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プロローグ
ちーちゃんのおでかけ
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お使いを終えたちーちゃんは、たくさんの荷物を抱え家路へ着く。
道中、またしも何も知らない魔物に襲われはしたが、げんこつ一つが見舞われただけで、何事もなく家へ帰りつくいた。
「ただいまー」
「おかえり、ちーちゃん。おつかいはちゃんと出来たかしら?」
「うん、ただねパウチ刺繍のハンカチが手に入らなかったんだって」
「あらあら、そうなの。
少し困ったわね…まぁ、いいわ、ありがとうねちーちゃん」
母シーレは受け取った荷物から、一部ご近所さんへおすそ分けする分を切り分け、生鮮食品を冷蔵庫へしまう。
夕餉の支度を始めた母の後ろで、ちーちゃんはお皿をならべ手伝いを始める。
やがて仕事を終えた父ブンタが再び家へと帰ってきた。
「ただいまー。おっ、ちーちゃん!父が帰ってきたよーー!!」
帰ってくるなり、ちーちゃんを強く抱擁し顔をスリスリと激しいスキンシップ。
ちーちゃんは少し嫌な顔をしながら、ブンタを叱る。
「めっ、ちーちゃんは今お仕事中なの、邪魔しないで!」
「ごめんね、でもちーちゃんが可愛すぎて、ついつい」
「いいよ、でも次からは気をつけてね!」
ちーちゃんは父ブンタのことを嫌いではないが、少しばかり愛情が過剰すぎると感じていた。
一家団欒の晩御飯を終えちーちゃんとシーレは食器を並んで洗っている。
「ちーちゃん、お父さんに畑から大根持ってきてもらうように言ってくれないかしら?」
「うん、いいよ」
ブンタは食後の一服のため外へ出ている。
村の中での喫煙スペースは厳格に決められている。
人手が少ないため火事が発生した場合、後手に回る可能性が高く、かつて村を全焼させた人間がいたことから、屋内喫煙は厳禁となった。
村の中央、洗濯場の横に設置された八畳ほどのスペースが、この村で唯一喫煙が許されている場所。
そこではブンタと服屋の主人が二人、何か喋りながら煙草をふかしている。
ちーちゃんはテクテクと小走りで駆け寄る。
「お父さん、お父さん、お母さんが大根取ってきてだって」
「ふぅーー、そうか分かったよ、帰りに畑に寄っていくよ」
「こんばんは、ちーちゃん。
この前買った刺繍のワンピースは気に入ったかい?」
「うん!服屋のおじさん、いつも良いお洋服ありがとうございます!」
「ははは、それがおじさんの仕事だからねっ!」
仕事もろくに出来ていないブンタは恨みがましい目で服屋を見つめる。
「なぁ、話の続きだが服屋よ、とっておきの品は何かないのか?
来月がシーレの誕生日でな、そろそろ何か用意しないと間に合わん」
「ふむ、しかし武器屋よ。
お前は去年もうちの服ではなかったか?」
「仕方ねーだろう、アクセサリの一つでも贈りたいが、この村にそんな洒落た店はねえ」
「お母さんのプレゼント…」
今まで気にしたこともなかった。
貰うばかりでプレゼントを贈るという発想。
(何かちーちゃんも贈りたい!)
ちーちゃんはその場を急いで後にし、家へと戻った。
「お母さん、欲しいもの何かある!?」
「あらあら、急にどうしたのちーちゃん?」
「いーから、欲しいもの教えて!!」
シーレは困ったように、視線を斜め上へと泳がせ、うーんと唸った。
「そうね、お母さんもオンナだし、オシャレをしてみたいかしら」
「お母さんはいつもオシャレでキレイだよっ」
「あらあら、ありがとうね、ちーちゃん。
でもたまには都会で売っているようなアクセサリーを着けてみたり、シルクのお洋服、艶やかな靴とかも憧れるわね、うふふ」
「ふむふむ」
ちーちゃんは母の言葉を忘れないように、口の中で何度も唱えた。
翌日。
まだ夜が完全に明ける前。
鶏も寝ぼけまなこで、大きな声を出す気力もない時間帯。
ちーちゃんはお気に入りのポシェットを肩に掛け、こっそりと家を抜けだす。
向かうは魔王城。
昨日、通った道を再びなぞり、魔王の間へと至る。
さすがの魔王もこの時間帯は寝室でぐっすりお休みだ。
広間を通り抜け、大きな通路を我が庭かのように歩きまわる。
何度も忍び込んでは遊んだ城だ。
大抵の場所は頭の中で地図が出来上がっている。
今目指している場所は、転移装置。
各支部長が帰還用に利用しているものである。
世界約100箇所近くが登録されたそれは、一瞬で各地へ飛ぶことができる、超古代文明の遺跡物。
装置がある部屋の中に誰もいない事を確認し、ちーちゃんは中に潜りこむ。
「使い方分からないけど、確かこのボタンを押していたはず…」
ちーちゃんは装置側面に設置されている、青い大きなボタンを押す。
それと同時に転移装置はブブブと振動音を鳴らし薄青く発光する。
円筒上のその装置、大人が3人ほど入るスペースがある。
「確かこの中に入って」
キィィーンと高周波を発する装置はいよいよその力を放とうとしていた。
(お母さんにプレゼント、買ってきてあげるんだ!)
