吸血鬼美少女アバターのままゲームからログアウトできません

こま猫

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第90話 幕間20 サクラ

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「邪神だと……?」
「馬鹿なことを言うな!」
 三峯さんの足の下の男と、金縛りにあったまま身動き取れない男たちが口々に不満の声を上げるけれど、三峯さんはその視線をミカエルさんたちに向けて首を傾げた。
「で、こいつら、どうします?」
 すると、ミカエルさんとセシリアさんの視線が絡む。アルトさんはじっと大人しく指示待ちだし、アルセーヌさんが困り切ったように頭を掻いている。

 わたしがもう一度聖騎士たちに目をやると、彼らは必死に身体を捻ろうとしていた。三峯さんの足にさらに力が込められたらしく、腹を押さえつけられている聖騎士の甲冑がじわじわと凹んでいくのが見える。天使の右足は魔人並みに怪力らしい。

「はい、三峯さん」
 思わず、わたしはそこで手を上げた。「わたしの魅了スキルでそいつらを何でも言うこと聞く奴隷にするってどうですか?」
「おー、いいじゃんいいじゃん。スパイになってもらうっていう手が使える」
 三峯さんはキラキラした瞳をこちらに向けたけれど、アルセーヌさんが首を横に振った。
「いいえ、危険ですから私の魔術で記憶を奪っておきましょう。どうも、彼らはちょっと……口が軽いようですし」

 まあ、確かに。
 あっさりとわたしたちにも色々口走ってくれたしなあ。

「それと……もう少し、口を割らせます」
 彼は冷えた笑みを口元に浮かべると、三峯さんの足元に転がっている聖騎士のそばに膝をついた。その途端、彼の周りの地面に青白い光が弾ける。
 その光に呑み込まれた聖騎士の瞳からは生気が失せ、アルセーヌさんに操られたようにぽろぽろと語ってくれた。大体は予想がついていた感じの内容だけど。

 死体は『生贄』であること。
 生贄として選ばれるのは、死んでもいい人間だけ。つまり、フォルシウスの街には不要と判断された犯罪者。
 その犯罪者の血を、彼らが崇める神に捧げているんだという。
 生贄の儀式を行うのは上位の神官だけで、下位の神官や巫女、聖女にはそんな儀式があることすら知らされていないらしい。
 ただ、死体を処理するために少数の聖騎士だけ、関わることが許されているんだとか。それがこの五人、というわけなんだろう。

 そして、アルセーヌさんは聖騎士五人に記憶を奪う魔術をかけ終わると、ミカエルさんたちに向き直り、「念のため荷馬車の御者も捕まえますので、少しお待ちください」と言って姿を消してしまった。そう言えば、死体を積んできた荷馬車の姿はここにないから、先にフォルシウスに向かったのだろう。
 魔術をかけられた聖騎士たちは、のろのろとした動きで自分の馬に乗ってフォルシウスに戻っていく。もう、彼らの瞳にはわたしたちのことなんて映っていなかった。

 で、アルセーヌさんが帰ってくるまで、ちょっとだけこの場に待機。

 三峯さんはちょっとだけ空を見上げながらため息をついていた。
「何かさあ……聖女様の仕事環境があまりにも悪そうで心配なんだよなあ。ブラックすぎないだろうか」
「ブラックというより……犯罪者集団になってますけど」
 わたしがついそんなことを言うと、はああ、と大きなため息と共に彼が肩を落とした。項垂れる天使アバター、なかなか見られない光景だ。
「聖女様はこの……死体とは無関係らしいけど、それもいつまでなのか解らないしな。早く何とかしなきゃ」
 そう言ってぶつぶつと何か口の中で呟き始めた彼の横顔は、酷く真剣だ。
 聖女様とやらのためか、と感心してしまうわけだけれど。

 ふと、さっき彼が口にした台詞を思い出して、わたしは唇を噛んで考える。訊いてもいいだろうか、と不安になりつつも、やっぱり訊いてしまう。
「三峯さんは何か『向こう』の世界で何かあったんですか?」
「え?」
 きょとんとした目で彼はわたしを見やり、そっと首を傾げる。
「いえ、その。宗教観と言うか……神は何も語らない、とか、色々言ってましたけど」
「ああ」
 ふと、彼は苦笑してわたしから目をそらす。ぎこちなく頭を掻きながら、彼は低く唸るように続けた。
「俺が日本に帰りたくない理由ってソレなんだよね」
「ソレ?」
「うち、宗教で家庭崩壊してんの」
「宗教……」
「カルト教団とか呼ばれてしまいそうなくらい、ヤバい宗教に親が嵌っててさ。俺も子供の頃からずっと会合とやらに連れていかれて、何も知らないのに親と一緒に布教活動の手伝いしてた」

