名古屋錦町のあやかし料亭〜元あの世の獄卒猫の○○ごはん~

櫛田こころ

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菅公

第1話 神の降臨

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 名古屋中区にあるさかえ駅から程近いところにあるにしき町。繁華街にある歓楽街として有名な通称錦三きんさんとも呼ばれている夜の町。

 東京の歌舞伎町とはまた違った趣があるが、広小路町特有の、碁盤の目のようなきっちりした敷地内には大小様々な店がひしめき合っている。

 そんな、広小路の中に。通り過ぎて目にも止まりにくいビルの端の端。その通路を通り、角を曲がって曲がって辿り着いた場所には。

 あやかし達がひきめしあう、『界隈』と呼ばれている空間に行き着くだろう。そして、その界隈の一角には猫と人間が合わさったようなあやかしが営む。

 小料理屋『楽庵らくあん』と呼ばれる小さな店が存在しているのだった。









 ここいらに来たのもいつぶりだろうか。

 それは、元は人間でしかなかった。

 だが、人間達の願いにより……死したのちに祀られ、神の一員となった。それから幾年幾月も経ち、現世、あの世、界隈も様々な変化を遂げた。

 今、降りた地である錦もそのひとつ。

 信仰などが薄れた人間達の流れで溢れかえってはいるが、小さな小さなやしろなどはきちんと残っている。まだ世話をしてくれている人間などがいるお陰か。

 それは、小さく微笑んでから……人間の波に乗り、あやかしらが住む界隈にへと足を向けた。それは、あやかしでも人間でもない神の一員であるため、人間達とぶつかることなどなく……むしろ、霊や神霊のように実体を持たない。

 掻き分けると言うより、それが進んでいく道に人間達がいるだけだ。多少、それの加護などを与えてしまうが……視えてしまう人間がいなくもないのだ。宙に浮いて移動するのも面倒になる。

 逆に実体を創って、人間に紛れ込むのも色々面倒なため……今の幽体に近い状態でいるのだ。

 それは、進みに進み……界隈の入り口を見つけてからやっとひと息吐けた。


「……我は我。受け入れ給え。ここの界隈の者達よ」


 よく通る声を響かせ、狭い道に声を掛けた。

 すると、細い道が通りやすい幅まで広がり……それを導くように奥へ奥へと続く。

 それがゆっくりゆっくりと足を運んでいけば、見えた先は相も変わらず……下手をすると先程までいた人間達の現世よりも賑やかな界隈の通りに出た。


「来ておくれやす~!」
「可愛い子いるよ!!」
「初回の旦那にはサービスしちゃうよ!!」


 狐狸こり、河童やいぬ

 半端に人化しているあやかしもいれば、きちんとしている者もいる。飲み食いする通りもあるが、夜を愉しむ輩も多いために非常に賑やかだ。

 それが、人間だった頃にはこう言う場所はなかった。

 だが、来るのは別に初めてではない。


「……さて」


 それが、歩みを始めた途端。一部のあやかし達は神の気を感じ取ったのか……畏れて、道の端に避けて跪いた。

 一部の若手のあやかしの首根っこなどを掴み、急いでこうべを下げさせるのも……それには慣れた光景ではあるが、少し寂しい。

 幾千も経つが、神となった今では気軽に接してくれる存在が少ないからだ。

 これから向かう場所は別だが。


「よぉ、道真みちざね。久しぶりじゃねぇか??」


 目的の場へと足を向けようとした時、砕けた物言いの者が声をかけてきてくれた。

 久しい相手なので、ついつい、古い名を呼ばれたそれは振り返った。


「やあ、久しいね。蘭霊らんりょう?」


 同族とも言い難いが、元神の眷属であった狗神でもある存在がいたのだった。
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