ちーちゃんは固い決意と共に、大きな光の中へと吸い込まれていった。
こうして、ちーちゃんのおでかけ旅は始まった。
道中、またしも何も知らない魔物に襲われはしたが、げんこつ一つが見舞われただけで、何事もなく家へ帰りつくいた。
「ただいまー」
「おかえり、ちーちゃん。おつかいはちゃんと出来たかしら?」
「うん、ただねパウチ刺繍のハンカチが手に入らなかったんだって」
「あらあら、そうなの。
少し困ったわね…まぁ、いいわ、ありがとうねちーちゃん」
母シーレは受け取った荷物から、一部ご近所さんへおすそ分けする分を切り分け、生鮮食品を冷蔵庫へしまう。
夕餉の支度を始めた母の後ろで、ちーちゃんはお皿をならべ手伝いを始める。
やがて仕事を終えた父ブンタが再び家へと帰ってきた。
「ただいまー。おっ、ちーちゃん!父が帰ってきたよーー!!」
帰ってくるなり、ちーちゃんを強く抱擁し顔をスリスリと激しいスキンシップ。
ちーちゃんは少し嫌な顔をしながら、ブンタを叱る。
「めっ、ちーちゃんは今お仕事中なの、邪魔しないで!」
「ごめんね、でもちーちゃんが可愛すぎて、ついつい」
「いいよ、でも次からは気をつけてね!」
ちーちゃんは父ブンタのことを嫌いではないが、少しばかり愛情が過剰すぎると感じていた。
一家団欒の晩御飯を終えちーちゃんとシーレは食器を並んで洗っている。
「ちーちゃん、お父さんに畑から大根持ってきてもらうように言ってくれないかしら?」
「うん、いいよ」
ブンタは食後の一服のため外へ出ている。
村の中での喫煙スペースは厳格に決められている。
人手が少ないため火事が発生した場合、後手に回る可能性が高く、かつて村を全焼させた人間がいたことから、屋内喫煙は厳禁となった。
村の中央、洗濯場の横に設置された八畳ほどのスペースが、この村で唯一喫煙が許されている場所。
そこではブンタと服屋の主人が二人、何か喋りながら煙草をふかしている。
ちーちゃんはテクテクと小走りで駆け寄る。
「お父さん、お父さん、お母さんが大根取ってきてだって」
「ふぅーー、そうか分かったよ、帰りに畑に寄っていくよ」
「こんばんは、ちーちゃん。
この前買った刺繍のワンピースは気に入ったかい?」
「うん!服屋のおじさん、いつも良いお洋服ありがとうございます!」
「ははは、それがおじさんの仕事だからねっ!」
仕事もろくに出来ていないブンタは恨みがましい目で服屋を見つめる。
「なぁ、話の続きだが服屋よ、とっておきの品は何かないのか?
来月がシーレの誕生日でな、そろそろ何か用意しないと間に合わん」
「ふむ、しかし武器屋よ。
お前は去年もうちの服ではなかったか?」
「仕方ねーだろう、アクセサリの一つでも贈りたいが、この村にそんな洒落た店はねえ」
「お母さんのプレゼント…」
今まで気にしたこともなかった。
貰うばかりでプレゼントを贈るという発想。
(何かちーちゃんも贈りたい!)
ちーちゃんはその場を急いで後にし、家へと戻った。
「お母さん、欲しいもの何かある!?」
「あらあら、急にどうしたのちーちゃん?」
「いーから、欲しいもの教えて!!」
シーレは困ったように、視線を斜め上へと泳がせ、うーんと唸った。
「そうね、お母さんもオンナだし、オシャレをしてみたいかしら」
「お母さんはいつもオシャレでキレイだよっ」
「あらあら、ありがとうね、ちーちゃん。
でもたまには都会で売っているようなアクセサリーを着けてみたり、シルクのお洋服、艶やかな靴とかも憧れるわね、うふふ」
「ふむふむ」
ちーちゃんは母の言葉を忘れないように、口の中で何度も唱えた。
翌日。
まだ夜が完全に明ける前。
鶏も寝ぼけまなこで、大きな声を出す気力もない時間帯。
ちーちゃんはお気に入りのポシェットを肩に掛け、こっそりと家を抜けだす。
向かうは魔王城。
昨日、通った道を再びなぞり、魔王の間へと至る。
さすがの魔王もこの時間帯は寝室でぐっすりお休みだ。
広間を通り抜け、大きな通路を我が庭かのように歩きまわる。
何度も忍び込んでは遊んだ城だ。
大抵の場所は頭の中で地図が出来上がっている。
今目指している場所は、転移装置。
各支部長が帰還用に利用しているものである。
世界約100箇所近くが登録されたそれは、一瞬で各地へ飛ぶことができる、超古代文明の遺跡物。
装置がある部屋の中に誰もいない事を確認し、ちーちゃんは中に潜りこむ。
「使い方分からないけど、確かこのボタンを押していたはず…」
ちーちゃんは装置側面に設置されている、青い大きなボタンを押す。
それと同時に転移装置はブブブと振動音を鳴らし薄青く発光する。
円筒上のその装置、大人が3人ほど入るスペースがある。
「確かこの中に入って」
キィィーンと高周波を発する装置はいよいよその力を放とうとしていた。
(お母さんにプレゼント、買ってきてあげるんだ!)
ちーちゃんは固い決意と共に、大きな光の中へと吸い込まれていった。
こうして、ちーちゃんのおでかけ旅は始まった。
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