おいでよ、最果ての村!

星野大輔

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第1章 最果ての少女

その時みんなは3

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ラックは行商用の荷物を纏めに、宿屋へ戻っていたところであった。
露店商を営んでいるとはいえ、あくまで仮の姿のひとつ。
本業ではないため荷物はそれほど多くない。
それに主な商品は水晶。
リュック一つに収まる程度だ。

「とりあえず、枯れ井戸にでも隠れてるか。
 二日も待てば事態も収まっているだろう」

隣街に行くには砦という難所があるが、この騒動で魔族も痛手を負い、警備体制は手薄になるだろう。

ラックの技術を持ってすれば、たやすく抜けられよう。

しかしいまだに心残りなのはちーちゃんだ。

「ちっ、あいつだけでも探しにいくか」

それは大変危険な賭け。
だが、魔物の群に巻き込まれては無事では済むまい。
街も人も。

荒らされた街は人の死骸や魔物の糞尿で、数日と待たずに死病が蔓延する。
その前に街を出なければ、ラックといえど助かることはできない。

つまりいまちーちゃんを助けださないと、聖貨幣は当分の間、もしくは二度と手には入らない。

「ここは大博打だろう、オレ!
 あれが手には入れば野望へは一気に近づくんだ!
 まだ、20分は余裕もあるだろう」

ラックは荷物を放り投げると、再び街へと飛び出した。



魔物が来る前であれば、住民は北門から遠い南門にあつまっただろうが、今はどちらも危険。
中央寄りに人々は散在している。

街中の市民が集まっているため、喧騒が飛び交い人々は混乱している。

この中から一人の少女を探すのは至難の業。
ラックは高い建物に昇ると下を見下ろす。
多芸きわまるこの男の索敵は人並み以上。

たとえこれだけの人々がいても、見分けることが可能。

「おかしい、いないぞ」

こんな時にどこに姿をくらませてやがると、内心で舌打ちをしたその時。

街の南側に巨大な魔物が出現した。




「きゃーーー!」
「なんだあの化け物は!!」
「終わりだ、あれは世界の終わりだ」

人々は突如としてあらわれた巨大な蛇の魔物に恐慌した。
だがそれ以上にラックは驚いていた。

これだけ離れていても感じられる死の予感。
ラックの中の魔族の血が、あれの異常さを素早く感じ取っていた。

だが、そんな心配も杞憂におわる。

蛇の魔物は体を南側に向けると、巨大な閃光を放ち、押し寄せる魔物たちを一掃したのだ。

人々はその出来事に呆然とした。

街に広がる静寂の中ひとりの老人がぽつりといった。

「あれは神じゃ、この街を守ってくださる神様じゃ」
「そうだ、そうにちがいない」
「ありがとうございます、神様!」

徐々にその声は高まり、やがて街中に広がると人々は地面に這い蹲り、蛇に向けて頭を垂れた。



そうしていると数分も経たない内に蛇の魔物は湖の中へと姿を消した。

そうして、ようやくラックは緊張に固まった体を動かすことができた。

「くっ…はあはあ…なんだったんだ、あれは。
 本当にこの街の守り神なのか?」

それも納得なだけの力が感じられたのだから、彼らの発言も一蹴できない。

とにかく、わけもわからずこの街は救われた。

後にこの街に蛇神教というものが根付くことは、今はまだ誰も知らない。



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