 ――え。

「怖いっしょ?」
 三峯さんはわたしが息を呑んだことに気づき、力なく笑う。「まあ、周りの人たちは逃げるよね。気が付いたら俺も家族も孤立してて。それなのに、親はどれだけお布施したか自慢げ語って幸せそうにしてんのよ。すげえ、貧乏生活なのにさ」
「それは……」
 何とも言えない。
 気づけばカオル君もわたしの手を握り、じっとその話に耳を傾けていた。
「だから俺、高校出たら家を出たよね。あの家にいると、頭がおかしくなりそうだったし。それに、子供の頃から洗脳されてたっていうかさ、何気ない時に祈っちゃう時ってのがあったのよ。それが怖かったな」
「怖かった?」
「間違った神様に祈ってる気がしてさ」

 ――ちょっと、返事が難しい。何て言ったらいいのか。

「ほら、日本ってさ、八百万の神々がいるって言われてるじゃん。そういう程度に、俺もどこかに神様がいるって思ってた。でも、親は言うわけだよ。神様っていうのは唯一無二、親が信じているその神様だけで他は邪神なんだって。日本中にある神社だろうとお寺だろうと、全部邪教だって言う。でも、馬鹿馬鹿しいよね。宗教ってのは押し付けるものじゃない。信じるものを選ぶのは、人間の権利じゃん」
「……そうですよね」
「だから決めたんだよ」
「はい?」
「俺は自分が信じたいものしか信じない。むしろ、俺が神! みたいな?」

 ――それはどうだろう。
 わたしの眉間に皺が寄るのを感じた。

「ほら、この天使アバターを見て! この姿でこっちの世界に来たの、運命じゃない? この神々しさ、滅多に見られないはずだ!」
 ばさばさ、と彼の翼がはためく。
 妙なポーズを取りながら格好つけて言っているけど、ちょっと危ない人みたいになってる。
「でもこっちの世界に来て、神殿とか聖女様とか見て、すげえ感激したわけ。さすがファンタジー世界、魔術だってある、魔物だっている、さらに神様って存在が解りやすい」
「うーん……」
「でもさ、何かこうしてみると、向こうもこっちも宗教と言うか神様というか、生臭いものがあるんだなって思う。思っていた以上に神殿はヤバいって今回解ったし、放っておいたら何をしでかすか解らない。だからさ、俺は自分にできることはやっておかないと。推しの聖女様の心の安寧のため、幸せな生活のため!」

 うん、とりあえず唸っておくことしかできない。
 でもまあ、何となく三峯さんの抱えている問題は解ったような気がする。

「そしてそのうち、本当に信じられる神様ってやつに会えたら……いいよなあ」
 やがて、ぽつりとそう言った三峯さんの顔は、やっぱりぎこちなかった。
 いつも明るい笑顔の裏に見え隠れする影。
 でもきっと、わたしにはどうにもできない。解決するのは彼自身なんだろう。

「ところで、この死体の山はどうすんのかにゃ」
 その場に沈黙が落ちると、カオル君がわたしの袖をちょいちょいと引いて、生贄の成れの果てを眉を顰めながら見やる。
 すると、セシリアさんはいつの間にか小さくなった聖獣を抱き上げながら声を投げてくる。
「残念だけど、放置していくしかないわよ? 下手にフォルシウスに持ち帰れば神殿にも気づかれるし」
 死んでしまえば皆仏様、という考えがあるせいか、たとえそれが犯罪者であろうと埋葬せずにこの場を離れるというのは心が痛む。でも、そう聞いてしまうと仕方ないか、と思うしかできない。

 そしてアルセーヌさんが戻ってきて、わたしたちはフォルシウスに戻ることになった。セシリアさんの精霊魔法を使っての移動だから、本当に帰りは一瞬だ。

 で、三峯さんの喫茶店のドアを開けて中に入ると、お兄ちゃんが満面の笑みで出迎えてくれたわけだ。
「お帰り! ちょっとした収穫があったぞ!」
 と、どこか自慢げに笑いながら胸を張る、メイド服の吸血鬼少女。
 そして何故か、ミカエルさんが「ただいま帰りました」と言いながら、お兄ちゃんを抱きしめていた。慌てて腕を振り回し、必死にミカエルさんの腕から逃げようとしているお兄ちゃんの顔は困惑していると言うか、何と言うか。
 少しだけ顔を赤く染めた美少女を見ながら、わたしはしみじみと『女の子っぽくなったなあ』と考えてしまったのだった。
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