おいでよ、最果ての村!

星野大輔

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第2.5章 草原の詩

お祭り

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村の祭りは盛り上がっていた。
流石に都市の祭りとは違い、屋台などは出ていなかったが、テーブルの上には食べ物が陳列され自由に食べれるようになっていた。
異国の料理なのだろう、アリスはどれもなじみのないものばかりである。

村の最奥には小さな櫓が組まれ、そこには一人の青年が座っていた。
彼だけはそこから動くことなく、祭りを眺めている。

アリスは目線を動かしながら、村の様子を眺めていると杖をついた一人の老人が近づいてきた。

「ようこそ旅人の方々よ。
 私はこの村の村長をやっておるものです。
 何もない村ですがゆっくりしていって下され。」

好々爺といった様相の村長。
こちらを警戒する様子はない。
見る目が確かなのか、それとも人を疑うことがないだけなのかは分からない。

「せっかくの祭りの最中だというのに申し訳ない。
 私の名前はアリス、冒険者を生業としております。」
「ほうほう、冒険者でございますか。
 ではそちらの方も?」

村長はちらりとラックを見る。

「いや、俺は宝石商人をやってんだ。
 良かったら何か買っていきますか、村長さん?」
「ふーむ、まあ後で見せて下され。
 きょうは女性も少しは財布の紐が緩んでおろうしな。
 しかし、あなたも中々強そうですが」
「まあな、旅をしているんだ。
 それなりに身を守る術は、な」

それを聞くと村長は「ほーっほっほっほ」と笑い声をあげる。

「それは実に良かった。
 実は後でお二人に頼みたい事があるのです」
「頼みですか?」
「ええ。
 …もう少ししたら、祭りもひと段落します。
 その時にもう一度お話させてください。
 それまでは、料理しかありませんがお祭りを楽しんで下され」




ちーちゃんはアリスたちをよそに、お祭りを楽しんでいた。
お口いっぱいに料理を頬張る姿に、村の人々は微笑ましく見守っている。

「もぐもぐ、おいしーねケロちゃん!」
「がうぅん」

ケロちゃんもまた、自分の頭ほどありそうな肉の塊を無心に貪っていた。
そんな二人の姿を遠くから眺める者がいた。
背は120cmくらいで、ちーちゃんよりも少し低い。
おかっぱに切りそろえられた前髪が、気弱そうなその少年を実によくあらわしている。

少年は建物の物陰に隠れながら、おどおどとしながらちーちゃんを目で追っている。

「ぷっはーー……ん?」

お腹を満たして料理から気が逸れたちーちゃんは、やっと投げかけられる視線に気付いた。
人見知りという言葉は辞書にありませんと言わんばかりに人懐っこいちーちゃんは、てくてくとその少年に近づいていった。

彼の目の前まで来ると、首をすこし傾げ語りかける。

「どうしたの?」
「えっ、あっ、あの……ごめんなさいっ!!!」

少年は顔を赤くしてその場から走り去り、人混みの中へ姿を消していった。

「?」

ちーちゃんは取り残され、またもや首をこてんと傾げた。


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