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こま猫

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第118話 復活の阻止

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 四方からやってくる援護のお蔭もあって、俺たちの攻撃は肉塊へとあっさり通っていく。
 切り裂かれる肉塊と、その傷口からまき散らかされる黒い液体。それは地面に落ちて次々と黒い蛇を生み出していく。それを浄化するのは聖女様たち。
 切り離された触手や肉塊から生えていたはずの足も、本体とつながっていないのに蠢き続けている。それらを処理するのは魔族の連中だ。特にドラゴンは、その気味の悪いものを地面の土や神殿の建物の瓦礫ごと大きな口で抉り取り、呑み込んでいく。

 ――不味そう。

 そう思うものの、邪神の欠片から得られる魔力は凄いものがあるらしく、ドラゴンの気配がぐんと強くなる。でも苦しそうにしているのも解るから解毒薬を渡したいが、こちらはそれどころではなかった。

 俺の作りだした刃、ジャックの大鎌、三峯の浄化に似た必殺技の組み合わせ。
 肉塊に与えた傷口をさらに広げ、白い女性の下半身が埋まっているところの周りを深く抉る。
 女性――シャンタルという女性の唇が大きく開き、咆哮を上げている。白くて細い腕がぎこちなく動き、俺たちに逆らおうとする。
 でも俺は、何とか肉塊の上に飛び乗って、その白い腕を掴んだ。
 気づけばジャックも三峯も、俺のすぐ傍に降り立って、シャンタルの腹を背後から抑え込んだり、俺と一緒に腕を引っ張ってくれていた。

 その結果。
 肉が引きちぎれるような厭な音がした。
 俺たちの身体に黒い液体が降り注ぎ、水が蒸発するような音が響く。

「やべえ、死ぬわ」
 その声にジャックの方を見ると、黒い液体がまるで酸か何かのように彼のマントや下半身につけたままの甲冑を溶かしていた。元々、骸骨という中身であったから、俺たちに比べて溶けるのも早い。このままだと一番早く死に戻りするのは彼だと解った。
 だから俺は無言でアイテムボックスから蘇生薬を取り出し、彼の方に投げる。
 流れるような動きで、三峯が目に見えないほどの素早い動きでその薬瓶を割り、中身をジャックに浴びせた。
「おー、生き返るー」
 そんな声を聞きながら、俺たちは無言で合図を送る。
 そして、一気にシャンタルの身体を肉塊から引きずり出したのだった。

 一瞬遅れて、肉塊が地面に倒れる凄まじい音が響いた。
 かろうじて残っていた部分の神殿の建物も、その衝撃で崩れていく。
 国王陛下の合図で安全な場所にまで撤退する王宮騎士団たち。
 そして、まだ生まれ続けている黒い蛇や、肉塊の残骸を食いつくそうとする魔族たち。

 それを、三峯はシャンタルのぐったりとした身体を抱きしめたまま、空を飛んで見下ろしていた。
 俺とジャックは一足先に地面に着地。

「我が女神!」
「女神って言うな」
 俺の元に一直線に駆け寄ってきたミカエルが、気遣うように俺の手を取ろうとする。振り払いたいと一瞬思ったけれど、何だか彼の表情が必死というか心配しているのが目に見えているからそれもしづらい。
「怪我は?」
 ミカエルは酷く真剣に俺の身体をチェックしているので、そういやあの黒い液体を俺たちも浴びたんだと思い出した。まあ、ジャックほどではなかったけれど、俺の巫女服が溶けている。うん、我ながらエロい格好である。
 ミカエルがさりげなくマントを俺に羽織らせてくれるのが、まあ、女性の扱いに慣れてるな、と感心するところだ。
 そこに、空から降りてきた三峯が、意識のない――というか、生きているのかも怪しいシャンタルの身体を地面にそっと置いた。
「シャンタル!」
 エルゼも俺たちの傍に駆け寄ってくると、肌の白すぎる女性を抱き起そうとする。
 そして、彼は泣きそうな顔で俺を見た。

 蘇生薬。
 俺の幸運値はどこまで働いてくれる?

 そう思いながら、蘇生薬をその女性に降り注ぐ。すると、みるみるうちにその肌に色がつく。血の通った腕、赤みのさした頬、呼吸を始めた胸。
 エルゼは慌てて彼女の身体を自分のマントでくるんだ。一糸まとわぬその姿は、確かに目の毒だけれど――。

 ああ、どこかで見覚えがあると思ったら、あのろくでもない女に似てるんだ、と気づく。ロクサーヌより少しだけ大人びた感じの顔立ちで、とても綺麗な女性。
 その彼女が、僅かに唇を震わせた後、そっと目を開けた。

