おいでよ、最果ての村!

星野大輔

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第2章 彷徨う森

ハッセル・フォンの手記1

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162年4月3日

今朝の目覚めは最悪だった。
隣部屋のナッシュ夫婦の喧嘩の声で目が覚めた。
昨日は酔っぱらって帰ってきたせいで、耳栓をするのを忘れていたようだ。

思えばあれは今日という最悪の日を暗示していたのだろう。

一週間前、勅命が下った。
来たるべき戦争に備えて、近隣の魔物を掃討しろと。
勿論、正規軍にそんなことはやらせられないさ。

白羽の矢が立ったのは、俺たち燻り者の駐屯兵士団。

民間の警邏隊が設立されてからというもの、駐屯兵士団の出番はない。
最初の頃こそ仕事が楽になって喜んでいたものの、そのうち国から市民からも税金泥棒だと言われるようになり、すっかり日陰者となった。

仕方あるまい。
駐屯兵士団の数はそれほど多くない。
それに比べ警邏隊は10倍以上の人数を動員しているのだ。

まあ、いい。
いくら愚痴を書いた所で、事態が好転するわけではない。

王の命令で俺たち12名は、ヒラズミの森に集落を形成しているというゴブリン討伐へと向かった。
たった12名だぜ、正気を疑ったね。
これはもう死ねと言っているようなもんだ。

俺たちは街をうろつき、ごろつきや酔っぱらいを相手にする兵士。
魔物なんて相手にしたことがない。

それをいきなり20数匹いると言われている、魔物を倒せだとさ。



ふて腐れながらも俺たちはこの一週間準備を整えた。
怠ったら死が待っているからな、必死にもなるさ。

使いなれない武器を担ぎ、俺を先頭にヒラズミの森へと向かった。
2時間もかからなかっただろう。

森の入り口で俺たちは昼食を取り、国が設置した小屋に馬を繋いだ。
もしかしたら帰ってこれないかもしれない。
そんなつもりはまずないが、俺は餌をたくさんぶちまけておいた。

ヒラズミの森は閑散としていた。
冬が訪れようとしているのだ、木々もすっかり裸になっており、木枯らしが砂埃を巻き上げる。

ゴブリンの目撃情報があった箇所まで徒歩で半日。
下手をすれば明日になるだろう。

とにかく明るいうちに歩けるだけ歩こうと俺たちは話しあい決めた。

すっかり森に暗闇が訪れた頃。
目的の場所まであと5kmほどというところで野営を張ることにした。

夜が明ける前ならば、ゴブリンと言えど行動はにぶるだろうと考えた。
早めに寝て、早めに行動する。
実に健康的だ。


なんて気軽に考えていた自分を呪いたい。

この時もう少し進んでいれば、結果は違ったのか?
まぁ、今は考えても仕方がない。


ともかく目が覚めた時、俺たちは青々と苔むした深い森の中にいた。
枯れ木なんて一つも見えない。

へんてこな事態に俺たちは巻き込まれたことだけは、すぐに理解した。

やはりこの前教会でお布施をけちったのがいけなかったのかい、神様?

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