おいでよ、最果ての村!

星野大輔

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第2章 彷徨う森

古びたつるぎ2

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ケルベロスはちーちゃんを背中にのせたまま、物凄いスピードで聖獣へと近づく。
常人であれば風が通り抜けたとしか思えない速度。

これには聖獣と言えど、警戒せざるを得ない。

その体格差故に聖獣は小回りが利かない。
油断をすれば簡単に死角へと回りこまれてしまう。

「まだ何か企んでいるのか。
 先ほどの攻撃で分かったであろう、我に生半可な攻撃など通用せぬ。
 大人しくその実を返せば、痛みなく殺してやろう」
「いまはちーちゃんが鬼なんだから、返してほしかったら捕まえなきゃでしょ。
 もう、ちゃんと『るーる』わかってるの?」

この戦場に置いてひとり、未だ遊び気分のちーちゃん。

「ふっ、ならばこちらも攻撃させてもらおう!」

尻尾で周囲を大きく凪ぎ払う。
ケルベロスは直撃を免れたが、その風圧に大きく吹き飛ばされる。

「わーーーー、すごーーい♪」

大きく上空へと巻き上げられたケルベロス目がけ、聖獣は大きく口を開ける。
魔素が急速に集まっていく。

「消え去るがいい」

聖獣に一言とともに、魔力砲がはなたれる。
空中にいたケルベロスに避ける術はなく、その光に飲み込まれてしまった。

その様子を見ていたアリスは、思わず森の中から身を乗り出し叫んだ。

「ち、ちーーちゃん!!!」
「はーーーーーい」

ひょっこりと聖獣の背中から顔を覗かせるちーちゃん。

「……え?
 ちーちゃん、いつの間にそんなところにっ!?」
「ぬ?すばしっこいやつらめ」

聖獣も自らの背中にのっていることに気づく。

「嬢ちゃん、早く剣を抜いて戻ってくるのじゃ!!」

ちーちゃんは高い所が楽しいのか、ぶんぶんと手を振り続ける。

「おい、ちーちゃん!
 手を振るのはいいから、さっさと剣をぬけ!!」
「むー、しょうがないなあ」

もふもふの毛を「よいしょ、よいしょ」と言いながらよじ登る。
聖獣は何とか振り落とそうとするが、背中へ手が届かないため、身をよじるばかりだ。

そうこうしている内に、剣へとたどり着くちーちゃん。

「これかなー……よいしょっと」

すぽっと抜いたのは、何百年もの間放置されていたような、ぼろぼろの剣。
今にも折れてしまいそうな剣。

「それじゃあ、ケロちゃんもどろっか♪」
「わおん!」

ケルベロスの背中に飛び乗ると、一足飛びでアリスたちの元へと帰る。

「よくやったぞ、嬢ちゃん!」
「後は私たちに任せてくれ!」
「しかし、これが本当にあいつを傷つけることができるのか?
 ただの錆びた剣にしか見えないんだが」
「何を言うラック!
 あの聖獣に刺さっていたこの剣、きっと聖剣に違いない!!
 この剣の力を引き出すことができればきっと、あいつを倒せるに違いない!!」
「うむ、そうじゃの!
 少なくともあの背中に刺さっていたのは事実じゃ!!
 アリス殿の言う事もあながち間違いではなかろう!!」

そう言われてみても、やはり古びた剣にしか見えないラック。

実はその通り。
これはただの錆びた剣。
作られたその時から今の今まで、何の変哲もない普通の剣であった。


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