名古屋錦町のあやかし料亭〜元あの世の獄卒猫の○○ごはん~

櫛田こころ

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のっぺらぼう 弐

第6話 絶叫ウォータースライダー②

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 怖い、怖い怖い怖い。

 辰也たつやは情け無いことに、男だが絶叫系の乗り物などが苦手だったのだ。似た理由で二輪車……自転車は大丈夫でも原付やバイクも似た理由でダメだった。

 はるか昔、テーマパークでジェットコースターを知らなかったのを姉にからかって乗せられた後……あのスピードと揺れに子供ながらトラウマを抱いてしまい、以降無理にでも乗るのを拒否するようになった。

 今、想いを寄せているのっぺらぼうの芙美ふみと一緒ではあっても……ウォータースライダーは怖くて仕方がなかった。左右の揺れに加えて、グルンと回る感覚が怖い。

 芙美は芙美で、きゃーきゃーと声を上げながら楽しんでいた。そんなにも、このウォータースライダーが楽しいのか。目をゆっくり開けて、景色が移り変わるのを見てみれば……普通の無機質な壁ではなく、遊園地のようにペインティングされている壁だ。

 人間の世界ではないとは言え、色々凝っているんだなと思うと……芙美もいるお陰か、不思議と落ち着くことが出来た。変に出していた裏声もだんだんと出している意味がなくなり、景色を見ることが出来た。

 と思ったら、すぐに出口となり……芙美が『あーあ』と声を出して残念がってしまった。


「終わるの早いですね。もう一回ひとりで行って来ようかなあ」


 芙美が、ひとりで。

 ただでさえ、今濡れて可愛らしい水着がぺっとりと体に張り付いていて……女性らしい可愛らしい体つきが丸見えだ。水着で大事な部分はとりあえず隠れていても、水着はほとんど下着と変わらない造りだから……正直目のやり場に困ってしまう。

 傷のせいで彼女がいなかったとは言え、姉や従姉妹達が多かったのでそこそこ見慣れていたのに、好きな相手は別と言うのか。

 これほど、可愛らしい女性を……ひとりにさせたら、ここに来ている他の男性客らにナンパとかされてしまう。

 だから、辰也は反射的に彼女の腕を掴んだ。


「辰也さん??」
「俺、行きます」
「……大丈夫です??」
「ふ、芙美さん……となら」
「! そうですか~!」


 と言って、ふにゃんと音が出そうなくらいの笑顔になってくれた。その笑顔が、あやかしだとわかっても嬉しいと言わんばかりに輝いている。辰也だけに向けられているから、勘違いしてしまうくらい魅力的で。

 結果、芙美が満足するまで三回も繰り返すことになってしまった。終わったら、いくら辰也でも息切れてしまい、一緒に来ていた美兎みうらにも大層心配された。

 介抱には、今日は人間の姿に化けている猫人の火坑かきょうが対応してくれたが。


「苦手なものでも……恋とは凄いものですよ」


 辰也と出会った頃とは違い、イケメン度が増した顔立ちは今も眩しい。美兎はよくこの顔に見慣れたものだ。


「……無茶、ちょっとしただけです」
「けど。芙美さんは喜んでいらっしゃいますし、一歩前進では?」
「大将さんにそう言われるんなら……」


 また一歩、前に進めたのだろうか。絶叫系を完全に克服したわけではないが、芙美がいたら然程怖いとは感じなかった。彼女がいれば……と言うのはまだ甘えかもしれないが。


「人間とあやかしの境界線を越える恐怖は……互いにあります。僕らはともかく、あなた方は違う。見極めは、お早いうちがいいですよ?」


 火坑が神妙な面持ちで忠告を告げてきた。自分のこともあったが、他人にも助言を出すくらい気にかけてくれているのだろう。

 辰也も避けていたわけではないが、以前同僚の風吹ふぶきに自分も言ったことと似た言葉を言われれば……胸が少し痛んだ。自分の弱さについて。


「……たしかに。軽く告白したようなもんですけど」
「そして、芙美さんはわかった上で受け入れてくださっている。なら、あとは美作みまさかさんの一歩を待っていらっしゃるかもしれませんよ?」
「……待って?」
「今日の提案者……実は、芙美さんなんです」
「!」


 そのヒントだけで、辰也は体を起こしてから火坑に礼を告げて、芙美達の方に向かった。

 早く、早く、と足を動かして彼女のところへいけば……辰也に気づいてくれた時、芙美はまた輝かんばかりの笑顔を向けてくれたのだ。

 この日を境に、辰也もあやかしと交際を決めたひとりとなった。
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