夢見る竜神様の好きなもの

こま猫

文字の大きさ
40 / 69

第40話 お嬢様と使用人?

しおりを挟む
 というわけで、荷馬車の荷台にはアコーディオンが並んでいる。

 わたしが演奏しためちゃくちゃ高級志向のやつは非売品。売り物として用意したのは、シンプルなやつとそれより装飾が多い高級感あるやつ。鍵盤数が少なめの小さめのやつも作ったけれど、売れなかったら残念な気がするから台数は少なめに。
 そしてわたしはヴェロニカが控えめな音量で歌うメロディに合わせて、適当に伴奏をしながら荷馬車に揺られているというわけだ。
 ありがとう、松木先生。
 伴奏付けとかわたしには無用の長物だと思ってたけど、生まれ変わった今、もの凄く役に立ってるよ。もっと子供の頃から習っていたら、きっとこの世界で演奏家として生きていけたかもしれないなあ。
 まあ、今の仕事は神様なんだけど。

 ヴェロニカには神殿で習う神歌じゃなくて、この世界で流行している庶民向けのものを歌ってもらっている。
 その方が旅芸人として見てもらえるだろうし、アコーディオンを売りつけるにもいいだろうと思ったし。
 それでも、ヴェロニカの歌声には巫女としての力が含まれているようで、通り過ぎる森や草原、そして新しい村へと続く道が浄化されていくのが目に見えてはっきりとしていた。

 そして、空に浮かぶ太陽が少しずつ低い位置へと移動してきた頃、荷馬車が進む先にかなり大きな村――というより街? が姿を見せた。
 街をぐるりと取り囲む高い塀と、立派な門。遠くから見ても、その門を行き来している人たちの姿が多いのは解った。ランちゃんたちがいた村とは門だけ見ても規模が違う。
 そのいかにも頑丈そうな門に近づいていくと、門番らしき男性がその大きな街に入ろうとする人たちに色々と質問しているのに気付く。
「お前たちも難民か?」
 わたしたちの番になってそう訊かれると、まあ、何が起きているのか解るってものだ。どうやら疫病という名の呪いを恐れて逃げてきた人たちがこの街でも多いようで、我々もそうだと思われたようだ。
「違いますう」
 御者台からマルガリータがお気楽に言って、わたしがアコーディオンをちょっとだけ弾いて見せると、門番のおじさんは『おや』という顔をした。
「何だそれ」
 と、続けて訊かれたので、わたしは自慢げにアコーディオンを見せびらかした。
「楽器です! 誰でもちょっと練習すれば弾けるんですよ?」
「へえ」
「これ、売り物なんですけど、買取してくれそうなお店ってありますか?」
「なるほど、お前たちは商人か。面白いな」
 わたしがちょっと演奏して見せたことで、近くにいた人たちも『なんだなんだ』と近寄ってくる。どうやらこの世界では見かけない楽器のようで、誰もが興味津々だ。
 そして、街の中にある商業ギルドみたいなところを紹介してくれた。
「ありがとう、おじさん」
 わたしが無邪気さを装いつつそう言うと、門番のおじさんは少しだけ目元を緩ませた。そして、短く忠告してくれた。
「人さらいに気を付けな。お嬢ちゃんは随分と可愛い顔をしているから」
「はぁい、ありがとう!」
 簡単に門をくぐらせてくれたおじさんたちに手を振って、わたしたちはその街の中に入る。すると、かなり賑わっている街の様子が目に入ってきた。

「ヴェロニカはこの街のこと、知ってる?」
 わたしの隣で大人しくしている彼女に訊くと、少しだけ困ったような笑みが返ってくる。
「噂で聞いたことくらいしかありません。確かこの街の名前はモンテスと言って、近くに高価な宝石が採掘できる鉱山があるんです。だから、そこで働く人たちとか、そこに出る魔物を退治する人たちとかがここに集まっていて、かなり活気のある街だと聞いています」
「へー」
 わたしはその情報を頭に置きながら街の様子を観察する。

 大通りは凄い賑わいだと思う。
 色々な店が並んでいて、旅人らしき姿も多い。武器を持った人たちもいれば、裕福そうな服装に身を包んだ人たちもいる。
 何だか、都会みたいな感じというか。
 素朴さはそこにはなくて、誰もが忙しそうというか。
 それに――。
 難民と思しき人たちの姿もあった。着の身着のまま逃げてきました、という感じの人たちが、街の人たちに色々質問を投げかけている。それを迷惑そうに見ながら、ギルドに行きな、とか追い払っている人たちも多い。
 うーん、あまり平和そうな感じはしない。賑やかさと雑然とした雰囲気が混在しているのも、どこか都会っぽい。