「シャンタル。俺が解るか?」
 震えているのはエルゼの声だけじゃなく、彼女の身体を抱きしめるその腕も、不安と緊張で強張っている。
 彼らの周りにいた俺たち全員も、声もなくただ見つめているしかできない。
 いつしかマチルダも、そして幼女魔王やワニ氏も歩み寄ってきていたけれど。

 期待は――失望に変わる。

 シャンタルという女性は、とても綺麗な双眸を兄であるエルゼに向けていた。でも、それだけだった。僅かに首を傾げ、身体を動かそうともしない。そして、掠れたような声を上げた。
「あー……」
「シャンタル?」
 それに続いたシャンタルの声は、言葉にはならない呻き声だけで。
 微かに微笑み、そして辺りを見回して首を傾げる。何もかも初めて見たといったように、興味深そうにしながら。
 それは大人の女性の表情じゃなかった。
 まるで子供のような、無邪気さ。

「……そうか」
 エルゼはそのまま、強く彼女を抱きしめた。シャンタルは少しだけ困ったように眉を顰めてから、また笑う。
 ああ、でも。
 人間らしい感情は残っている。
 そんな気がした。

 でも、『失敗』だった、という苦さが胸に広がるのはとめられない。
 何となくだけど、俺だったら何とかなる、きっと上手くいく。そう思っていたのに。

「記憶がないのかしらね」
 マチルダがそう呟くのが聞こえた。「でも、凄いわ。わたしはもっと……無理だと思っていたから。やっぱり、幸運持ちのお蔭かしら」
 俺が彼女の方へ目をやると、にこりと微笑んだ彼女は俺の肩を軽く叩く。
「そのうち、あなたなら記憶を取り戻させる薬とか作り出しちゃうんじゃない? 期待しているわね」
「……ああ、そっか」
 なるほど、そういう手があるのか、と俺は手を叩く。まだ完全に失敗したわけじゃない。もしかしたら、という希望が芽生える。
 それと同時に、ふと視界にメッセージウィンドウが開くのも解った。

『緊急クエスト・邪神の復活を防ごう! クリア!』

 おお、と俺が息を吐いたものの、その文字の後に続いた言葉に首を傾げることになる。

『邪神の目覚めを遅らせることができました。これでしばらくは世界に平穏が訪れます。ただし、また邪神の使徒が動き出さぬよう、見回りが必要です』

「邪神の使徒?」
 俺がそう呟くと、マチルダは怪訝そうに俺を見つめ直した。
「……そうよ? 何と戦ってると思ったの?」
「え?」
「あらあ」
 マチルダはそこで軽く頭を掻いた後、白く染まった毛先を指で弄びながら空を見上げた。「説明不足だったかしら。ええと、邪神の本体は魔族領の地下で眠ったままなの。今、わたしたちが倒したのはその邪神の使徒。ほら、黒い蛇みたいなのがいるでしょ? あれが育ちすぎると自我を持って動き始めるのよね。人間に向かって悪いことを唆したり……うん、今回の神殿長がやってしまったように、邪悪なことに手を染めるように促すわけよね。その結果、穢れが魔族領以外にも広がって、それが邪神の復活の糧となるの」
「……俺たちが戦ってたのは、つまり邪神そのものじゃない?」
 俺がもう一度確認のために訊くと、マチルダはあっさり頷いて見せた。
「そう。それでも、人間には太刀打ちできないくらい強いでしょ? だから助っ人としてあなたたちを呼んだの。それに、あなたたちに出たクエストとやらには『邪神を倒せ』とは出てなかったはずよ?」

 ……そう言えば。

 俺たちのクエストは邪神の復活の阻止。

「邪神が復活してしまったら、きっとあなたたちでも敵わない。どうやってもこの世界ごと滅ぼされてしまうだろうし、阻止できてよかったわ」
 軽い口調でそう言ったマチルダを、俺たちアバター組は何とも微妙な表情で見つめたと思う。でも彼女は、軽く肩を竦めた後、急に何かを思い出したかのように辺りを見回した。
「ちょっと! わたしにも残しておいてよ、使徒の欠片! 魔力をもらって、『向こう側』に帰らなきゃ、そろそろうちの社員が泣いてるわ!」
 そう叫んだ彼女は、聖女様たちが片っ端から浄化している黒い蛇の方へ駆け寄っていった。

「……でも、クエストはクリアできたよな?」
 三峯が呆れたようにマチルダのことを見つめた後、自分のクエストの達成状況を確認しているようだ。少しだけほっとしたように笑った三峯は、そわそわとしながら聖女様たちの方へ歩いていってしまう。

 辺りはまだ騒然としていて、戦いの後の惨状を見せつけている。
 でも、少しだけ空気は軽かった。

 そして唐突に、メッセージウィンドウが新しく開いた。

『クエスト・邪神の使徒の穢れを見つけたら退治しよう! 無期限・達成報酬は一万コイン、ガチャ券一枚』

 うん、そうか。
 何だか解らないが、緩いクエストが追加された。
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