私の妻はお前だけだ」 相応しくない。私は彼のそばにいるべきではないのに――。 「私も……あなた様の、旦那様のそばにいたいです」 この身で願ってもかまわないの? 呪われた少女の孤独は秘された寵愛婚の中で溶かされる 2025.12.6 盈月(えいげつ)……新月から満月に向かって次第に円くなっていく間の月

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...