「思っていたよりはマシですよ」
 御者台の上からマルガリータが言う。「シルフィア様の魔力が少しは届いているみたいで、それなりには野菜やら水やらは浄化されているみたいですし。多分、ここももうちょっとすれば落ち着きますよ」
「だといいね」
 わたしは眉を顰めつつため息をついたが、近くを通りすがった人たちから浮かれたような声が飛び交っているのも聞こえてきた。

「復活祭をやるってよ」
「竜神様が復活なさったって噂だろ? 神殿の近くの村じゃ、大騒ぎになってる」
「それに、ギルドで耳に挟んだんだけど、鉱山で採掘できる原石の量が増えてるってよ。凄くないか?」
「魔物の出る頻度も減ったとか」

 ――なるほど。
 確かに聞こえてくる言葉には希望がある。

「とりあえず、シルフィア様の芸術品を売って、今夜の宿を取りましょうか。少しいい宿を取りたいですねえ」
 マルガリータがそう言って、わたしもそれに頷こうとした時だ。

「ちょっと、離して!」
 大通りの隅っこから、慌てたような女の子の声が飛んできた。思わずそちらに目をやると、背の高い少年が小柄な少女の腕を強く引いているのが見えた。
 声の主である長い黒髪の少女は、簡素なワンピースを身に着けていて、少年の手を振り払おうと必死になっている。

 門番さんから人さらい、なんて言葉を聞いた直後だったからもしかして、と背筋が冷えたけれど、どうやら違うらしい。

「どうか、お屋敷にお戻りください」
 少年が辺りを気にしながら小声で言っている。その少年は随分と身綺麗な格好をしているというか、どこかの制服なんだろうかと思えるくらい、かっちりとしたシャツとズボン、上着といった服装だ。どこかのお貴族様の召使というか、そんな感じだろうか。
 少年の柔らかそうな茶髪の髪の毛は綺麗に整えられていて、物腰も柔らかい。でも、笑えば優しそうな目元と唇は少しだけ強張っていた。
「厭よ。わたしは家出をするの」
 それに対する少女の返事はにべもない。
「どこにですか? お嬢様、行くあてなどあるんですか?」
「何とかなるわよ」
「なりません」
「働くもの」
「無理です」
「何でそう言い切れるの?」
「俺が一番よく、お嬢様のことは知ってます」
「はっ! 人の気持ちは全然知らないくせに!」
 噛みつくようにそう言った少女は、そこでやっと少年の腕を振り払って走り出した。しかし、後を追う少年の足は速い。あっという間にまた掴まっている。
「ちょっと!」

 お嬢様とその使用人。
 もしくは痴話げんかかなあ、とか勝手に妄想しつつ、アコーディオンを触っていると、その音色を聴いた少女がこちらに目を向けてきた。不思議そうな彼女の目と、わたしの目が合う。
 そして、少女が何かに気づいたかのように目を見開いた。

「あなたたち、旅芸人か何か? わたしも連れてってくれない!? 頑張って働くから!」
「お嬢様!?」

 ……お、おう。
 何だか知らないけど、また変なことに巻き込まれそうな予感がする。
 わたしもヴェロニカもただ言葉を失っていたが、マルガリータだけはのんびりと「面白いことになってますねえ」と他人事のように呟いていたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

冴えない建築家いずれ巨匠へと至る

木工槍鉋
ファンタジー
「建築とは、単なる箱を作ることではない。そこに流れる『時』を設計することだ――」 かつてそう語り、伝説の巨匠と呼ばれることになる男も、かつては己の名前に怯えるだけの冴えない二級建築士だった。 安藤研吾、40代。独立したものの仕事はなく、下請けとして「情緒のない真四角な箱」の図面を引き続ける日々。そんな彼が恩師に教えられた座標の先で迷い込んだのは、昭和初期を彷彿とさせる、魔法のない異世界だった。 現代の建築知識、そして一釘一釘を大切にする頑固大工との出会い。 「便利さ」ではなく「住む人の幸せ」を求めて、研吾は廃村に時計台を建て、水路を拓き、人々の暮らしを再生していく。 異世界で「百年の計」を学んだ研吾が現実世界に戻ったとき、その設計は現代の建築界をも揺るがし始める。 これは、一人の男が仕事への誇りを取り戻し、本物の「巨匠」へと駆け上がるまでの、ひたむきな再建の記録。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について

国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”  人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

処理中です...