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第1章 最果ての少女
街を探索しよう3
しおりを挟む「ちーちゃん、良かったら街を案内してあげようか?」
昼食を食べ終えた後、特にやることのないラックは、ちーちゃんとの仲を深めようと散歩へと誘った。
ここで敢えてアリスの名前を出さないのは、彼なりの処世術。
下手に突くと燃えあがってしまい、如何に手練れの商人と言えど、アリスの頑固さはめんどくさいと感じていた。
ちーちゃんを誘えば、アリスは当然のようについてくるのだから、最初から省いた方が楽なものだ。
「いいのっ!?
ちーちゃん、村しかしらないから色んなところ見てみたい!!」
「いろんなことに好奇心を持つのは良いことだよ、ちーちゃん。
では期待に応えて、この街の名所へと案内するよ!」
わーいと笑顔で喜ぶちーちゃんと、憮然とした表情のアリスを引き連れ、ラックは街の南へと向かった。
街はおおよそ円の形をしており、その直径は約5km程。
端から端まで歩くのは中々大変である。
街道は北へ伸びているため、外来客関連の施設は主に北へ集まっている。
そのため南に来るのは、住人若しくは、砂漠に点在する遺跡目当ての冒険者である。
「案外知られていないのですよ、南側っていうのは。
冒険者も素通りするだけですしね。
アリスさんも街の南にあるオアシスはご存じですよね?」
「馬鹿にするな。
オアシスの街トトリにある、湖を知らないものがどこにいる。」
「ええ、そうですね。
この砂漠にあって、ここを街足らしめているもの、オアシスです。
目の前に広がるトトリ湖こそ」
周囲約4kmの大きな湖。
この街の生命線である、知らぬ者がいるはずがない。
「わあー、おおきい。
村の近くの湖何かより、ずーーーっと大きいよ!」
「ちーちゃんの村の近くには湖があるのかい?」
「うん、ウロちゃんとよく遊ぶんだ!
ここだったらウロちゃんもたくさん遊べそう」
「そうだね、友達と一緒に来れるといいね」
ラックはウロちゃんと、ちーちゃんと同じような少女と想像したようだ。
実際は尾っぽの人凪ぎで街を滅ぼせるほどの蛇の怪物なのだが。
「この誰もが知るトトリ湖ですが、実は秘密があるのです」
「秘密?」
アリスは腕を組みながら、訝し気にラックを見る。
街に滞在して色々と見聞きしたアリスだが、湖に秘密があるなど聞いたことがなかった。
「アリスさんが、知らないのも無理はありません。
この街の中でも知っている人は、ごくわずかでしょう。」
「それをなぜ貴様が知っているのだ」
「まあまあ落ち着いてください。
私は旅商人です。
色々な場所で、様々な噂話を聞きます。
中には勿論、眉唾物の話もあります。
むしろそちらの方が多いでしょう。」
講義をする先生のような口調になり始めるラック。
説明にノリノリである。
「冒険者であるアリスさんもご存じの通り、周辺には遺跡が点在しています。
つまりここにはかつて文明があったという事です。
この街だけではありませんが、世界中にはたくさんの遺跡が残っており、ここもその一つ。
アリスさんは街近辺を探索しましたか?
遺跡は数あれど、小さなものばかりではありませんでしたか?
ええ、そうでしょう。
何せ遺跡の中心部は、何を隠そうこの湖の底に沈んでいるのですから!!」
両手をばっと広げ、説明しきった事に酷く興奮している様子のラック先生。
「…本当だとしたら、重要な情報ではないか。
仮にも商人であるお前が、なぜ簡単に話す?」
「それは簡単です。
事実だったところで、どうしようもないからです。
湖の底へどうやって潜ります?
まあ、何人か潜った方がいたらしいですが、水棲の魔物に食べられたそうです。
手が出しようがないものですし、情報としての価値はありません。
面白くはあるので、ネタ話にはなりますがね」
ふーんと、頷きながらちーちゃんとアリスは湖の底をのぞく。
深い深い青はやがて黒くなり、何も見えなくなる。
アリスは湖の底に取りこまれそうになり、少しだけぞっとした。
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